今年のドラえもん映画がまた一つ新しい夢を見せてくれました。3月7日から公開が始まった『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』では、ドラえもんやのび太たちが絵画の世界に入り込む物語となっています。
『ドラえもん』長編シリーズといえば原作者の藤子・F・不二雄先生が描く、現実世界とも密接にリンクしたSF要素も魅力の一つです。
実は今年の『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』も“絵の世界に入る”という仕掛けのほかにも、現実世界のできごととも通じる要素がいくつか盛り込まれています。
◆“アートリアブルー”って実際はどんな色なのか?
映画の中で印象的なワードとして何度も登場するのが“アートリアブルー”という色です。
今年の映画の舞台となるアートリア城を描いたとされる絵画に使われていた青色をさしているのですが、ブルーと付いている通り青色がベースの色ではありつつ、見る角度によって輝きながら色が変化し赤色や紫色に見えたりするという特殊な色です。
この色を作り出せる鉱石は現代でも見つけられていないとして、作中ではこの色を作り出せる石には数百億円の価値があるとされます。果たしてこのアートリアブルーとは存在するのでしょうか。
結論からいって、このアートリアブルーという色は存在しません。この映画のために作られた架空の色です。ただし、完全に架空の存在とも言い切れない理由があります。というのも、アートリアブルーと特徴が似ている近い存在の「ウルトラマリン」という色があります。ラピスラズリという青金石を主成分とした鉱物を原料として作られる色で、当時はヨーロッパで産出されない鉱石だったこともあり、高価な金額で取引されていました。
アートリアブルーの扱いが近い存在の色は存在したとして、アートリアブルーのような見る角度によって変わって見える色はあるのでしょうか。
寺本幸代監督は、映画パンフレット内で見る角度によって色が変わる折り紙の色彩から想像していると語っています。
株式会社カクワがオリエステルおりがみ®︎という一般的な素材とは違った水に強く光沢のある素材のおりがみを販売していますが、そのシリーズの中にまさに見る角度によって色や輝きが変わる“ホログラムタイプ”があります。特徴などから思うに、アートリアブルーの色彩はこういった特殊な素材の光沢にもっとも近いのでしょう。
◆アートリア広告のモデルとなった国は存在する?
もう一つ、『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』の大きなウソとして登場するのが舞台となっている“アートリア公国”です。
現実世界ではアートリア公国という国があったという話は存在しません。ただ、作中では失われた文明がかつて存在していた証拠としてクノッソス遺跡やトロイ遺跡といった遺跡を例にあげるシーンが存在します。これらは“実在する”遺跡で実際にこれらの遺跡の発見で文明の存在が明らかになりました。
また、このアートリア広告のモデルがイタリアであることは実際にロケハンに向かったことなども明らかにされています。
実際にイタリア周辺ではポンペイをはじめとした古代都市が火山の噴火によって滅亡したとされます。もしかしたらまだ現代では見つかっていない滅亡した国や都市、文明があるかもしれない──そんなロマンを『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』は携えた映画なのです。
『ドラえもん』の凄まじいところはこういったウソが必ずしもファンタジーに終わらないことにあります。
過去には『映画ドラえもん のび太の大魔境』(1982)ではまだ見つかっていない遺跡が隠された“ヘビースモーカーズフォレスト”と呼ばれるアフリカの架空の森が登場しました。上空が雲に覆われて人工衛星では発見されなかったとされる遺跡が舞台として登場します。しかし、アフリカではないものの、アジアのカンボジアでは、映画の公開から30年以上を経た2013年にレーザーパルスを用いた新技術でジャングルの木々に覆われた未発見の遺跡を見つけることに成功しています。
こういったニュースを見ると、現在進行形で発達した科学が未知の存在を明らかにしている“ドラえもん”のような事態が現実に起こっているのだと痛感します。
今でこそアートリア公国は架空の存在ですが、芸術に富みながらも火山の噴火に埋もれてしまった未知の文明と似た前例があるだけに、科学の発達によって新たに発見される日が来てもおかしくはないでしょう。ドラえもんが体験したできごとが“絵空事”じゃなくなることはあり得るのです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi