TVアニメ『ダンダダン』を制作しているアニメーション制作会社・サイエンスSARUのSNSアカウントに注目です。

 昨今、アニメーション制作会社やアニメーションの公式SNSアカウントでは、原画や設定資料といった制作過程で生まれた素材などが公開されることが多くなってきましたが、サイエンスSARUのアカウントでは珍しい「カラースクリプト」の素材が公開されています。

 実はこの「カラースクリプト」という素材はどんなアニメーションでも制作されるものではありません。むしろ日本のアニメでは近年になってきて利用されるようになってきた役職であり、工程であり素材となっています。

◆「カラースクリプト」ってなんだ? 実は海外の方が主流?

「カラースクリプト」とはなんなのか。名称の通り意味を受け取るのであれば“カラー(色)”の“スクリプト(台本)”ということですが、まさにその通りで本編で使われる色に対して流れを指定するような作業者や指示や指標となる素材を用意する作業のことをさします。 

 意外にも、日本では必ずしも「カラースクリプト」は起用されるわけではありません。日本のアニメーションの制作過程では、キャラクターデザインやストーリーが決まった段階で「色彩設計」という色の決定権を持つ責任者が、どのキャラクターに何色を使うのかや、想定されるシーンごとに影やハイライトがどういった色合いで入るのかをあらかじめ決定して、その指示通りに着色を担当する人が仕上げていきます。

「カラースクリプト」を起用した場合は、これらの作業にさらに踏み込んで、シーンごとの色合いや全体を通して見たときのバランスが合ってるのか。もっと効果的に見せる色合いはないのか。観ている人の気持ちがどう動くのか。そういった色の観点からできることを全体を俯瞰して見て、練り上げていくことになります。この場面はこの色合いが良いというガイドラインを示すことでより映像が観やすくなったり、感動を生みやすくなります。

 海外の長編アニメーション映画ではよく「カラースクリプト」が起用されます。

 たとえば、『トイ・ストーリー』で知られるアニメーション制作会社ピクサーでは、必ず「カラースクリプト」が用意されます。この「カラースクリプト」があるおかげで、悲しいシーンでは沈んだ色や影を落とすような光の当て方をしたり、目立って欲しい場面には作品の中で“そこだけ”特徴的な色使いをして印象付けたりといった演出ができます。

◆『ダンダダン』で分かる特徴的な色使いの実例とは?

 実際に「カラースクリプト」を起用している『ダンダダン』ではどんな効果が生まれているのか? その恩恵は第1話「それって恋のはじまりじゃんよ」からはっきりと分かります。

 日常のパートでこそ、一般的なアニメーションと同様に色彩が割り振られているのですが、クライマックスのセルポ星人やターボババアが登場したタイミングからはっきりと色使いに変化があります。

 宇宙人サイドで囚われの身となったモモの場面では青、幽霊サイドで怪異に襲われたオカルンは赤、とはっきりとイメージカラーが分けられています。

 何か異変が起きていることがはっきりと分かるだけでなく、今はどちらの場面の出来事なのかが直感的に分かるメリットがあります。しかも、ターボババアに取り憑かれたオカルンが、セルポ星人の宇宙船に転移してくるというクライマックスでは、真っ青だった画面に鮮烈な赤色が割って入ってくるようなビジュアルになっていて、色彩的にも盛り上がりを感じさせるように出来ています。

 こういった仕掛けがエピソードごとに用意されていて、第2話「それって宇宙人じゃね」では第1話とはまた違った怪異が敵だと分かるようにモノトーンな色合いで戦いを描いたり、第6話「ヤベー女がきた」ではアクロバティックさらさらを鮮烈なピンクのイメージカラーで表現。第7話「優しい世界へ」では黒くて暗い陰鬱とした冒頭から終盤では一転して白くて明るい色合いで、希望的なカタルシスを生んだり──とはっきりと「カラースクリプト」の活躍が分かる演出が目白押しになっています。

 今後のエピソードでも『ダンダダン』がどんな色合いを使っているのか気にしてみると、工夫が見つかったり、ねらいが見えてくるでしょう。もちろん『ダンダダン』以外でもエンドクレジットで「カラースクリプト」の欄を見つけたら、場面ごとの変化など色使いにも注目してもよいかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteではアニメ映画ラブレターマガジンを配信中。Twitter⇒@nejimakikoibumi

※サムネイル画像:https://anime-dandadan.com/story/ep07/より


TVアニメ『ダンダダン』
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会

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