悟空とその仲間たちをひとくくりにして呼ぶときに使われる「Z戦士」という呼称はすっかり定着していますが、実は原作では一度も使われておらず別の呼び方が既に存在していました。また、当時の子供たちの間で「Z」は何を意味するのか、餃子やヤジロベーもZ戦士に含まれるのかという論争も巻き起こりました。

◆『ドラゴンボールZ』から定着したZ戦士という呼称

 Z戦士はアニメ『ドラゴンボールZ』がきっかけで呼ばれるようになった、悟空とその仲間たちをさす呼び方です。アニメのサブタイトルにも登場しますが、ゲームをはじめとしたメディアミックス関連で広く使われ始めたことで世間に浸透していきました。

 『ドラゴンボールZ』の第107話は「生きていた孫悟空Z戦士が全員復活だ!!」、第136話は「誰にも奴らを止められない…Z戦士全滅か!?」というサブタイトルです。このあたりになると普通にZ戦士という呼び方が使われており、既に浸透して来ていることが分かります。

 当初は悟空やクリリンは亀仙人の弟子、つまり亀仙流というくくりがありました。そこから鶴仙流の天津飯や餃子、ヤジロベーたちと出会って悟空の仲間の枠組みが広がっていきます。

 さらに『ドラゴンボールZ』では、サイヤ人相手にピッコロとも共闘する胸アツのストーリー展開。こうなってくると悟空とその仲間たちをひとくくりにして呼ぶ名称がないと不便だったのでしょう。

 特に『ドラゴンボール』は多方面でメディアミックス展開していますから、短く的確な言葉で悟空とその仲間たちを表現する必要があったのだと考えられます。大人の事情もあってアニメをはじめ多方面で使われ、Z戦士という呼称はすっかり定着することになりました。

 『ドラゴンボールZ』の放送が終わってからは、『ドラゴンボールGT』や『ドラゴンボール改』、『ドラゴンボール超』、『ドラゴンボールDAIMA』といったアニメが放送。それにもかかわらずZ戦士という呼び方が使われ続けていることを考えると、ファンにとっても便利で愛着がある言葉になっているいえるでしょう。

◆原作には既にZ戦士に替わる呼び方があった

 Z戦士という呼び方は原作では使われておらず、サブタイトルではドラゴンチームという呼称が登場しています。原作が発祥でありながらZ戦士と比べると知名度がかなり見劣りしますが、『ドラゴンボール改』のサブタイトルではこのドラゴンチームが使われることもありました。

 原作では悟空とブルマの旅の最終話「其之二十三 ドラゴンチーム解散」と、魔人ブウ編の第25回天下一武道会前である「其之四百三十 ドラゴンチーム集合!!」で2回ほど登場。アニメの『ドラゴンボール改』の第102話は「ドラゴンチーム全員集合!帰ってきた孫悟空!!」というサブタイトルになっています。

 原作では早い段階で使われていたにもかかわらず、当時悟空たちのことをドラゴンチームと呼んでいたというファンは少ないでしょう。むしろドラゴンチームという言葉自体知らなかった、覚えていなかったという方も多いかもしれません。

 その原因はやはり使われている回数自体が少ないのもありますし、そもそもドラゴンは神龍のことをさします。悟空たちは神龍のチームというわけでもありませんし、悟空たちをさす言葉としてドラゴンはイマイチしっくりこないです。

 また、ドラゴンボールを探すパーティーを指す呼び方としては非常にマッチしますが、それだとピラフ一味もドラゴンチームということになります。何より悟空たちが次第にドラゴンボールを探さなくなったことが、ドラゴンチームが定着しなかった一番の理由といえるでしょう。

Z戦士の「Z」の意味は?

