亀仙人(武天老師)と同門であり、悪人として知られる鶴仙人ですが、実は亀仙人に勝るとも劣らない「技」をいくつも発明しており、称えられるべき功績がありながらも評価が低く、不遇の最期を迎えています。
◆当たり前になった「舞空術」は鶴仙流だった
サイヤ人の地球襲来から、もはや習得が必須の技となった「舞空術」ですが、悟空の少年時代は非常に珍しく鶴仙流独自の技でした。
開発したのは鶴仙人で、第22回天下一武道会で餃子(チャオズ)が空中にプカプカと浮いている様子を見た亀仙流の悟空たちは衝撃を受けていました。
その後の第23回天下一武道会でマジュニア(ピッコロ)と戦ったクリリンや悟空が土壇場で舞空術を披露し、そこからは修行を通して亀仙流の戦士たちも次々に習得。気がつけば「ナメック星編」ではスタンダードな能力となっていました。
しかし、まぎれもなく源流は鶴仙流であり、気をコントロールすることで宙に浮き、空を自由自在に飛べるという、その後の戦いには欠かせない戦士の必須技を発明したのは鶴仙人でした。
もし鶴仙人がいなければ、フリーザはおろか、ベジータ・ナッパ戦でもさらなる苦戦を強いられたことでしょう。
ちなみに、悟空は舞空術を初披露したマジュニア戦後、ラディッツ襲来時にも舞空術でなく筋斗雲で移動しており、死後に界王星へ向かう蛇の道でも最初こそ舞空術を使っていたものの、途中で走っていたことから「悟空は当時、舞空術が苦手だったのでは?」という考察もSNSで飛び交っています。
◆何度も悟空たちの窮地を救った「太陽拳」も鶴仙流の技
攻撃技ではありませんが、戦闘中に相手のスキを作るための目くらましの技である「太陽拳」も鶴仙人が生み出した技です。
第22回天下一武道会で天津飯が悟空に使ったのを初登場として、その後は悟空やクリリンにも受け継がれ、「人造人間編」では敵であるセルも使うなど、多くの戦士に愛用されることになりました。
鶴仙流の攻撃技としては「どどん波」が有名ですが、戦闘力のインフレが進むにつれて通用しなくなったのに対し、太陽拳はその後数々の強敵相手に確かな効果を発揮。何度も悟空たちの窮地を救っています。
「サイヤ人襲来編」では大猿となったベジータに悟空が使い、見事に元気玉を作るための時間を作ることに成功。「フリーザ編」でも戦闘力の差が100万以上あるフリーザの第二形態に対してクリリンが使い、ベジータに攻撃をうながし、「人造人間編」では、セルが使ってピッコロたちの前から逃亡しています。
これらの結果を鑑みると、太陽拳なくしてこれまでの悟空たちの勝利はなかったといっても過言ではありません。
舞空術に続き、鶴仙人の「アイデアマン」としての才能とセンスを感じさせる大発明だったといっても良いでしょう。
◆亀仙流で残ったのは「かめはめ波」だけ?
悟空やクリリン、ヤムチャの師であり『ドラゴンボール』の代名詞ともいえる技「かめはめ波」を彼らに伝授した亀仙人。
第21回天下一武道会で、亀仙人はジャッキー・チュンに扮して出場。悟空が大猿に変身した際、かめはめ波 最大出力(マックスパワー)で月を破壊しその威力の凄まじさを見せました。
「かめはめ波」と「どどん波」の違いとしては、戦闘力インフレへの対応力の差が挙げられるでしょう。
サイヤ人の襲来以降、どどん波の出番がほとんどなかったことに対し、かめはめ波は修行で力をつけた戦士のパワーに比例して出力もアップしたことから、常にレギュラー技として使われ続けています。
それらの点から、かめはめ波は非常に優秀な技だったといえますが、数々のアイデア技を生み出した鶴仙人に対して、亀仙人が伝授し、その後も使われた技はほぼ「かめはめ波」のみ。オリジナル技がほぼないことで有名な悟空も、界王のもとでの修業後は界王直伝の「界王拳」をはじめ「元気玉」を必殺技として使っています。
また、悟空の息子・悟飯はピッコロに修行をつけてもらったことから、幼少期は「魔閃光」を主体に使っていたことや、クリリンは大人になってからは自身のオリジナル技を軸に戦っていたことから、技を生み出すセンスでは鶴仙人に軍配が上がりそうです。
◆数々の優秀な技を生み出した「鶴仙人の末路」は……
かつては地球を代表するほどの拳法家であり、天津飯や餃子などのちに地球を救うために闘う戦士たちを輩出してきた鶴仙人ですが、実弟である桃白白ともども悪に染まったことで、亀仙人と比較するとあまりにも惨めな末路を辿ることになります。
鶴仙人の弟子であり、殺し屋として育てられていた天津飯でしたが、悟空たちとの闘いの中で鶴仙流の教えが間違っていることに気づきます。
悟空との試合の中で、鶴仙人は悟空の動きを止めるよう餃子に指示しますが、それに気づいた天津飯は止めるよう激怒。鶴仙人は、命令に背いた餃子の命を奪おうとしますが、咄嗟に亀仙人が放ったかめはめ波によって遥か彼方に吹き飛ばされることに……。
3年後に行われた第23回天下一武道会で、鶴仙人はサイボーグ化した弟・桃白白を伴って再登場を果たします。
目的は裏切り者である元門弟の天津飯・餃子の抹殺でしたが、あまりの実力の差に、天津飯からは「にどとわれわれの前に姿をあらわさないでください」と降参をうながされ、鶴仙人は敗れてしまった桃白白を抱きかかえ「こっこの恩しらずめっ!!」「きさまろくな死にかたはせんぞっ!!」と、捨てゼリフを吐いて会場をあとにしたのでした。
それを最後に鶴仙人が『ドラゴンボール』の舞台に登場することはなく、2004年4月に出版された『ドラゴンボール完全版公式ガイド Dragonball FOREVER 人造人間編~魔人ブウ編』(出版社:集英社)で、原作者・鳥山明先生は「何かの巻き添えを受けて死亡したが、悪人なので死んだままかもしれない」と語っています。
──数々の後世に残る素晴らしい技を生み出しながらも、『ドラゴンボール』の表舞台から名実ともに姿を消した天才武術家・鶴仙人。
その力と発想力を正しい方向に使ってさえいれば、亀仙人や師・武泰斗をも凌ぐ「英雄」になっていたかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
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