台湾や香港、中国のみでリリースされたオンラインゲーム『ドラゴンボールオンライン』では、鳥山明先生の全面監修による原作終了後のストーリーが繰り広げられていました。平和になったこともあり地球から姿を消したり、新しい目標に向かって進んだりと悟空や悟飯たちはそれぞれの道を進んで行きますが、日本人にとっても興味深い物語となっています。
◆封印されたドラゴンボール
魔人ブウとの戦いが終わり、地球に平和が訪れるとエイジ787にデンデはドラゴンボールを封印します。これはドラゴンボールが存在することが原因で、新たに争いの火種が生まれないようにという配慮からでした。
もともとドラゴンボールは界王神からも反則とされていたものであり、平和な世の中にとってはかえって災いのもとになると考えたデンデの判断は妥当でしょう。実際にかつてはドラゴンボールを巡って、悟空やレッドリボン軍、ピラフたちが争う事態にもなっていました。
これに関しては、『ドラゴンボールGT』の最終回の展開と似ていると感じる人も多いでしょう。悟空が神龍とともに遠くへ旅立って行ったシーンはドラゴンボールの力に頼るのではなく、苦境を切り抜けて夢をつかむには人の力が大切であるという意味が込められていると考えられています。
『ドラゴンボールGT』では願いを叶えるたびに、ドラゴンボールに負の力が溜まるという設定がありました。『ドラゴンボールオンライン』にはそのような設定はないものの、『ドラゴンボールGT』の最終回に込められた思いと同じ気持ちでデンデは封印を決意したのでしょう。
ただ両者の違いは『ドラゴンボールGT』の物語がそこで終わったのに対して、『ドラゴンボールオンライン』ではその後もストーリーが続き再び地球に危機が訪れたことです。デンデがドラゴンボールを封印してから約30年後のエイジ820に、フリーザ軍の残党が地球に攻めて来ます。
このフリーザ軍との戦いが長引いて地球も人類の心も荒んで行ったことを考えると、平和な期間が続いた弊害もあったのかもしれません。ドラゴボールを残しておけばそれをめぐって争いが起こり、その中で新たな戦士やフリーザ軍に対抗できる勢力、科学の発展が生まれていた可能性もあったでしょう。
ドラゴンボールがきっかけで悟空は戦いの中に身を投じるようになり、強敵と対戦するたびに強くなっていきました。そのことからもドラゴンボールがあったからこそ、地球の人類は幾度の危機を脱する強さを手に入れたのだとも考えられます。
◆悟空とベジータは帰ることなく行方不明に
エイジ801に死期を悟った悟空は、最後の決着をつけるためベジータに声をかけて地球から旅立ちます。そのまま戻って来ることはなかったため、地球に残された悟飯たちからすれば2人は消息不明の行方不明という状況になってしまいました。
このときの悟空は64歳であり、死期を感じるにはまだ早い年齢といえるでしょう。なぜなら亀仙人はもっと長生きしていますし、この後のフリーザ軍の残党襲来のときには80歳を超えたクリリンたちが前線で戦っているからです。
そのため、死期というより悟空は全盛期の強さが衰えて来ているのを感じ取っていたのだと思われます。これからどんどん力が落ちて行く前に、ベジータと決着をつけておきたいと考えるのは自然です。
2人の消息はこのときから分からなくなってしまいますが、数年後に宇宙で超新星爆発が確認されました。これが悟空とベジータの戦いの影響によるものではないかと考えられています。
地球を去ってから数年間戦い続けて、最終的には星を爆発させてしまうほどのすさまじい戦いを悟空とベジータは繰り広げたのかもしれません。ずっと戦いの中に身を置き続けて、ライバルとして切磋琢磨して来た2人にとってふさわしい最後といえるでしょう。
◆悟飯は気功科学を研究
エイジ804から悟飯は気について研究を始め、『気功科学』という本を書きます。そこには原作で描かれたゼットソードでカッチン鋼を斬ろうとして失敗したエピソードや、研究の結果導き出したカッチン鋼を斬るための理論が記されました。
悟飯の著書『気功科学』はひそかな人気を得ることとなり、この影響によってその後の剣術家誕生につながります。悟飯の理論では気を極限まで凝縮させて刃の形状にすれば、それでカッチン鋼を真っ二つにできるとのこと。
ただし、自らの気だけで刃の作り出すのは膨大な気と集中力が必要となるため、実際の剣を触媒とするのが有効だそうです。気の凝縮の補助に用いる剣は、強度ではなく重さがポイントで重ければ重いほど気を凝縮しやすくなります。
ゼットソードは最強の聖剣といわれていましたが、やたら重いだけで切れ味や強度はそれほどでもありませんでした。実際はゼットソードには老界王神が封じられており、悟飯が折ったことで封印が解除。
原作では復活した老界王神によって、悟飯の潜在能力が解放される展開になりました。ゼットソードはそのために登場したアイテムという位置づけですが、『ドラゴンボールオンライン』ではこのときの経験が気功科学という悟飯の学術的研究に活かされるストーリーとなっています。
◆トランクスと悟天が創設した気功剣術
悟飯の著書『気功科学』に影響を受けたトランクスと悟天は、気功と剣術を組み合わせた修業を始めます。これによって潜在能力を開花させ、後に気功剣術の流派を開くまでになりました。
悟飯の著書にある「カッチン鋼は斬れる!」の記述に感化されて、剣術に興味を持ち始めた者たちと同じようにトランクスと悟天も関心を寄せます。トランクスは原作で過去にタイムスリップしてフリーザを倒したときにも剣を使っていますから、剣術に惹かれるのは必然だったのかもしれません。
「剣術いいねー」、「どうせならカッコいい流派を自分たちで作っちゃおうぜ」という軽い気持ちで始めるあたりは、実に彼ららしい動機といえるでしょう。しかし、このときのエイジ805にはトランクスはすでに40歳くらいになっています。
中年のおじさんという年齢にしては、いつまでも子供のときの感覚が抜けていない軽い動機という印象は否めないでしょう。ただ、修業は真面目に激しく取り組んでおり、潜在能力を開花させることに成功。
そして、彼らが生み出した気功剣術は、15年後に攻めて来るフリーザ軍の残党との戦いでも大活躍します。地球軍は銃弾や格闘家の拳が通用しないブヨンタイプの宇宙人に大苦戦しますが、この窮地を救ったのが気功剣術を使うトランクスと悟天です。
原作に登場したゼットソードとフリーザを一瞬にして切り刻んだトランクス。この2つのエピソードが起源となって、気功剣術が生まれたといってよいでしょう。
──地球にようやく訪れた平和も宇宙からの侵略によって崩れることとなりましたが、備えあれば憂いなし。トランクスや悟天たちが強くなることを追い求めていたため、フリーザ軍残党に対抗できました。このことからも人間はもう2度と争いが起きない世界にならない限り、いつか訪れるかもしれない窮地のために前に進むことをやめてはいけない宿命を背負っているのだと感じさせられます。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488
※サムネイル画像:Amazonより 『ドラゴンボール 第30巻(出版社:集英社)』