劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が9月19日に公開を控えているさなか、同作の原作者、藤本タツキ先生の短編作品が、一挙に8本もPrime Video(プライムビデオ)で世界独占配信されると発表されました。その名も『藤本タツキ17-26』。11月8日から配信が予定されており、6スタジオ&7監督が製作するといった、まさに見逃せない一大企画といえます。
『チェンソーマン』に、劇場アニメ『ルックバック』……、いずれの作品も人気を博した藤本タツキ作品のアニメ化には、相当な破壊力が込められていると予見できます。
◆藤本タツキ先生が17〜26歳までに描いた短編を一挙にアニメ化
『藤本タツキ17-26』というタイトルからも分かるように、本作は藤本タツキ先生による読み切り作品を収録した単行本『藤本タツキ短編集17-21』と『藤本タツキ短編集22-26』の2冊に収録された全8作品をアニメ化する企画です。タイトルにある数字は執筆した当時の年齢であり、いわば17歳から26歳の間に手がけた作品が収められています。
注目点は単純にアニメ化を果たすことだけでなく、それぞれの短編を製作する製作会社も監督もバラバラなところも面白いポイントです。
たとえば、高校卒業の前日に告白に臨もうとする生徒会長を描いたエピソード『恋は盲目』には、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の武内宣之氏が監督を担当。『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』やTVアニメ『さらざんまい』などで一緒に製作陣に名を連ねる内海照子氏を脚本に迎えて映像化に挑みます。
『人形ラプソディ』と『予言のナユタ』の2作品はTVアニメ『ブルーロック』の監督も務めた渡邉徹明氏が、『ペルソナ3 リロード: Episode Aegis』のオープニング映像などでタッグを組んでいるアニメーション制作スタジオ・100studioとともに制作を務めます。
その他の短編作品にも以下のようにそれぞれ注目の監督や気鋭の制作会社が名を連ねていて、いずれも仕上がりが楽しみです。
●『庭には二羽ニワトリがいた。』
監督・脚本:長屋誠志郎 / 制作:ZEXCS
──WEBアニメ『怒りのオコリザル観察日記』のタッグ。
●『佐々木くんが銃弾止めた』
監督:木村延景 / 制作:ラパントラック
──演出・絵コンテに定評のある木村氏を監督に据えた注目采配。
●『シカク』
監督・脚本:安藤尚也 / 制作:GRAPH77
──新たに設立されたばかりの制作会社が『銀魂』の新作も控える安藤監督とタッグ。
●『目が覚めたら女の子になっていた病』
監督・脚本:寺澤和晃 / 制作:スタジオカフカ
──TVアニメ『魔法使いの嫁』シリーズのタッグ。
●『妹の姉』
監督:本間修 / 脚本:米内山陽子 / 制作:P.A.WORKS
──TVアニメ『パリピ孔明』の制作陣の再来。
◆藤本タツキ先生の作品のパワーと今後の期待とは?
今回の企画で改めて“漫画家・藤本タツキ”という存在の大きさを思い知ります。
特定の漫画家の短編作を一挙にアニメ化する企画といえば、過去には『名探偵コナン』で知られる青山剛昌先生の作品を映像化する企画『青山剛昌短編集』が90年代にOVAでリリースされていたり、最近ではNetflixオリジナルアニメとして2023年に伊藤潤二先生のホラー短編をアニメ化した『伊藤潤二「マニアック」』が制作されています。
アニメ化ではないですが、『ドラえもん』の藤子・F・不二雄先生のSF短編をドラマ化する企画もNHKよりシーズン3まで作られています。
名のある漫画家といえどもなかなか読み切り作品を一挙に映像化する機会というのは稀であり、今回の企画の実現は藤本タツキ先生のネームバリューだけでなく、それぞれが映像化に適う内容となっていることの裏付けとも受け取れます。
こうなってくると、藤本タツキ先生の手がけた作品で“まだ映像化を果たしていない作品”がより際立ってきます。
たとえば、自身初の連載作品となった『ファイアパンチ』は当時の話題作としてもアニメ化の期待は高まります。本作では作中で過激な表現や描写が多く、以前より映像化が困難とも言われていた作品でしたが、最近では『タコピーの原罪』といった地上波放送をそもそも想定しない例も出てきていることを踏まえると、実は映像化も時間の問題と言える有力作です。
『ルックバック』のような長編展開の余地があるといえば、『ルックバック』の原作漫画を発表した翌年という早い段階で発表された全200ページの力作『さよなら絵梨』も忘れてはいけません。漫画ならではの見せ方が特徴的な作品とはいえ、それは『ルックバック』も同様。映画製作が題材にもなっている作品ということで、こちらは映画化企画に挑みがいのある原作といえます。
まさかの短編一挙アニメ化をPrime Video(プライムビデオ)が放つということは相当なビッグニュース。となるとこれらの作品が既に動き出しているなんてことは全然あり得る話です。
また、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』が公開された際には、さらなる盛り上がりを見せることが予想できるため、今から要チェックの企画といえるでしょう。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『劇場版「チェンソーマン レゼ篇」キービジュアル © 2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト © 藤本タツキ/集英社』