『ドラゴンボール』の孫悟空は少年時代、尻尾がトレードマークのようなものでしたが、気づいたときにはその尻尾もなく普通の人間として描かれていました。これにはある裏話が存在し、実は悟空の初期デザインは今とは大きくかけ離れており、紆余曲折を経て今の悟空が誕生したといいます。
◆編集者の助言が生んだ悟空のデザイン秘話
1995年に集英社から出版された『DRAGON BALL大全集 5: 鳥山明ワールド』で、鳥山明先生は悟空の初期構想について語っています。
鳥山先生いわく、悟空は当初、人間の要素を一切持たない「完全な猿」として描かれる予定だったというのです。その後、編集者からの助言を受けて、現在のような「人型の少年+尻尾」というデザインに変更されました。
なぜ悟空は「完全な猿」から「人型の少年」へと変わったのでしょうか? 鳥山先生は、2016年1月に出版された『30th Anniversaryドラゴンボール超史集―SUPER HISTORY BOOK―』(出版社:集英社)でその理由を明かしています。
鳥山先生には、キャラクター作りに一貫したこだわりがあったそうです。それは「最初は間抜けなやつが、実はめちゃくちゃ強いっていうのが好き」という考え方です。カンフー映画で、ガリガリだったおじいさんが実は武術の達人だったりする、あのギャップが好きだったといいます。
そのこだわりから生まれたのが「弱々しく地味なキャラが強くなった方が面白い」という発想でした。しかし、完全な猿では強そうに見えすぎてしまいます。そこで鳥山先生は「色々考えて人間にした」といいます。
ところが、人間の少年にしたところ、担当編集者の鳥嶋和彦氏から「何か個性的なものが必要だ」と指摘を受けます。そこで追加されたのが、悟空のトレードマークである「尻尾」でした。
ですが、この尻尾ものちに削除されることになります。理由は戦闘の邪魔になったからではありません。鳥山先生がもっとも悩んだのは「彼がどうやってズボンを履くのか」という問題だったのです。
「ズボンに穴が開いてるのかな? 尻尾を先に通してからズボンを履くのかな?」と、物事の動きばかり考えてしまう鳥山先生にとって、尻尾は「本当に面倒」な存在だったそうです。「それで、あの忌々しいものを処分したくなって…結局、処分しちゃいました」と語っています。
──こうした試行錯誤を経て、今の孫悟空が誕生しました。「完全な猿」から始まり、編集者との対話を重ね、作画上の現実的な問題とも格闘しながら世界的キャラクターは生まれたのです。
〈文/コージ〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「ドラゴンボール」第42巻(出版社:集英社)』


