台湾や香港、中国のみでリリースされたオンラインゲーム『ドラゴンボールオンライン』では、原作終了後から約200年先までの歴史が描かれています。それはifストーリーである『ドラゴンボールGT』の結末とは異なりますが、鳥山明先生が全面監修していました。鳥山先生が考えたもう一つの世界で登場するブウの家族や、ミスター・サタンの引退理由はどのようなものだったのでしょうか?
◆ブウの妻子が誕生した秘密
サタンのもと人間社会で暮らしていく中で次第に孤独感を募らせていったブウは、自分の体の一部を切り離してミセス・ブウを作り出します。そして、彼女と2人で子孫を増やしていったことで、世界には魔人族が広まっていきました。
ブウは人間の恋愛を見るうちにさみしさを感じるようになったころ、サタンの書斎で桃色文学の金字塔「ボブとマーガレットの禁じられた遊び」という書籍を見つけます。その本で得た知識から、自分の体の一部をもとにして伴侶となる女性魔人ミセス・ブウを誕生させました。
さらに、ブウ夫妻それぞれの体の一部を刻み、ラブラブ光線を当てることで子孫を生んでいきます。つまり、ブウの妻子の正体は魔法で命を吹き込んだ自分の体の一部です。
彼らは魔人族として次第に世界に受け入れられるようになっていきます。魔人族は人を楽しませることをモットーとした種族となり、普通に働いたりおいしい物を探して旅したりと社会に溶け込んでいくのでした。
◆サタン引退の裏事情とは?
第29回と第30回の天下一武道会はブウを使った八百長によってサタンが優勝しました。その後、彼は格闘家引退を宣言するのですが、その理由はブウが家族を持ったことで八百長ができなくなったためです。
このときのサタンは57歳であり、表向きの引退理由は年齢による体力の衰えでした。たしかに体力は落ちていたでしょうが、ブウとの八百長であれば天下一武道会で優勝し続けることは簡単だったでしょう。
そのため、本当はサタンも名声を利用して、もっと格闘家として大会でお金を稼ぎたかったはずです。しかし、妻子を持って幸せそうにしているブウを八百長に加担させるようなことはしたくないという想いもあったのだと思われます。
ただ、サタンのズル賢さはこの程度でとどまることはなく、引退後はサタン式通信格闘講座の経営を始めます。これはお金をかけた特撮映像によるアクションビデオを売って、金儲けをするという実にサタンらしいインチキ商売でした。
しかし、当然このビデオを観て訓練したとしても、同じことができるようになるわけではありません。その結果は言うまでもなくクレームの嵐、サタン邸に怒った会員たちが押し寄せることとなってしまいました。
◆パンのビリーズ・ブート・キャンプ?
ある件で世間の人気者になったパンに目を付けたサタンは、彼女を師範として通信講座を開設します。そして、「パン・ファイティング・ネットワーク」という通信格闘道場が始まることになりました。
ある件というのは、サタン式通信格闘講座のインチキビデオに腹を立てた会員たちがサタンの家に押し寄せた事件です。なんとこれをパンが1人で蹴散らしたことで、彼女の強さが世間に知れ渡っていきます。
サタンの孫ということもあってもともと注目されやすい存在のうえ、外見のかわいさや年齢も考えると人気が出るのは当然のことでしょう。また、パンの中身はサタンとは違うため、「パン・ファイティング・ネットワーク」はインチキなんかではありません。
ブルマの協力を得て開発した通信格闘道場によって、離れた場所でも組手ができる画期的なシステムを作り出します。気軽に誰とでも組手ができ、このシステムを利用すれば離れていてもパンが直接指導も可能です。
これによってパンの人気はうなぎ登り。若者層を中心にスポーティな格闘家として、彼女は世界的に有名となっていきます。
◆南の都にテーマパーク「ブウビイワールド」がオープン
原作でブウの力によって両目を治してもらった盲目の少年。お金持ちになった彼はビイと名乗り、人々に笑顔をもたらすために南の都に「ブウビイワールド」をオープンさせました。
この背景には、地球がフリーザ軍の残党によって長年侵攻を受けて、人類の未来に暗雲が立ち込めていたという事情がありました。このときにはもう悟空もベジータも地球にはおらず、地球防衛軍が交戦するも歯が立たず。
クリリンや天津飯、悟天やトランクスたちが戦うも戦況は長引いて、地球の人たちの気持ちも次第に落ち込んでいきました。そのような状況だったことから、ビイは人類に笑顔を取り戻してほしいという想いで「ブウビイワールド」をオープン。
原作では魔人ブウの記憶は人々から消されていたので、ビイは目を治療してもらったことを覚えていないはずです。しかし、彼の心には何かしらのブウに対する想いが残っていたのでしょう。
ビイは一生懸命に努力してお金持ちとなり、フリーザの侵攻に苦しむ人々のために「ブウビイワールド」を作りました。しかも、テーマパークのプロデュースを依頼したのは、ブウの子孫ミニスター・ブウです。
人を楽しませることをモットーとする魔人族ということで彼に白羽の矢が立ったわけですが、偶然にもブウの子孫に依頼したことには運命を感じます。記憶はなくなってもビイとブウの気持ちがどこかでつながっていたことを感じさせる、心温まるエピソードといえるでしょう。
──オンラインゲームでは日本のマンガやアニメをIPとして、海外のゲーム会社が作品を制作することもあります。その中には長くサービスが続いても、日本ではリリースされることなく終わってしまう場合も……。そのため、そこには日本人があまり知らない別のストーリーが存在することとなり、『ドラゴンボール』ワールドの壮大さを感じさせられます。
〈文/諫山就 @z0hJH0VTJP82488〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ドラゴンボール」第42巻(出版社:集英社)』