『ドラえもん』にたびたび登場する「裏山」は、のび太たちが自然と触れ合える貴重な場所ですが、数あるエピソードの中にはホラーさながらの恐怖回があります。豊かな自然とのどかな雰囲気は一変し、登場人物全員が身の危険にさらされる展開まで……。

◆裏山がサバイバル場と化す…… ──「のび太救出決死探検隊」 

 「自然の恐怖」がリアルに描かれていたのが、コミックス22巻に掲載されている「のび太救出決死探検隊」です。

 ある日、スモールライトで小さくなり、ラジコン飛行機に乗って遊んでいたのび太は、エンジンの不調で裏山に墜落してしまいます。帰ってこないのび太を心配したドラえもんは、退屈していたジャイアンやスネ夫、しずかちゃんとともに「ガリバートンネル」で体を小さくし、冒険気分でのび太の救出に向かうことに。

 ところが、途中でタケコプターなどの便利なひみつ道具を置いてきてしまったため、彼らは困難に直面します。体を使って段差をよじ登ったり、ミミズやトカゲから全力で逃げたりと、危険と苦労が続きます。

 終盤には、ドラえもんが大の苦手とするネズミに遭遇して気絶し、追いかけられた挙げ句に断崖から落ちてしまうなど、気づけば命がけのサバイバルのような展開に……。

 最後は命からがら、何とかのび太を救出することに成功し、5人は乗ってきたラジコン飛行機に乗って脱出できたのでした。

 途中で遭遇するミミズやトカゲ、ネズミの姿はリアルそのもので、『ドラえもん』でなくともその迫力に恐怖すること間違いなしです。

 都会では裏山のように気軽に自然に触れられる場所も少なくなってきていますが、「のび太救出決死探検隊」は、あらためて自然の貴重さや偉大さだけでなく、恐ろしさを感じさせられるエピソードだったといえるでしょう。

◆石にされた先生の姿が、そして…… 『ドラえもん』屈指のホラー回──「ゴルゴンの首」

 『ドラえもん』の数あるエピソードの中でも、屈指のホラー回といえるのがコミックス20巻の「ゴルゴンの首」です。

 学校でしょっちゅう廊下に立たされるのび太は、足が疲れない道具をドラえもんに頼みます。そこで出てきたのが「ゴルゴンの首」でした。

 「ゴルゴンの首」は、目から出した光線で筋肉をこわばらせ、石のようにしてしまうひみつ道具で、見たものを石に変えてしまうという「ゴルゴン3姉妹の“メデューサ”」の伝説が元ネタと思われます。

 この「ゴルゴンの首」は、人を石にする際「ウオーン」と奇妙な声を発し、見た目はメデューサを模してか、古代の石像から蛇のようなものが生えており、非常に不気味です。

 また、まるで意志を持っているかのように自ら這いずり回り、近づいてきた人を瞬時に石にしてしまうという、何とも恐ろしいひみつ道具でした。

 翌日、のび太は「ゴルゴンの首」を学校でうまく使いこなすも、タケコプターで家に帰る際にうっかり裏山に落としてしまいます。

 のび太はドラえもんとともに慌てて裏山へ捜索に向かいますが、そこには既に石にされた先生の姿が……。その後も、空を飛んでいる鳥、さらにはドラえもんまでもが石になるという恐ろしい展開が続きます。

 1人ではどうしようもなくなったのび太は、ジャイアンとスネ夫に助けを求め、2人を連れて再び裏山へ入りますが、それでもまた1人、また1人と石にされていき、窮地に立たされます。

 最終的には、木の上で石になったジャイアンが、偶然にも「ゴルゴンの首」の上に落ちたことで、事態は収束することになりますが、もしのび太まで石にされてしまっていたら、いったいどうなっていたのでしょうか……? 考えるだけでも恐ろしいエピソードです。

◆裏山を愛しすぎたのび太は、危うく世捨て人になりそうに!? ──「森は生きている」

 現代社会に生きる人間として、“ある意味恐ろしい回”だったのが、コミックス26巻の「森は生きている」です。

 嫌なことがあると裏山ですごしていたのび太は、ポイ捨てされたゴミを片付けるなど、思いやりのある行動をとっていました。そんなのび太に感心したドラえもんは、裏山とのび太が心を通わせることができるひみつ道具「心の土」を出してあげます。

 「心の土」の効果により、のび太が裏山に来ると、山はのび太のために木の葉でベッドを作ったり、おやつを落としたりして歓迎します。その結果、裏山はのび太にとってさらに快適な場所になっていきました。

 ところが、それが裏目に出て、のび太はそれ以降ますます裏山に籠るようになり、ドラえもんや両親の忠告も聞かず、ついには学校にも行かずに裏山でずっと暮らすことを決意してしまいました。

 裏山は「のび太をこれ以上近づけないでほしい」というドラえもんの頼みを聞き入れ、最終的にのび太を無理やり山から追い出すことに。裏山としては、のび太の将来を思っての苦渋の決断だったことでしょう。

 メンタルバランスを崩し、学校や会社に行けない人が続出している現代社会。「森は生きている」は、実生活の嫌なことから目を背け、目の前にある快適で楽しい生活を選んでしまうのび太の気持ち、そして彼の将来を考えてあえてのび太を追い出した裏山の気持ちなど、現代社会と通ずる点が多い回だといえます。

 特に、ドラえもんがのび太に言った「こんなことつづけてたらきみはだめになっちゃう!!」というセリフは、連載当時にも増して、現代の学生や若い現役世代には“刺さる”かもしれません。

 

 ──ほのぼのした日常に、夢のあるひみつ道具が多く登場する『ドラえもん』ですが、使い方次第では、身を滅ぼすことにもなりかねないことを痛感するホラーエピソードも存在します。

 もしかすると、裏山にまつわるホラーエピソードには「夢を実現するためには、楽な道などない」という教訓が込められているのかもしれません。

〈文/lite4s〉

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「ドラえもん」第13巻(出版社:小学館)』

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