スタジオジブリ映画の認識が変わってきています。かつては『となりのトトロ』や『崖の上のポニョ』など子供から大人までが親しんだ映画の代表作となっていましたが、近年の特に幼い子供たちの間では観たことがない子が増えてきているとSNS上などで話題になっています。スタジオジブリ作品に今何が起きているのでしょうか。
◆どんどん視聴が難しくなってきているジブリ映画
ジブリ作品を観たことがない子供がどんどん出てきているのは、現状を考えるとおかしくはない話です。
近年は映像配信サービスの普及で気軽に映画やTV番組に触れやすくなったものの、スタジオジブリの映画のほとんどが現在日本での配信を行なっていません。
海外では既に配信が行われていたり、新潮社が権利を保有していた『火垂るの墓』は例外として今年の7月からNetflixで配信が始まったりもしているのですが、それ以外のジブリ作品は現在も頑なにどの映像配信サービスでも配信されておらず、その予定もありません。
そのため、現在ジブリ映画の過去作品を観るとなるとソフト化されたものを購入したり、レンタルしたりすることや、不定期に行われる『金曜ロードショー』といったTV放送を待つことになります。
とはいえ、ジブリ作品はデジタル配信もされていないので購入やレンタルのハードルも高いことや、テレビ自体の保有割合は若い世代になるほど減る傾向にあり、今後は若い世代ほどジブリ作品を観たことがないという例は増えていきそうです。
上の世代では「誰もが観たことあるアニメーション映画といえば」といった感じでジブリ作品は共通の話題として上がる一つであったことを思うと少し寂しく感じる状態です。日本でもジブリ作品が配信サービスで観られるようになったりしない限りはこの傾向はどんどん加速していくでしょう。
残念ではある一方で、今後はそういう状況が一転して配信が行われる可能性は海外の例がある以上、全然あり得るでしょうし、この状況がスタジオジブリ以外のアニメーション映画や子ども向けの映画にスポットを当てていくことになる可能性はあるでしょう。
◆往年のジブリ作品は“映画館で観られる”環境に期待?
ジブリ作品の視聴が難しくなっているという一方で、近年過去のジブリ作品が話題になるという例もあります。それがリバイバル上映でのヒットです。
1993年にテレビ放送作品として製作され、のちに劇場公開を果たした『海がきこえる』が2024年、2025年と立て続けにリバイバル上映を果たし、しかもどんどん拡大上映を行っていたり、海外では先行して実施されていた『もののけ姫』の4Kデジタルリマスター上映が10月24日(金)から始まったり、過去作でありながらも興行通信社が発表する動員数ランキングにランクインするなどその高い人気ぶりを明らかにしています。
かつて、新型コロナウイルス感染症の流行時も過去作のリバイバル上映を行い多くの来場者を獲得したりと、ジブリ作品は過去作品であっても映画館での上映を行えば現在も高い集客力があります。率先して行なってくれているという印象ではないものの、配信サービスよりは意欲的に劇場上映ならしてくれるという傾向があります。
『もののけ姫』こそ4K版であるということがフックにはなっていますが、この視聴困難な状況を思うと劇場で観ること自体が有意味になってもいるでしょう。実際に劇場によっては4K版での上映を実施せず、映像としては比較的グレードが落ちてしまう2Kコンバート版での上映をしているところも多くあります。
『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』といったヒット作がある一方で、ミニシアターなどでは全国的に閉館や営業が困難な状態にあるというニュースが続いている現状を思うと上手くジブリ作品と結びつけて、映画館に足を運ぶ理由としてジブリ映画を生かすことはできないのでしょうか。せめて配信をしないのであれば『海がきこえる』や『もののけ姫』に限らず過去のジブリ作品を劇場上映する機会を不定期でもいいので今後も実施してほしいところです。
──実際、反響の大きさからか11月7日からは『もののけ姫』の4Kデジタルリマスター版の拡大上映が発表されています。現在は公開館数は61館という規模ですが、この拡大上映で全国171館数と大幅に増えるということで、近隣で上映していなかった人にも観られるチャンスが生まれます。
2週間限定という制限付きの上映となっていますが、この上映が終わったとしても次世代のためにも今後も不定期にでも上映の実施や、『もののけ姫』“以外”の作品にも上映の機会を設けてほしいところです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:『「もののけ姫」場面写真 © 1997 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, ND』




