ジブリ作品には、長年親しまれてきた名作でありながら、あまり知られていない事実や設定が潜んでいます。たとえば、印象とは異なる意外な本名や、別作品にも同じ名前のキャラクターが登場するケース。そして、映画では語られなかったキャラクターの過去や背景が、作品の見方を大きく変えることもあります。こうした細やかな仕掛けや裏話に触れると、何度も観たはずのジブリ作品が、また新鮮に感じられるかもしれません。
◆意外と知られてないジブリキャラたちの名前
長年、幅広い世代に愛され続けているジブリのアニメ映画作品ですが、意外と名前が知られていないキャラクターがいます。中には、イメージとはかけ離れた「驚きの本名」を持つキャラクターも……。
●ドーラは一人じゃなかった──『天空の城ラピュタ』
ジブリのアニメ映画の中でも、とりわけ人気の高い『天空の城ラピュタ』で、強い存在感を放っている空中海賊の頭領・ドーラですが、実はジブリ作品の中には「もう一人のドーラ」がいたことは、あまり知られていません。
1989年に公開されたアニメ映画『魔女の宅急便』で、物語序盤に登場するキキの母親・コキリにリウマチの薬をもらいにきていた、やさしそうなおばあちゃんも、実は「ドーラ」という名前でした。
空中海賊のドーラといえば、1985年に発売された月刊『アニメージュ』(出版社:徳間書店)の「ラピュタ特集」で、ドーラのモデルが宮崎駿監督の母・美子さんだと明かされており、「海賊にして母、物欲と食欲の人・ドーラこそ思い入れの一番深い人」と語っています。
また、2010年に発売された『映画天空の城ラピュタGUIDE BOOK復刻版』(出版:徳間書店)での宮崎駿監督の弟・至朗さんのインタビューによると、「ダメな息子は蹴飛ばすし見込みがあると思ったら力になってくれるという母」、「母は強い女だった」と、美子さんについて明かしています。
ジブリ作品の中で、同じ名前のキャラクターが存在するのは異例中の異例ですが、母・美子さんの人物像が、空中海賊のドーラと多くの点で一致することから、宮崎駿監督の思い入れが強いのも納得できます。
もしかすると、宮崎駿監督はそんな思い入れの強さから、意図的に「ドーラ」という名前を2人のキャラクターに付けたのかもしれません。
●ポニョの驚きの本名──『崖の上のポニョ』
ジブリの作品の中でも、とりわけかわいい世界観の作品『崖の上のポニョ』ですが、主人公・ポニョには見た目の印象からは想像もつかない本名があります。
映画『崖の上のポニョ』公式Webサイトによれば、ポニョの本名は「ブリュンヒルデ」。北欧神話に登場する人物の名前で、戦死した兵士をバルハラへ連れて行き戦士化するといわれているワルキューレの1人とされています。
何とも神々しい名前ですが、ポニョの母親が「海なる母」といわれる神であることを考えると、妥当な名前といえるでしょう。とはいえ、ポニョを「ブリュンヒルデ」と呼ぶには、少々違和感があります。
また、北欧神話に登場する「ブリュンヒルデ」の名前の裏には、作品に深いメッセージ性を持たせる宮崎駿監督ならではの人間のエゴへの風刺、自然破壊に対して警鐘を鳴らすという「裏テーマ」が込められているのかもしれません。
詳しく読む⇒意外と知られてない「ジブリキャラたち」の名前 「実はドーラは2人いた?」「トトロの本名とは?」ほか
◆ジブリ作品の意外と知らない裏設定
子供から大人まで幅広い世代に愛されるジブリ作品ですが、その夢や愛にあふれる世界観の裏には、知られざる「シリアスな裏設定」が存在しています。
●海外に売られ、夫を……エボシの壮絶な過去──『もののけ姫』
ファンタジーでありながら、環境問題をテーマにするなど、ジブリ作品の中でもシリアスなストーリーの『もののけ姫』。深山の麓でタタラ場を率いる女棟梁・エボシ御前(以下、エボシ)には、映画では語られなかった「壮絶な過去」がありました。
書籍『“もののけ姫”はこうして生まれた。』(出版社:徳間書店 1998年出版)によれば、エボシはタタラ場を作る以前、倭寇の頭目にさらわれて海外に渡り、人質という形で強引に妻にさせられていました。
その後、頭目の配下であったゴンザと密かに協力し、謀反に近い形で夫である頭目の命を奪って全財産を盗み、倭寇から脱走したとされています。
また、映画パンフレットによると、エボシはかつて平安時代末期から鎌倉時代にかけて起こった歌舞の一種である「白拍子」を演じる芸人だったとされており、宮崎駿監督の著書『折り返し点』(出版社:岩波書店 2008年出版)では、「鈴鹿山の立烏帽子」と呼ばれた伝説上の人物・鈴鹿御前がモデルだったとも明かされています。
エボシは、山犬など敵とみなした相手には容赦ない「冷酷さ」と、身売りされた若い女性や迫害された病人たちを引き取り、仲間として大切にする「愛情深さ」をあわせ持つ女傑として描かれました。
エボシの過去の設定はかなりシリアスで、アニメ映画に盛り込むのは難しい内容でしたが、彼女の二面性はこうした過去の体験に起因するものだったのでしょう。
映画『もののけ姫』が非常に奥深い作品であることは言うまでもありませんが、今なお多くのファンに愛されている理由の一つは、こうした緻密な「裏設定」にあるのかもしれません。
●おソノさんは若いころ「暴走族」だった!? ──『魔女の宅急便』
13歳を迎えたキキが、魔女の修行で訪れた町・コリコで、「グーチョキパン店」を営む女将・おソノには、実は驚くべき設定があります。
2013年に出版された書籍『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』(出版社:文藝春秋)には、「もしかしたらゾク(暴走族)だったのかも」というスタッフの意見が記されています。
また、映画の終盤では、キキの救出劇に興奮して産気づき、エンディングで無事に出産する様子が描かれていますが、「赤ちゃんを産んだ後のおソノさんがバイクに乗る」という別案があったことも明かされています。
映画のパンフレットでは、「青春時代、それなりにツッパった経験を持つ」と冗談なのか真実なのか分からない書き方で紹介されていたおソノの過去ですが、これらの書籍の記述からすると、「ツッパった経験」は事実だったのかもしれません。
映画の中で、トンボと仲間たちは地元の不良グループのように描かれていますが、実はこの描写は「コリコの町には、昔から不良グループがいる」という伏線だった可能性があります。そう考えると、思わぬところに「かつてのワル」がいたとしても不思議ではありません。
突然やってきた見ず知らずのキキに対し、コリコの町の住人の多くは冷たい態度を示しました。そんな中、おソノがキキを懐深く迎え入れ良き理解者となったのは、こうした過去の「ツッパった経験」があったからこそだったといえるかもしれません。
詳しく読む⇒ジブリ作品の意外と知らない裏設定 「エボシは海外で酷い目に……」「おソノさんは昔……」ほか
〈文/アニギャラ☆REW編集部〉
※サムネイル画像:『「魔女の宅急便」キービジュアル © 1989 Eiko Kadono/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, N』