『機動戦士ガンダム』(以下、『ガンダム』)では戦闘中に、キャラクターがしゃべるシーンがよく見られます。キャラクターの議論や、戦術を組み立てるの独り言など、その内容はさまざまです。そんな戦闘中の会話シーンですが、実は「尺稼ぎ」のために生まれた演出となっています。
◆「戦闘中の会話」は苦肉の策? 作画崩壊を防いだ富野流の尺稼ぎ術
『ガンダム』では戦闘中にキャラクター同士が議論したり、独り言を呟いたりするシーンが多く見られます。特に、劇中後半ではニュータイプという概念の登場により、戦闘中の会話が増えました。アムロとララァの戦闘シーンでは、限界を超えた戦闘中にも関わらず、2人は激しい舌戦を交わしています。
そんな戦闘中の会話描写ですが、実は作画コストを減らすための、尺稼ぎとして持ちいられた手法といいます。2002年2月28日に放映されたNHKのTV番組『トップランナー』第196回目に、富野由悠季監督が出演した際、戦闘中の会話描写について言及していました。
富野監督曰く、本気になって戦闘シーンをかくと、1秒動かすのに絵が40〜50枚必要となります。しかし、キャラクターが会話するシーンを挟めば、顔だけ描いて口を動かせば、4枚で済むため作画コストが圧倒的に低くなるのです。さらに5〜10秒ほど喋らせれば、一気に数百枚の作画コストを減らせます。
当時、『ガンダム』の制作現場は逼迫していました。戦闘中の会話は、そんな状況でも毎週の放送スケジュールを守るために生み出された、苦肉の策だったのです。
ただ、富野監督としては、この手法は好きではなく、むしろ、戦闘シーンにセリフが入ってくる映画は大嫌いとまで語っていました。そのため、番組内で『機動戦士Zガンダム』を見返した際、戦闘中のセリフが長く、いらない描写だと苦言を呈しています。
──極限状態の対話は、作画コストを抑えるための工夫に過ぎませんでした。しかし、結果としてキャラクターの深層心理を描く、独自の演出に昇華されたのです。富野監督の美学には反するものの、この語りが『ガンダム』を重厚な人間ドラマへ押し上げる要因となったのは事実でしょう。
〈文/北野ダイキ〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「機動戦士ガンダムⅢ」(出版社:KADOKAWA)』


