魔法少女アニメの中でも異彩を放つ『おジャ魔女どれみ』シリーズは、実はアニメ制作にあたってさまざまな苦労があったことがプロデューサーの口から明かされています。

 たとえば、今ではすっかり耳なじみとなった主人公・どれみの名前も、当初はまったく違う名前だったそうです。

◆当初のタイトルは『おジャ魔女おんぷ』だった──なぜ変更することに?

 2024年5月、アニメ放送開始から25年の節目に、『おジャ魔女どれみ』のプロデューサーである関弘美さんが、『アニメイトタイムズ』のインタビュー記事で、アニメ制作の裏話を明かしています。

 関弘美さんによると、当初は子供が好きな音楽を主軸にしようと考えており、主人公の名前と番組名には「おんぷ」が使われる予定だったそうです。

 しかし、「おんぷ」は商標登録されていたため、タイトルに使えなかったといいます。

 そこで、商標登録されていなかった「どれみ」に急遽主人公の名前とタイトルを変更することになりました。

「おんぷ」という名前は、のちにどれみのライバル的存在となる「瀬川おんぷ」に付けられています。

飛鳥ももこのモデルは超人気アーティスト?──文化の違いを認め合うために……

 同じインタビューの中で、関弘美さんはメインキャラの1人である「飛鳥ももこ」のモデルは宇多田ヒカルさんだと明かしています。

 ももこは2001年放送の『も~っと!おジャ魔女どれみ』から登場するキャラクターです。アニメを放送する1年ほど前、構想を練っていたとき、関弘美さんは偶然すれ違った小学生が宇多田ヒカルさんの新曲について話しているのを耳にしました。

 関弘美さんは、この出来事をヒントに、新しいキャラクターを思いついたそうです。

 アメリカに長年住んでいた帰国子女で、初登場時日本語があまり話せなかったももこの登場により、「文化の違う人とのコミュニケーションを織り込むことができた」と明かしています。

 思ったことを何でもズバズバ言う性格のももこが、空気を読んで話を合わせるどれみたちと衝突するシーンは多くありました。

 たとえば、『も~っと!おジャ魔女どれみ』第3話「大キライ!でも友だちになりたい!」では、初めて卵を割り失敗したはづきに対し、ももこは「それならそうと先に言ってよ。卵も割れないなんて信じられないわ」と冷たく言い放つシーンがあります。

 どれみは「初めてだもん、仕方ないよね」と優しい言葉をかけますが、ももこは「はづきちゃん、ここはいいから店の中でも掃除してて」と無表情で告げ、とうとうはづきを泣かせてしまいました。

 さらに、固い板チョコを包丁で切ることに苦戦していたおんぷに対しても、ももこは「固いものを切るのはこうやるのよ。常識でしょ?」と見下すような発言をしてしまい、おんぷを怒らせてしまいます。

 あいこが日本とアメリカの文化の違いを説明したことで、ももこは2人と和解できました。

◆関先生の秀逸なキャラデザ──「あのドラマ」の主人公をモデルに?

 どれみたちの担任の関先生は、プロデューサーの関弘美さんの名前から取ったそうです。

 ただし、関弘美さんは、関先生のルックスは自分に似せないようにキャラクターデザインを担当していた馬越嘉彦さんに指示していたとのこと。

 当時人気だったドラマ『ショムニ』で女優の江角マキコさんが演じていた坪井千夏をモデルに、関先生のキャラクターデザインを依頼しました。

 関先生は、見た目だけでなく、低音ボイスでハキハキと話す様も『ショムニ』の坪井千夏に似ています。

◆どれみたちと魔法の関係──なぜ敵が登場しないのか?

 女の子たちが変身するアニメでは、敵の組織が街などを襲い、主人公たちと華麗に戦うバトルシーンが描かれるのが一般的。

 しかし、『おジャ魔女どれみ』には敵が登場しません。その理由は、2000年に発売された『AX BOOK おジャ魔女どれみ1』(出版社:ソニー・ミュージックソリューションズ)で解説されています。

『おジャ魔女どれみ』は魔法少女アニメであるものの、ヒロイン路線よりも、どれみたち成長を重視した物語です。

 作中では、魔法は決して万能ではありません。都合良くは使えないため、かえって不便に思えることさえあります。

 とくに、死んだ人を生き返らせたり、ケガや病気を治したりすることはできません。人の気持ちを操ることもタブーとされ、実行すると重いペナルティが課せられます。

  魔法を使うことに疑問を感じて魔女を辞めた者や、魔法を捨てて人間として生きることを選んだ者、人間と恋に落ちるも長命な魔女と短命な人間との圧倒的な差に悩んだ者もいるなど、さまざまな葛藤が描かれます。

 TVアニメシリーズ後期では、魔法がなくても成り立つようなエピソードや魔法を一切使わないエピソードまで制作されました。

 どれみたちは、敵と戦うのではなく、常に自分や他人の悩みに真摯に向きあってきたといえます。

 魔法は誰かを助けるためや背中を押すために使われ、そこにはいつも「誰かを思いやる気持ちの大切さ」が込められていたのです。

 

 ──『おジャ魔女どれみ』は魔法を扱いますが、バトルよりも主人公たちの内面の成長を中心として描かれています。

 困っている人がいれば、見返りを求めずに優しく手を差し伸べる主人公たちの姿が、多くの人の支持を集めたのでしょう。

〈文/花束ひよこ〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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