※本記事にはTVアニメ・原作漫画『ドラゴンボール』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・原作漫画『ドラゴンボール』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
セル編は、Z戦士たちが勝てる場面を何度も逃した物語でもあります。ピッコロはセルを追い詰めながら取り逃がし、クリリンは18号を止める装置を壊し、悟空は悟飯に未来を託しました。そしてベジータは、自らの強さを証明したい一心でセルを完全体へ近づけてしまいます。あらためて原作を読み返すと、誰の判断が本当に致命的だったのか、意外と単純には決めきれません。
◆ピッコロはセルを倒せる場面で何を見誤ったのか
セル編序盤で、もっとも早くセルの正体に迫ったのがピッコロでした。神様と融合して大幅に力を増したピッコロは、当時のセルを完全に上回る実力を見せます。セルの目的や出自を探るため、あえて腕を吸収されたふりをしながら情報を引き出した判断は、敵の正体が分からない状況ではかなり冷静な作戦だったといえるでしょう。
しかし、その後の詰めが甘かったことは否めません。セルは太陽拳を使ってピッコロの目をくらませ、そのまま逃走します。セルが悟空たちの細胞から作られていると知った直後だったことを考えると、悟空や天津飯の技を使う可能性まで警戒しておくべきだったともいえます。
さらにアニメ版では、ピッコロが腕を再生した際、自分の細胞を持つセルがその能力を知らなかったことをあざ笑う場面があります。結果的にセルは、ベジータや悟空の攻撃で体の大部分を失っても、再生能力によって復活しました。この点だけを見ると、ピッコロが余計な情報を与えてしまったようにも見えます。
ただし、セルが自分の体に備わった再生能力を最後まで知らないままだったとは考えにくいところです。追い詰められた状況で本能的に復活していた可能性もあり、ピッコロの発言だけが決定打だったとは言い切れません。最大のミスというより、セルを倒せるほど優位に立ちながら、最後の一手で逃げ道を与えてしまったことが痛かったといえるでしょう。
◆クリリンの恋心は本当に“戦犯”だったのか
クリリンの判断も、セル編の大きな分岐点になりました。ブルマから託された緊急停止コントローラーを使えば、18号を止めることができたかもしれません。しかしクリリンは、かつて18号に頬へキスされた記憶もあり、彼女を止めることを選べませんでした。最終的には自らコントローラーを壊し、セルが完全体になる道を間接的に残してしまいます。
表面的には、恋心に揺れた判断ミスに見える場面です。クリリンがそこで役目を果たしていれば、セルは18号を吸収できず、完全体にもなれなかった可能性があります。戦況だけを見れば、かなり重い失敗だったことは間違いありません。
一方で、18号はドクター・ゲロに改造された被害者でもあります。本人が望んで人造人間になったわけではなく、クリリンにとっては敵である前に、救えるかもしれない一人の女性でした。強制停止の先に破壊が待っていた可能性を考えると、クリリンの行動を単なる浮ついた恋愛感情として片づけるのは少し酷かもしれません。
しかも、その後のクリリンと18号の関係を知っている読者からすれば、この判断は未来の幸せにつながる選択でもありました。セルを完全体へ近づけたという意味では大きなミスですが、一人の命を守ったという意味では、むしろクリリンらしいファインプレーだったともいえます。
◆悟空はなぜ悟飯に地球を任せたのか
悟空の判断も、セル編ではかなり独特でした。強敵を前にすると燃える悟空が、セルとの戦いでは自分の限界を認め、悟飯に勝負を託します。悟飯の秘めた力を見抜いていたからこその作戦ですが、結果だけを見れば大きな危険を伴う采配でした。
悟飯は確かに圧倒的な潜在能力を持っていました。しかし、悟空とは違い、戦いそのものを楽しむタイプではありません。セルを追い詰めたあともすぐに決着をつけられず、その甘さがセルの自爆という最悪の展開を招きます。悟空は瞬間移動でセルを界王星へ運び、地球を守るために命を落とすことになりました。
悟空のねらいは、たんにセルを倒すことだけではなかったのでしょう。これからの地球を悟飯に任せたいという、父として、そして戦士としての思いがあったはずです。自分がいつまでも前線に立ち続けるのではなく、次の世代にバトンを渡す。その意味では、悟空なりに未来を見据えた判断でした。
ただ、その目論見は完全には成功しませんでした。のちの魔人ブウ編でも、最終的に地球を救う中心となったのは悟空です。セル編で悟飯に託そうとした未来は、思ったほど単純には引き継がれなかったといえます。悟空のミスは、戦術の失敗というより、悟飯の性格まで読み切れなかった父親としての誤算だったのかもしれません。
◆ベジータの慢心はなぜ取り返しがつかなかったのか
セル編でもっとも分かりやすく致命的だったのは、やはりベジータの判断でしょう。精神と時の部屋で修行し、超ベジータとして第2形態のセルを圧倒したベジータは、自分の強さに完全な自信を持ちます。その結果、セルが完全体になればどれほど強くなるのかを確かめたいと考えてしまいました。
問題は、その好奇心がただの挑戦では済まなかったことです。ベジータは18号の吸収を止めようとするトランクスを妨害し、セルが完全体になる状況を作ってしまいます。完全体セルを倒せるならまだしも、実際には立場が一変しました。さっきまで圧倒していた相手に、今度は自分が手も足も出なくなってしまったのです。
セルから「どうしたのだ? 先刻までの勢いは……笑えよベジータ」と挑発され、ベジータはファイナルフラッシュで反撃します。威力そのものは凄まじかったものの、再生能力を持つセルに決定打を与えられませんでした。自信が絶望へ変わる落差は、セル編におけるベジータの象徴的な場面といえます。
ベジータが第2形態のセルをその場で倒していれば、地球を救った最大の功労者になっていた可能性もあります。しかし彼は、確実な勝利よりも、自分の強さを証明することを優先してしまいました。ピッコロやクリリン、悟空の判断にはまだ情や戦略の余地がありますが、ベジータの失敗は慢心そのものです。その意味で、セル編最大のヤラカシはベジータだったといってよいでしょう。
──セル編のZ戦士たちは、誰もがどこかで判断を誤っています。ただ、そのミスにはそれぞれ理由がありました。ピッコロは敵の正体を探ろうとし、クリリンは18号を人として見て、悟空は悟飯の未来に賭けました。どれも失敗ではありますが、キャラクターの性格や信念がにじむ選択でもあります。
その中でベジータだけは、自分の力を試したいといううぬぼれが、状況を一気に悪化させました。だからこそセル編は、たんなる強敵とのバトルではなく、Z戦士たちの弱さや未熟さまで浮かび上がる物語になっています。完璧ではない彼らが失敗しながら戦うからこそ、『ドラゴンボール』の勝利には今も熱さが残っているのではないでしょうか。
〈文/最上明夫 編集/相模玲司〉
《最上明夫》
アニメ・漫画・特撮・映画など、幅広いエンタメ作品に関心を持つライター。作品内の設定やキャラクター描写、物語構成を丁寧に読み解き、読者が作品をより深く楽しめる記事制作を心がけている。アニギャラ☆REWでは、アニメ・漫画を中心とした考察・解説コラムを担当している。
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