 Z戦士の呼び方が広まると当然のごとく「Z」が何を意味しているのかという疑問が、当時の子供たちの間で話題となりました。『30th ANNIVERSARY ドラゴンボール超史集 -SUPER HISTORY BOOK-』(出版社:集英社 2016年出版)によると、鳥山明先生がドラゴンボールを早く終わらせたくてアルファベットの最後の文字である「Z」をつけたそうです。

 ただ、これはのちに語られた裏エピソードというか、鳥山明先生が明かした本音から来る由来です。「Z」のもう一つの意味は『ドラゴンボールZ』放映前に、『週刊少年ジャンプ』198918号収録の『ドラゴンボール』ピンナップポスター裏の特集記事の見出しで既に発表されていました。

 そこでは「Z」とは「究極」や「最強」を意味すると説明されています。アルファベットの最後の文字ということから発想されているという点では、鳥山明先生由来の意味と同様でしょう。

 しかし、この「究極」や「最強」は大人の事情による建前によってつけられた意味なのは明らかです。なぜなら、これから『ドラゴンボールZ』を放送しようというときに、連載を早く終わらせたくてアルファベットの最後の文字である「Z」をつけたなんてネガティブな由来をファンに発表できるわけありません。

 毎週1話ずっと同じマンガを描いているわけですから、原作者がやめたいと思うことがあるのは仕方がないことでしょう。しかし、原作者が連載の継続に後ろ向きだなんて事実を知れば、アニメを楽しみにしている子供たちも悲しい想いになってしまいます。

 ネットが当たり前の現代では、このような裏事情がリアルタイムでSNSによって明かされることも珍しくはありません。しかし、当時の『ドラゴンボール』好きの子供たちが「Z」の本当の意味を聞かされていたなら、ものすごい衝撃を受けていたことでしょう。

Z戦士に餃子やヤジロベーは含まれるか論争

 現在でもZ戦士に厳密な定義はなく、悟空とその仲間たちという漠然とした意味となっています。そのため、アニメ『ドラゴンボールZ』の序盤であるベジータやナッパとの戦い以降は登場シーンが減る、餃子やヤジロベーも「Z戦士」に含まれるのかという論争がファンの間で巻き起こりました。

 一つの目安として考えられていたのは、『ドラゴンボールZ』のオープニングの最後のシーンで描かれたキャラクターたちです。最初は悟空とクリリン、悟飯に加えてヤムチャ、天津飯、餃子、亀仙人が登場していました。

 ナッパやベジータ戦で活躍する彼らと、悟空たちの師匠である亀仙人が「Z戦士」というのは納得のファンも多いでしょう。ただし、この場合だとベジータ戦で一応活躍するヤジロベーは含まれないことになります。

 さらにそこにピッコロとベジータが加わるようになった時点で、ピッコロ大魔王戦以降戦うことのなかった亀仙人は外れます。そして、最終的にはブルマやチチ、18号、ビーデルなどZ戦士の奥さんたちが加わり、天津飯や餃子、ヤムチャは外れることに……。

 戦わないためブルマやチチをZ戦士と呼ぶには違和感がありますが、陰ながら支えているわけですから悟空とその仲間たちという枠組みには入ってしかるべきでしょう。問題はそこに悟飯やビーデルの学友であるイレーザとシャプナーが含まれていたことです。

 アニメ版ではシャプナーにビーデルが好きという設定が加えられ、登場シーンは増えていました。しかし、さすがにこの2人のストーリーへの影響度と戦闘に参加していないことを考えると、Z戦士と呼ぶには無理があるのでしょう。

 また、テレビスペシャルで「たったひとりの最終決戦〜フリーザに挑んだZ戦士 孫悟空の父〜」という作品が放送されています。このタイトルからすると、悟空の父であるバーダックもZ戦士というくくりになるはずです。

 このことからも、今でもZ戦士の定義は非常にあいまいとなっています。そのため、当時の子供たちの間でヤジロベーや餃子がZ戦士に含まれるのかという議論が巻き起こったのも当然です。

 地球を守るために戦ったり悪に立ち向かったりした戦士たち、そして彼らを助けるべく支えて来た奥さんや仲間はZ戦士と呼ぶにふさわしいでしょう。そう考えると餃子やヤジロベーはもちろん、デンデも「Z戦士」の中に含まれると考えてよさそうです。

 

 ──肩書きやレッテルは今の世の中では嫌われがちですが、肩書きとは言い換えれば実績を短い言葉で表現したものです。一定の評価を保証するものであり、「Z戦士」という呼び方が一気に広まったように便利なものでもあります。ただし、『ドラゴンボール』を知る人では悟空と餃子の強さの評価に大きな差があるように、本当に正しく人を評価するには就職面接のような短い時間ではなく、長い時間をかけて相手を知ることが大事といえるでしょう。

〈文/諫山就〉

《諫山就》

アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「DRAGON BALL 完全版 29」(出版社:集英社)』

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