『ドラゴンボール』には、長く続いた作品だからこそ生まれた“設定の変化”があります。初登場時のベジータの髪色、仙豆の効果、サイヤ人の尻尾と大猿化。どれも当時は自然に描かれていた要素ですが、後の展開を知ったうえで振り返ると、思わず「あれはどうなった?」と気になるものばかりです。
◆ベジータの髪はなぜ赤かった? “神形態”を思わせる初登場の違和感
アニメ版『ドラゴンボールZ』でベジータが初登場したとき、現在のイメージとは違い、髪が赤く描かれていました。のちに『ドラゴンボール超』で赤い髪の超サイヤ人ゴッドが登場したこともあり、初期ベジータの姿を見返して「すでに神の領域だったのか」と話題にしたくなる人もいるでしょう。
もちろん、これは後年の設定を踏まえた冗談に近い見方です。実際には、アニメ制作が原作の進行に追いつきやすかった当時の事情から、色彩設定の確認が間に合わず、最初は赤髪で描かれたとされています。その後、原作者側の確認を経て、おなじみの黒髪へと修正されました。
現在では「純粋なサイヤ人は黒髪」という印象が強く、超サイヤ人化による髪色の変化も作品を象徴する要素になっています。しかし、ベジータ初登場時点では、サイヤ人の髪色がここまで重要な意味を持つとは、視聴者も制作側も想像しにくかったはずです。
結果的に赤髪ベジータは、あとから見返すほど味わい深い“初期ならではのズレ”になりました。作品の歴史を知っているファンほど、思わず二度見してしまう設定変更といえます。
◆仙豆は「10日間食べなくていい豆」だった? 回復アイテム化で薄れた満腹効果
仙豆といえば、瀕死の戦士を一瞬で回復させる便利すぎるアイテムです。しかし初期の仙豆には、普通の人間なら1粒で10日間は食べなくても平気という、食料に近い効果もありました。
もともとは空腹を満たす不思議な豆として登場した印象が強く、今のような“戦闘中の回復薬”としての役割は、あとから大きくなっていきます。悟空がピッコロ大魔王との戦いで傷ついた際には仙豆ではなく薬草で手当てされており、当初から万能回復アイテムとして扱われていたわけではありません。
ところがサイヤ人編以降、瀕死から復活すると戦闘力が大きく伸びるサイヤ人の特性も加わり、仙豆は戦いの流れを変える重要アイテムになっていきました。悟空、悟飯、クリリン、ベジータたちが何度も救われたことで、読者の印象も「食べ物」より「回復薬」へと変わっていったのです。
その結果、満腹効果はあまり語られなくなりました。戦闘の真っ最中に「お腹いっぱいになった」と言う空気ではなかったとも考えられますし、傷や体力の回復に栄養が使われたため、満腹感どころではなかったのかもしれません。いずれにしても、仙豆は作品のバトル化に合わせて役割が変化した代表的な設定といえるでしょう。
◆サイヤ人の尻尾と大猿化はどこへ? 超サイヤ人が変えたパワーアップの形
サイヤ人といえば、かつては尻尾と大猿化が重要な特徴でした。満月の光を浴びることで巨大な大猿へ変身し、圧倒的な力を発揮する。悟空や悟飯、ベジータの戦いを振り返っても、この設定は物語の緊張感を高める大きな要素でした。
しかし、物語が進むにつれて尻尾は次第に存在感を失っていきます。悟空や悟飯、ベジータも尻尾が再生しなくなり、トランクスや悟天に至っては最初から尻尾が描かれていません。サイヤ人の象徴だったはずの要素が、いつの間にか表舞台から遠ざかっていったのです。
その理由として大きいのは、界王拳や超サイヤ人といった新たな強化手段の登場でしょう。大猿化は強力である一方、悟空や悟飯は理性を失いやすく、ベジータにしても変身には条件やリスクがありました。満月が必要で、疑似満月を作るにもエネルギーを消費します。巨大化すれば小回りも利きにくく、服の問題も発生します。
一方、超サイヤ人は姿こそ変わるものの、人型のまま戦闘力を大きく引き上げられます。ビジュアル面でも分かりやすく、物語の盛り上がりにも直結しました。尻尾と大猿化が後退したのは、作品がよりスピーディーで洗練されたバトルへ向かった結果ともいえます。
さらに考え方によっては、尻尾を失うことでサイヤ人の野性的な凶暴さが薄れ、悟空たちが“怒り”や“心”によって超サイヤ人へ近づいていったとも見られます。消えたように見える設定も、作品の進化を示す名残だったのかもしれません。
──『ドラゴンボール』は、連載の勢いとアニメ放送の熱量が重なり合いながら大きくなった作品です。そのため、初期に描かれた設定が後の展開と少しずつ合わなくなったり、役割を変えたりすることがありました。
ただ、それは作品の欠点というより、物語が想像以上に広がっていった証でもあります。ベジータの赤髪、仙豆の満腹効果、サイヤ人の尻尾と大猿化。今見返すと気になる違和感も、当時の勢いと変化を物語る“味”として楽しめるのではないでしょうか。
〈文/最上明夫 編集/相模玲司〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「DRAGON BALL 完全版」第16巻(出版社:集英社)』

