毎週おもしろいエピソードを提供し続けてくれた鳥山明先生ですが、やはり人間ですから『ドラゴンボール』にも作画ミスはあります。発刊時期によって単行本では修正されているものも多いですが、公式に謝罪があったヤジロベーの双子疑惑などは当時大きな話題となりました。
◆ヤジロベーの双子説
『ドラゴンボール』の単行本を巻数順に並べると背表紙が連なった1枚の絵になることは有名ですが、旧版の第18巻と第26巻にヤジロベーが2人登場しています。これにファンは困惑したり今後のストーリーに関わる伏線なのかと考察したりしましたが、単行本の第29巻で鳥山先生が謝罪、うっかりミスだったことが明らかになりました。
第26巻が発売された当初、背表紙に2人目のヤジロベーが出て来たことでファンは戸惑います。双子説やクローン説など、ストーリーと何か深い関係があるのではないかと考察した方も多いでしょう。
というのもヤジロベーより早く登場して、よりストーリーに重要な天津飯と餃子は背表紙に登場していなかったからです。結局、この2人は旧版の単行本では最後まで描かれることはありませんでした。
しかも1人目のヤジロベーはピッコロ、2人目はデンデと一緒に描かれています。ピッコロといえば神様になるために悪の心を捨てて、2人に別れた経緯があります。
また、デンデは龍族として優秀なナメック星人なので、最長老やピッコロ大魔王のように卵を産めるハズ……。ヤジロベーが悪の心を捨てて2人になった、デンデが卵を吐き出してそこから2人目のヤジロベーが生まれたなどの突拍子もない想像もふくらむというものです。
しかし、真相は鳥山先生が単に1度描いたことを忘れていただけでした。ヤジロベーがピッコロやデンデと一緒に描かれていたのも、神様やカリン様と一緒にいることが多かったからでしょう。
なお新装版のコミックの背表紙ではヤジロベーは1人だけ。餃子は描かれているのに、旧版同様に天津飯がいないのは謎のままです。
◆道着の文字は着ている人の気持ちを表していた?
第22回天下一武道会で天津飯は「鶴」の文字が入った道着を着ていましたが、タンバリンに襲われたクリリンの断末魔が聞こえて来たシーンでは「亀」に変わっています。この直前に天津飯は亀仙人から亀仙流に誘われて断っていますが、彼の迷いが道着の漢字に表れていたのかもしれません。
その後、天津飯は亀仙流一派と行動することが多くなり、第23回天下一武道会ではサイボーグ桃白白を撃破して鶴仙流とは決別。作画ミスによって本来「鶴」であるべきの道着の漢字が「亀」になっていたわけですが、これからの天津飯の進む道を示唆する形となっていました。
感情によって道着の漢字が変わる現象は、悟空がリクームと戦っている場面のクリリンにも起きています。本来、クリリンの道着の漢字は「亀」ですが、このシーンではなぜか「悟」となっていました。
このとき、悟空はスピードでリクームを翻弄。クリリンはベジータだけがその動きを補足できていたことに気付きます。
つまり、自分の目では悟空の動きを捉えられなかったわけです。悟空のスピードに何とかついていこうとする必死な感情が、「悟」という文字となって表れていたのかもしれません。
また、人造人間編ではヤムチャの「亀」の字にも異変が……。このときのヤムチャの道着は、人造人間20号に倒されたあとだったため「亀」の字の下部分が破れた状態でした。
しかし、悟空に心臓病の薬を飲ませるときには、破れた道着の穴から見える素肌に直に「亀」の字が書かれていたのです。悟空の心臓病はウイルス性でヤムチャにもうつる可能性がありました。
自分の命の危険もあったため、心拍数や体温が上がって『鬼滅の刃』の痣のように浮かび上がって来たのかもしれません。もしくは、ヤムチャの亀仙人へのリスペクトが強い証なのでしょう。
◆読者もだます攻撃フェイント
