『機動武闘伝Gガンダム』放送開始30周年で、記念イラストの公開や、今年の夏に書き下ろし外伝シナリオが展開されることが発表されました。

 放送当時はガンダム同士が格闘技をするという荒唐無稽な内容に、「こんなのガンダムじゃない!」という激烈な反応もあったこのアニメですが、改めてどのような作品だったのでしょうか?

◆『Gガンダム』での戦争はガンダムファイト

 『Gガンダム』はアムロとシャアが戦った宇宙世紀の物語ではありません。よって戦争の描かれ方も、それまでの『ガンダム』シリーズで描かれてきたものとは違った描かれ方をしています。

 ガンダムファイトは4年に一度行われるガンダム同士の格闘大会ですが、コロニー連合の主権国家を決めるために行われているという背景があります。

 いわば現実のオリンピックをモチーフに、より代理戦争としての色合いが濃くなっているといえるでしょう。

 そもそも宇宙世紀の『ガンダム』シリーズとは、地球とスペースコロニーの関係性が異なります。

 宇宙世紀の『ガンダム』は世界の人口が増えすぎて、地球に住む場所がなくなり、スペースコロニーを作って移住するところから話が始まります。住む場所を追われた貧困層がコロニーで生活しているので、自治を獲得するために起こした戦争が、『機動戦士ガンダム』で描かれた一年戦争です。

 一方で『Gガンダム』では、環境破壊が行きついて荒れ果てた地球から、富裕層が脱出するようにコロニーを作って移住したという逆の流れです。

◆腐敗する政府や軍部

 宇宙世紀の『ガンダム』シリーズでも、連邦軍が腐敗してティターンズを生んだように、『Gガンダム』でもネオホンコン政府やネオジャパン軍部の腐敗が描かれています。

 特にネオホンコン首相のウォンは、既に別格の地位と財産を築いているにも関わらず、世界を自分のものにするためにデビルガンダムを秘密裏に回収したり、失格になったガンダムファイターを裏取引で決勝大会に復帰させたりしています。

 また、このアニメの黒幕であり、ネオジャパン軍部で暗躍するウルベを演じるのは、くしくもティターンズの腐敗と最前線で戦ったカミーユ役の飛田展男さんなのも縁を感じます。

 『Gガンダム』に出てくるガンダムはモビルスーツではなくモビルファイターという特殊なマシーンですが、ネオジャパンの軍隊はファントマやブッシといったモビルスーツを使用しています。

◆人と人とが誤解なく分かり合う方法を探して

 『ガンダム』シリーズ。特に宇宙世紀のものを語る上で欠かせない要素としてニュータイプがあります。説明や定義はいろいろありますが、「人と人が誤解なく分かり合える能力」なんて形容されることがありました。

 実際の『ガンダム』の作中ではコミュニケーションエラーを起こす場面もたくさんあるのですが、人と人が分かり合うことを描こうとしているのは間違いないでしょう。

 『Gガンダム』は格闘大会のガンダムファイトを縦軸に進んでいくので、基本的に拳常節で語り合い、分かり合うエピソードが続きます。

 それは主人公、ドモンと東方不敗の師弟関係などが最たるものですが、この物語の最終局面はそれでは終わりません。

 最終回でデビルガンダムの生体コアとなったヒロインのレインを奪還するために、ドモンはそれまで素直に伝えられなかった思いの丈を言葉にします。

 武骨で愚直な男の「お前が好きだ」、「お前が欲しい」という飾り気のない素朴な言葉にレインが応じることで、本作最大の最強の必殺技、石破ラブラブ天驚拳に至ります。

 これは大事なことは言葉で伝えなければ分からないということを示しており、その意味では他のどのガンダム作品以上に、分かり合うというテーマを見事に描き切っています。

◆環境破壊をしても人類に絶望しちゃいない!

 環境問題についても『Gガンダム』は本質的な問いかけをしています。

 宇宙世紀の『ガンダム』シリーズでは『逆襲のシャア』などで、アクシズを落としてでも地球に休んでもらおうと言い出すくらい、環境問題への意識が描かれていました。

 『Gガンダム』はそもそも環境破壊が行きついた結果、地球に住みづらくなったからコロニーに移り住んだという経緯なので、正面から環境問題を扱っています。

 デビルガンダムの元となったアルティメットガンダムは、本来その機能で地球環境を再生する存在でしたが、自己再生・自己進化・自己増殖をくり返して暴走してしまいます。

 デビルガンダム細胞を与えられたガンダムファイターを従える場面も多々ありますが、健康な細胞の制御が利かなくなった結果、不死身で増殖するという点からデビルガンダム細胞はがん細胞に似ています。身体能力が規格外の東方不敗でさえ克服できない病を患っていたことを考えると、東方不敗もがんだったのかもしれません。

 人間の制御を離れた力で、人間の身勝手による自然破壊を非難する東方不敗でしたが、ドモンはそれに対し人間もまた自然の一部であり共存なくして自然の再生はありえないことを説きます。つまり『逆襲のシャア』でアムロが言った通り、ドモンもまた人類に絶望していなかったわけです。

 『寄生獣』なんかも人間が増えすぎたことで崩れた自然界のバランスを調節するようなイメージの警句から物語が始まっていました。そんな中で、人間も共存してこその環境問題という答えを出して見せた『Gガンダム』は特筆すべき作品と考えます。

〈文/雨琴〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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