色彩や緩急のテンポ、ここぞで繰り出されるダイナミックなアニメーションなど、毎週毎週その出来に驚かされる『ダンダダン』。そんな流れで迎えた第4話「ターボババアをぶっ飛ばそう」ではここぞの盛り上がりのシーンで「ウィリアム・テル」序曲や「天国と地獄」としても知られる『地獄のオルフェ』という劇の劇中曲のアレンジ版が挿入されていました。

 どちらも運動会などでよく使われる曲ということで、主人公が駆け出す一番のクライマックスに持ってきたところが冴えたシーンとなっていました。

 実は今回のようにアニメーションにクラシック曲を使う例は、かなり古い作品まで遡れます。ある種、そんな歴史をも蘇らせる体験となっていたのではないでしょうか。果たしてアニメーションとクラシック曲はどんな歩みを経ているのでしょうか。

◆アニメーションとクラシックの交錯には長い歴史アリ!

 改めてアニメーションとクラシック音楽の交わりを振り返ると、実は1900年代初頭のアニメーションの歴史における最初期にまで遡れます。

 1900〜1920年頃はまだサイレント映画の時代で、アニメーションに限らず基本的に“映像に音声が付属していない”時代でした。かといって、当時の人はまったく音のしない映像を楽しんでいたわけではありません。

 講師や弁士、役者などが映像に合わせて解説や台詞を現場で声を当てたり、当時は現在のような“映画館”という概念がなく、映画が劇場の一演目の扱いだったので、劇場の所有する楽器を用いてBGMが演奏されました。

 当時は劇場や演奏者ごとの裁量で場面に合わせて流す音楽が決められていくことが多く、その際に重宝されたのが著作権のかかっていないクラシックの名曲たちであり、活発に引用やアレンジが加えられたと言います。

 その後、サイレント映画の時代から、音声が付属する映画の時代に突入していくのですが、アニメーションにも同じように音声が付いてくるようになります。結果的にクラシック曲が重宝された時代の直後ということで、その音声も自然とそういったクラシック音楽が引き続きその時代に活躍しました。

 その傾向はディズニー映画の最初期に生まれたシリー・シンフォニーシリーズや日本でも馴染み深い『トムとジェリー』シリーズなどでも見られます。

◆日本にも影響を与えていくクラシック曲との組み合わせ

 これらの海外アニメーションの傾向は日本にも影響を与えていきます。

 『鉄腕アトム』を始め、日本のTVアニメーションの礎を築いた手塚治虫氏がディズニーのアニメーションに影響を受けたのは有名な話。海外アニメーションの音楽の使い方も影響を与えていて、1965年放送の本格的なカラーシリーズとして制作された『ジャングル大帝』ではクラシック調の音楽が使われています。

 次第にオーケストラを用いた挿入曲が使われることは『スター・ウォーズ』を始めSF映画の流行と、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』といった対象年齢を高めたSF作品の流行により定番となっていきます。アニメーションに限らず『ウルトラセブン』などの特撮作品などでも引用され、“厳かな演出”としてクラシックの色は日本にも根付いていきます。

 その最たる例として生まれたのが『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズでしょう。作中では印象的な場面でバッハやベートーヴェン、ヘンデルなどのクラシック曲が引用されています。この引用は宗教的な雰囲気なども作品にもたらす働きをしました。

◆現代の日本アニメではクラシック曲がこう使われている!

 現在日本のアニメーションとクラシック曲の関係はどうなっているのでしょう。

 かつては厳かな印象を与える意図が強かったクラシック曲たちですが、別の方向性もどんどん登場しています。

 たとえば今回の『ダンダダン』と同様に「ウィリアム・テル」序曲や「天国と地獄」が登場したTVアニメがあります。

 それが2013年放送のTVアニメ『キルラキル』。第10話〜第11話で繰り広げられる生徒会四天王の一人・蛇崩乃音との対決で、巨大なアンプを備えた衣装から攻撃と共に音楽が繰り出される仕組みとなっており、BGMというよりもそのまま劇中の効果音的に前述のクラシック曲が流れます。やはり盛り上がる曲としては定番の2曲と言えます。

 またTVアニメ『ワンピース』のアラバスタ編クライマックスである第126話「越えていく!アラバスタに雨が降る!」です。このエピソードは言わずと知れた当時の宿敵サー・クロコダイルとの戦いが決着を迎える回です。

 ルフィに蹴り上げられたクロコダイルが反撃を繰り出すものの、ルフィが渾身の新技「ゴムゴムの暴風雨(ストーム)」で迎え撃ち、クロコダイルを地下から地上へと殴り飛ばす場面でドヴォルザークの作曲した交響曲第9番こと「新世界より」が流れます。長かったバロックワークスの決着を見せつける厳かな印象を与えてくれる名演出となっていました。SF作品だけでなく肉弾戦を伴うバトルアニメのクライマックスにも引用された例です。

 どんどん自由な使われ方をされ始めているクラシックの名曲たち。こういった古典音楽は既に著作権の保護期間が切れていることもあり、今後もどんどん増えていくでしょう。

 どんな場面で使われているのか。どんなアレンジが加わっているのか。そういった相違の部分を掘り下げていったり、元々の曲の出自を調べていくと新たな発見ができるかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteではアニメ映画ラブレターマガジンを配信中。Twitter⇒@nejimakikoibumi

※サムネイル画像:https://anime-dandadan.com/story/より


TVアニメ『ダンダダン』
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会

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