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 前代未聞とでもいうのか、株式会社カラーが別のアニメーション製作スタジオである株式会社ガイナックスの破産整理の終了と、法人としての消滅を発表しました。ガイナックス自体が、カラーの代表取締役である庵野秀明氏がもともといた会社という縁もあり、ガイナックスとの金銭的なやり取りや、それに伴う報道でカラー自体に対する印象を悪くみえるような報道がされたことも踏まえると、今回のような発表を大々的にするのもよく分かります。

 しかし、この「ガイナックスの消滅」という事態はすなわち、製作が発表されていたはずの「とあるアニメーション映画」がとうとう“完成しない”ことが明らかになったともいえます。そのアニメーション映画こそ『蒼きウル』です。

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◆未完のアニメーション映画『蒼きウル』とは?

 ガイナックスは今回の消滅までに、企画が頓挫した・凍結したと公表していない『蒼きウル』というアニメーション映画がありました。

 『蒼きウル』という作品の企画自体はもともと1990年代前半に生まれています。株式会社ガイナックスは『王立宇宙軍 オネアミスの翼』という社運をかけたともいえる、勝負作を1991年に公開しました。

 総制作費は8億円にも達し、音楽には坂本龍一さんを起用するなどの話題性なども持たせたりもしていたのですが、この興行があまり振るわずガイナックスは大きなダメージを受けてしまいました。そこで逆転をするべく生まれたのが『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の続編製作というアイデアです。

 『蒼きウル』は『王立宇宙軍 オネアミスの翼』とは時代の設定や登場キャラクターなども異なるながらも、世界観としては地続きという作品を想定しており、一時期は庵野秀明氏が監督を務める想定で企画も進められていました。

 しかし1995年には『新世紀エヴァンゲリオン』の製作が始まり、さらにはこの作品がヒット。庵野監督はもはやそれどころではないような状態になり、『蒼きウル』の歩みは進まなくなっていきます。

 1990年代末には「蒼きウル凍結資料集」や「蒼きウルコンバットフライトシュミレータ プレーン&ミッションモジュール」シリーズといった商業展開をし、メディアミックス展開にも臨んだのですが、結局当初の想定だった肝心のアニメーション映画自体は完成に至らず、企画は失敗に終わってしまいました。 

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◆『蒼きウル』の企画は終わっていない? 復活宣言と現在

 ここまでの話でいえば、かつて企画されていた映画という話で終わるのですが、『蒼きウル』の企画はこれで終わらないのがポイント。なんと2010年代に入って企画が再始動しました。

 2013年に開催された東京国際アニメフェアにて突如として『蒼きウル』の新規イメージポスターが発表され、企画の再開が発表されます。作品のSNSアカウントなどもスタートして、再びガイナックスが『蒼きウル』の製作に臨もうとする姿勢が明らかに。当時は2018年の世界同時公開を目指していました。

 今度こそ『蒼きウル』の製作が進み出す、そんな気配が出てきました。しかし実はこの一方でガイナックスからは庵野秀明氏をはじめ、主要スタッフが続々と退社を始めている時期。のちに明らかになりますが2016年には株式会社カラーが貸付金1億円の支払いを求めて提訴する事態となっていて、『蒼きウル』が再始動した時期には既に資金繰りに苦戦していたのではないかという予想できます。むしろ、出資を募るための旗として『蒼きウル』は時代を超えて再始動したのではないかと勘ぐってしまうほど。

 結局はプロジェクトの再始動以降『蒼きウル』の続報はなく、高らかに宣言された企画の復活が企画の最後の痕跡になってしまいました。

 

 ──今回、ガイナックスが消滅したということで『蒼きウル』を主導していた母体がいなくなったので、製作は難しいでしょう。

 ただ、一つ希望があるとすればガイナックスの元代表取締役社長であり、監督を務める予定だった山賀博之氏は2022年〜2024年にかけて『にいがた経済新聞』に発表したコラムにて『蒼きウル』に関して言及をしており、まだまだ製作の意向が感じられる内容となっていました。

 会社がなくなったとしても、人さえいれば企画は何度だって復活できるでしょう。『蒼きウル』は“まだ製作中”の今よりも未来に完成する作品なのかもしれません。

〈文/ネジムラ89〉

《ネジムラ89》

アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi

 

※サムネイル画像:Amazonより 『DVD「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(販売元:バンダイビジュアル)』

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