子供から大人まで幅広い世代に愛されるジブリ作品ですが、その夢や愛にあふれる世界観の裏には、知られざる「シリアスな裏設定」が存在しています。
◆サツキとメイの家は「療養用の別荘」だった?──『となりのトトロ』
「お前ん家、お化け屋敷!」という勘太のセリフでもおなじみの草壁サツキ・メイが引っ越してきた家屋は、昭和30年代という時代には珍しい和洋折衷の不思議な設計です。
2001年に出版された、『ロマンアルバム となりのトトロ』(出版社:徳間書店)での宮崎駿監督のインタビューで、あの家は「結核患者の療養用の別荘」だったことが明かされました。
宮崎駿監督は、「ああいう日本家屋と洋間をつなげた家は、昔はよくあったんですよ、実は、あの家は半完成、全部出来上がってはいない家なんです。」と、昭和中期の日本に実際によく見られた様式家屋だったと語っています。
続けて、「ぼくは、基本的にあの家は、病人を療養させるために建てた離れのある別荘だと思ってるんです。結核患者の人のために建てた離れなんですね。で、その人が死んでしまったので、そのまま用なしになって空いてた家なんです。
と、草壁家の知られざる設定について明かしました。
「療養」という言葉を聞いてピンとくる人も多いと思いますが、草壁家のお母さんである靖子は、体が弱く作中でも七国山病院に入院しています。『小説 となりのトトロ』(出版社:徳間書店 1988年出版)の設定では、靖子が患っている病気は結核であり、入院している七国山病院は結核療養所だったとされています。
靖子の夫であるタツオは、彼女の退院後の生活を見据えて、この家に引っ越すことを決めたのかもしれません。
また、『ジ・アート・オブ となりのトトロ』(出版社:徳間書店 1988年出版)に掲載されている宮崎駿監督のコメントによると、サツキとメイの家に関しては「自分たちの住みたい場所を作ろうと思った」と明かされており、結果的にスタッフの間でその想いが実現したことも語られました。
少々シリアスな設定ですが、制作スタッフの想いや、草壁家の家族愛を強く感じる裏設定といえるでしょう。
◆海外に売られ、夫を……エボシの壮絶な過去──『もののけ姫』
ファンタジーでありながら、環境問題をテーマにするなど、ジブリ作品の中でもシリアスなストーリーの『もののけ姫』。深山の麓でタタラ場を率いる女棟梁・エボシ御前(以下、エボシ)には、映画では語られなかった「壮絶な過去」がありました。
書籍『“もののけ姫”はこうして生まれた。』(出版社:徳間書店 1998年出版)によれば、エボシはタタラ場を作る以前、倭寇の頭目にさらわれて海外に渡り、人質という形で強引に妻にさせられていました。
その後、頭目の配下であったゴンザと密かに協力し、謀反に近い形で夫である頭目の命を奪って全財産を盗み、倭寇から脱走したとされています。
また、映画パンフレットによると、エボシはかつて平安時代末期から鎌倉時代にかけて起こった歌舞の一種である「白拍子」を演じる芸人だったとされており、宮崎駿監督の著書『折り返し点』(出版社:岩波書店 2008年出版)では、「鈴鹿山の立烏帽子」と呼ばれた伝説上の人物・鈴鹿御前がモデルだったとも明かされています。
エボシは、山犬など敵とみなした相手には容赦ない「冷酷さ」と、身売りされた若い女性や迫害された病人たちを引き取り、仲間として大切にする「愛情深さ」をあわせ持つ女傑として描かれました。
エボシの過去の設定はかなりシリアスで、アニメ映画に盛り込むのは難しい内容でしたが、彼女の二面性はこうした過去の体験に起因するものだったのでしょう。
映画『もののけ姫』が非常に奥深い作品であることは言うまでもありませんが、今なお多くのファンに愛されている理由の一つは、こうした緻密な「裏設定」にあるのかもしれません。
◆おソノさんは若いころ「暴走族」だった!? ──『魔女の宅急便』
13歳を迎えたキキが、魔女の修行で訪れた町・コリコで、「グーチョキパン店」を営む女将・おソノには、実は驚くべき設定があります。
2013年に出版された書籍『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』(出版社:文藝春秋)には、「もしかしたらゾク(暴走族)だったのかも」というスタッフの意見が記されています。
また、映画の終盤では、キキの救出劇に興奮して産気づき、エンディングで無事に出産する様子が描かれていますが、「赤ちゃんを産んだ後のおソノさんがバイクに乗る」という別案があったことも明かされています。
映画のパンフレットでは、「青春時代、それなりにツッパった経験を持つ」と冗談なのか真実なのか分からない書き方で紹介されていたおソノの過去ですが、これらの書籍の記述からすると、「ツッパった経験」は事実だったのかもしれません。
映画の中で、トンボと仲間たちは地元の不良グループのように描かれていますが、実はこの描写は「コリコの町には、昔から不良グループがいる」という伏線だった可能性があります。そう考えると、思わぬところに「かつてのワル」がいたとしても不思議ではありません。
突然やってきた見ず知らずのキキに対し、コリコの町の住人の多くは冷たい態度を示しました。そんな中、おソノがキキを懐深く迎え入れ良き理解者となったのは、こうした過去の「ツッパった経験」があったからこそだったといえるかもしれません。
──知れば知るほど奥が深い、ジブリ作品の世界観。それぞれの映画作品には、原作や小説など、関連書籍が存在しますが、映画で描かれたのはほんの一部という作品も多くあります。今後、新たに出版される関連書籍などにより、また「意外な真実」が飛び出すことがあるかもしれません。
〈文/lite4s〉
《lite4s》
Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。
※サムネイル画像:https://www.ghibli.jp/works/mononoke/より
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