戦争を題材にしている『ガンダム』シリーズは、1作目からの45年の間に、さまざまな裏切りを描いてきました。

 一方から見れば裏切りですが、本人の中では一貫性がある場合もあります。しかしその信念の置きどころに納得のいかない場合も……。

◆アスラン・ザラ──戦場での居場所探し

 アスランはザフトのエリートパイロットとして登場しますが、脱走や復帰、再離反を繰り返すなど所属がコロコロ変わったキャラクターです。

 彼は当初ザフトの赤服と呼ばれるエリート部隊の隊長として、アークエンジェル隊を追いつめますが、戦友ニコルの仇となったストライクガンダムのパイロットが、かつての親友であるキラだったことを知ります。

 さらに父であるパトリックがナチュラルに対する絶滅戦争の意志を持っていることを確認するとザフトを離反。わだかまりを越えて、キラやラクスのいる三隻同盟に合流しました。終戦後はオーブへ亡命しキラたちと暮らします。

 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』では、偽名を使いながら護衛としてカガリに帯同しますが、テロに巻き込まれたことをきっかけに、ザフトの艦であるミネルバに乗艦。デュランダルに諭されることで、再びザフトのアスラン・ザラとしてMS戦に身を投じます。

 その後戦況は混乱を極め、アークエンジェルを敵視するミネルバの乗員たちとの不和や、ラクスの命を狙う計画などデュランダルに対しての不信感が膨らみ居場所を失うことに。

 逮捕目前にして2度目の脱走をし、アスランは再びアークエンジェルに合流しました。

 改めてふり返ると所属が何度も変わっています。ザフトからしてみれば「あんたはいったい何なんだ!」と、シンでなくても言いたくなってしまうところでしょう。

 ナチュラルとの全面戦争を推し進めていた父と、親友のキラや、オーブの姫であるカガリとの間に挟まれて、自分の居場所を見つけるのに時間がかかったようです。

◆レコア・ロンド──戦場にあって「女でありすぎた」悲劇

 『機動戦士Ζガンダム』に登場するレコアは、自分のことを信念を持たないと言っており、エマからは「女でありすぎた」と評価されているキャラクターです。そして正義感ではなく自分の心に従った結果、クワトロのもとを去って敵対勢力のシロッコに走ります。

 エゥーゴに所属し、カミーユと出会った物語序盤では諜報活動などの裏方業務を行っていました。

 クワトロとも恋仲にあるような描写もあり、カミーユにとってはアムロがマチルダに憧れたような、年上のお姉さん的な存在だったかもしれません。

 レコアも物語後半ではティターンズでシロッコの部下となって現れる、予想外の裏切りを見せます。

 転機となったのは地球降下作戦で単身ジャブローに潜入し、ティターンズに拘束されたときでしょう。劇中で明言はされていませんが、同時に拘束されたカイ・シデンとの会話からすると、拷問され辱めを受けたらしいことが分かります。その後も男性不信や男性嫌悪の描写がみられることから、拷問によって性的なトラウマを受けた可能性も。

 ティターンズに所属してからもバスクの命令でコロニーに毒ガスを撒く作戦の指揮をとらされ、精神的な安定とはほど遠い状況が続きました。

 最終局面ではパラス・アテネに登場し、同世代であり、ティターンズを裏切った経歴のあるエマとの戦いに敗れて戦死。

 最期のセリフとなった男たちへの深い嘆きの言葉は、多感な時期を戦争の中、1人で生きていくしかなかったレコアのさみしさがこもっています。

◆ニナ・パープルトン──「悪女」の銃口の向かう先

 ニナは『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』のヒロインですが、とんでもない裏切りをしたことで『ガンダム』シリーズの悪女として名を挙げるファンも多いです。彼女はガンダム試作1号機と2号機を開発したアナハイム社のエンジニアとして、主人公のコウと出会います。

 物語はジオン軍の再興を目指すガトーに強奪されたガンダム2号機の奪還を軸に進んでいきますが、中盤でニナがかつてガトーと交際していたことが明らかに。

 コウとも恋仲になり始めた矢先、今彼と元彼が争う状況に動揺しますが、決定的な事態が起きたのは最終局面です。

 コロニー落としの阻止がかかった決戦の末、コウはガトーを追いつめます。しかしそこに乱入したニナは、あろうことかガトーをかばって銃口をコウに向けました。

 「主人公である今彼ではなく元彼を選ぶの!?」と視聴者が驚いた瞬間です。

 ニナにしてみれば、コウが怒りに任せてガトーを撃ったところでコロニーの落下は阻止できないし、人の命を奪った罪悪感を背負って生きてほしくないという気持ちがあったのかもしれません。

◆シャア・アズナブル──「君のお父上が悪い」のだとしても

 シャアはザビ家に父親の命を奪われ、ジオン公国を追われる身となったため、そもそも裏切るためにジオン軍に入ったという経緯があります。そんなシャアの裏切りを象徴するエピソードが、『機動戦士ガンダム』の第10話「ガルマ散る」です。

 士官学校時代からお互いに認め合う親友だったガルマ・ザビですが、復讐のチャンスと判断するやあっさりそそのかして、ホワイトベース隊の集中砲火に飛びこませてしまいました。

 ガルマの国葬でギレンの演説中継を見ているシャアはどこか憂いを帯びていて、ザビ家への復讐心はあったもののガルマ個人にはシャアも友情を感じていたのではないかと思えます。

 これはシャアが『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』で、エドワウ・マスという偽名を名乗っていた頃、キシリアの追手から身を守るために、シャア・アズナブルという名前の同世代の青年と入れ替わったときと似て非なる部分です。

 この青年はキシリアの追手により、エドワウとして消されてしまいます。しかし我々のよく知るシャアは自分の身代わりにした青年に対して、嘆くことはありませんでした。それだけガルマに対しては、特別な気持ちを持っていたということだと考えられます。

 

 ──さまざまな裏切りをふり返る中で、どんなキャラクターも戦争や時代、状況に翻弄されていました。復讐や男、友情など裏切る理由はさまざまですが、本人にとってはその感情こそが正しさの指標なのでしょう。

〈文/雨琴 編集/諫山就〉

 

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