口にカニの足をくわえ、女装した状態で発見された遺体──。これは創作にしても突飛すぎる、と感じるかもしれませんが、れっきとした『名探偵コナン』のアニメ本編に登場するシーンです。
推理アニメの金字塔として知られる同作には、アニメオリジナル(アニオリ)回と呼ばれるエピソードが定期的に放送されます。中には、登場キャラクターのクセの強さ、前代未聞の犯行動機、常識を超えたシナリオが融合し、「これはギャグマンガなのか?」と目を疑うような回も少なくありません。そんな強烈なインパクトを残した4つのエピソードを振り返ってみます。
◆遺体の「姿」が衝撃的すぎる……第961話「グランピング怪事件」
『コナン』史上1、2を争うほどの衝撃的な被害者の姿が登場するのが、この第961話です。遺体は口にカニの足をくわえ、女装し、顔には幼稚な落書きのようなメイクが施された状態で発見されます。
なぜそんな姿になってしまったのか。グランピングに同行していた3人がそれぞれ、罪を他者になすりつけようと遺体に手を加えたためです。「シェフの犯行に見せるためにカニを口に入れよう」「メイクアップアーティストの仕業に見せるために顔にメイクをしよう」「妻の犯行にするためにメモを握らせよう」──その発想の幼稚さに、コナンが心の中で「人1人亡くなってるんだぞ」と視聴者を代弁するかのようにツッコむ場面は、妙なリアリティすらただよいます。
犯人は被害者と不倫関係にあったメイクアップアーティストの20代女性。動機はアレルギーのある被害者にカニを顔面へ投げつけ、破局させられたことへの逆恨みでした。「私たちの仲を引き裂いたカニ」という言葉が犯人の口から飛び出す場面は、もはやコメディの領域です。犯行方法もカニ入りクッキーを食べさせてアナフィラキシーショックを起こさせるという、突飛なものでした。
事件は解決するものの、被害者がなぜ女装していたのかという疑問は最後まで明かされないまま幕を閉じます。タイトル通り、真の意味での「怪事件」といえるでしょう。
◆シンクいっぱいのアンコに沈む被害者……第1028話「ケーキを愛する女のバラード」
「グランピング怪事件」と並ぶほどの衝撃を誇るのが、この第1028話です。被害者はシンクいっぱいのアンコに沈められ窒息死するという、前代未聞の状況で発見されます。
犯人は社長秘書の女性。動機は「洋菓子店の社長が和菓子を作ろうとした」ことが許せなかったという、強烈なこだわりから生まれたものでした。がれきの下敷きになっても無傷の副社長夫人、眠らされた小五郎が犯人に倒れ掛かりながらワルツを踊って推理ショーを繰り広げる展開など、ツッコミどころは枚挙にいとまがありません。
追い詰められた犯人がコナンたちの頭を洋菓子に見立てて幻視し始めるシーンで、視聴者にとどめを刺してきます。放送後には老舗和菓子メーカーの公式SNSアカウントが「シンクいっぱいのアンコはシンクが歪む危険がある」「柔らかい状態のアンコで溺れるならかなり熱いはず」とプロ目線の解説を投稿。業界にまで反響が広がった稀有な回です。
◆「オムライスの死体を見た」という証言から始まる事件……第1089話「天才レストラン」
謎の老人が放つ「オムライスの死体を見た」という一言で幕を開けるこの回は、放送時にX(旧Twitter)のトレンドワードに「オムライスの死体」が入るほどの反響を巻き起こしました。
老人の正体はレストラン「聚楽大」のシェフ。かつてコナンが「お子様ランチはしょせんお子様ランチ」と批判して食べなかったことで、シェフの腕が落ちて廃業になったという因縁を持ちます。復讐を企てるシェフはお子様ランチのかぶりものを身に付け、スタッフたちもスプーンのかぶりものを着用するという視覚的な強烈さも健在です。
そして衝撃の結末として、すべてがコナンの見ていた夢だったと明かされます。「風邪をひいたときに見る夢のようだった」という感想がぴたりとはまる内容で、コナン史上でも屈指のカオス回として語り継がれています。
◆1話だけでは惜しすぎる名キャラ……第797話「夢みる乙女の迷推理」
強烈な個性で視聴者の記憶に刻まれたのが、この回に登場する中居芙奈子(通称、フナチ)です。早口で妄想癖のある彼女は、好きな乙女ゲーのキャラクターに似ているという理由だけで行方不明のフリーターを探すよう依頼してきます。
捜査では依頼人を宝石強盗と思い込み、乙女ゲーの世界観で一人芝居を始めるなど暴走ぶりを発揮。コナンのことを「江戸川様」と呼ぶ独特のキャラクター性も印象的です。また、作中で初めて「死亡フラグ」という言葉を発したキャラクターとしても記録されています。
1話限りの登場にもかかわらず、放送後も「再登場してほしい」という声が多数上がりました。その存在感は、メインキャラクターに引けを取らないほどです。
──こうしたカオスなアニオリ回の脚本を手掛けるのは、浦沢義雄さんか大和屋暁さんであることが多いです。浦沢さんは『ボボボーボ・ボーボボ』、大和屋さんは『銀魂』などの脚本で知られており、どちらもギャグ的な展開を得意とする書き手です。
推理ものでありながら、どこかギャグマンガのような空気がただようアニオリ回──その独特の魅力は、こうした脚本家の個性があってこそ生まれるものかもしれません。
〈文/秋山緑〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「名探偵コナン」第96巻(出版社:小学館)』