ピッコロ大魔王が国王就任宣言をして爆裂魔光砲で街を消し飛ばす場面、悟空とアックマンの戦闘シーン。これらのシーンでは攻撃を仕掛ける手や足が技を放つ前と、放った後では逆になっている謎のフェイントが織り込まれています。
ピッコロ大魔王が街に爆裂魔光砲を放つシーンでは明らかに右拳に気を集中させていますが、実際に技を放った場面では思い切り左手を振りかざしていました。かわされることがない街相手に放つ技でもフェイントを入れるとは、さすがピッコロ大魔王といったところでしょう。
アックマンとの対戦では悟空は明らかに右足で飛び蹴りに行っています。しかし、アックマンが蹴りをくらって壁に埋まっているシーンでは、左足を高く上げて右足で地面に立っている状態になっていました。
悟空の身軽さを考えれば、右足はフェイントで空中で回し蹴りに移行したと解釈できます。アックマンも過去に天下一武道会で優勝したことがある実力者ですから、蹴りをヒットさせるには高度な攻撃フェイントが必要だったのかもしれません。
さらには第23回天下一武道会ではサイボーグ桃白白が右手でスーパーどどん波を打っていますが、次のコマでは左手で放った状態になっています。サイボーグ桃白白はその名の通り、悟空に敗れて自分を機械に改造してパワーアップしていました。
指から放つどどん波と違って、スーパーどどん波は右手の発射口から打っています。そのため、どう解釈しても放った手が入れ替わっているのは不自然で作画ミスとしか考えようがないでしょう。
◆作画泣かせの戦闘服
ベジータたちが着ているフリーザ軍愛用の戦闘服は肩や腹の部分が黄土色、その他は白色というイメージを持っている人が多いでしょう。実はナッパやギニュー、バータは白色の部分が黒くなっており、作画ミスでこの2つのタイプの配色が入れ替わっているシーンがたびたびあります。
サイヤ人の地球襲来では、本来白くなっていないといけないはずのベジータの戦闘服部分がナッパと同じ黒色に……。逆にナッパの背中部分の白いところが真っ黒に塗られているところもあります。
もっとも分かりやすいのは、ナメック星でクリリンや悟飯が戦闘服を着る場面です。このときクリリンだけ、ナッパと同じタイプの上半身が黒い戦闘服を着ています。
注目すべきはその後のフリーザ軍のメディカルマシーンに入っている悟空がどのくらいで回復するか、クリリンがベジータにたずねているシーンです。ここではクリリンの戦闘服が、悟飯と同じタイプの白色の配色になっています。
おそらく描いているうちに誰がどの配色の戦闘服を着ているのか、混乱してしまったのだと思われます。ナッパやクリリンなど死ぬキャラクターは黒なのかと思いきや、ギニュー特戦隊やザーボン、ドドリアはそれに当てはまりません。
戦闘力や地位によって違うわけでもなく、どうしてこのような面倒な設定にしてしまったのか謎です。その後、戦闘服を着るキャラクターはベジータやトランクス、悟空らなど少なくなっていきます。
そして、彼らが装着していたブルマが製作した戦闘服は、肩パットがなくなり胸や横腹部分の色も白く統一されていくことになりました。このことから、やはり鳥山先生も戦闘服の色についてはややこしいと感じており、描きやすいものに進化させていったのだと思われます。
──マンガを描くにあたっては構図やポーズにも気を配り、そのうえ過去の設定やキャラクターのデザインにも注意して矛盾が生じないようにしなければなりません。本来作者や編集部からすれば作画ミスはあってはならないのでしょうが、読者からすれば週刊連載がいかに大変かを教えてくれるものでもあるといえるでしょう。
〈文/諫山就〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。X(旧Twitter)⇒@z0hJH0VTJP82488
※サムネイル画像:Amazonより 『ドラゴンボール 第30巻(出版社:集英社)』