戦争を描く『ガンダム』シリーズで避けては通れないのが、孤児や難民の存在です。
戸籍を抹消されくず鉄のような値段で人身売買される命もあれば、廃棄されたモビルスーツの武装を使ってたくましく生活する子供たちも──。
◆アムロとドアンがいれば戦争なんて怖くない?──ククルス・ドアンの島の子供たち
劇場版『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』で、ドアンとともに暮らしていた子供たちは、サザンクロス隊の高機動型ザクを撃退したアムロを讃えて「アムロとドアンがいれば戦争なんて怖くないね!」と話していました。
ドアンは小説版によると教会で育った過去を持ち、一年戦争で行き場を失った孤児たちに対して、自身を重ねるように島での生活をともにしていました。
寝る前の約束なんかも、教会式のお祈りに近いものがありますが、それに正確に則しているわけではないところに、ドアンと宗教への距離感がうかがえます。
戦争の象徴であるモビルスーツをやっつけてくれるアムロとドアンは、子供たちにとって頼もしい存在ですが、どんなに良い子にしていても、戦争は理不尽な暴力に巻きこもうとしてきます。だからドアンも改めて怖いものであることを強調しました。
そしてアムロはドアンの身にしみついた戦いの臭いを消すことで、新たな戦いを呼び寄せないようにドアンのザクを投げ捨てます。
島の子供たちのその後は描かれていませんが、一年戦争が終わってジオン軍から追われることがなくなれば、ドアンは子供たちを島の外に連れ出したかもしれません。
◆ビームナギナタでお風呂を沸かす──ラスト・リゾート
『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ラスト・リゾート』にて、行方不明になったシローとアイナを探していたミケルが出会ったのは、ジオン軍のフラナガン機関から脱走してきた子供たちでした。
子供たちは廃棄されたゲルググのビームナギナタの出力を絞って点火することでお湯を沸かして風呂に入るなど、生活知に長けていました。
それもそのはず、地球での生活に慣れていない子供たちにその知恵を授けたのはシローとアイナでした。2人も『機動戦士ガンダム第08MS小隊』第7話「再会」で、あわや凍傷と言う状況でビームサーベルを使って作った露天風呂で暖をとっていました。
子供たちにサバイバル技術を教えたシローとアイナは、新たな生活を始める決意として、自分たちの墓を建て、子供たちに自分たちと08小隊の仲間の名前を授けていました。
フラナガン機関はニュータイプ研究施設なので、サバイバル技術を学ぶ機会とは縁遠く、シローたちに出会えていなければ、そのまま何もできずに命を落としていた可能性もあります。
実際、ミケルが子供たちと出会ったあとに1人の少女が埋葬されました。その少女の名前がアイナであったことから、ミケルは子供たちとシローの関わりを知りました。
戦争が終わっただけでは、孤児など行き場を失った人たちにとって、生活が過酷であることに変わりはりません。
◆地球へ戻ってきたせいで土地を追い出される人がいる──ローラの牛
『∀ガンダム』にて、月からの帰還民クーエンは地球に戻れることを大変喜んでいましたが、そのせいで地球に住んでいる人が追い出される光景を見て疑問を持ちます。
妻と赤ん坊のためにミルクを求めますが、ディアナ・カウンター兵からは現地住民から盗んでくることを薦められて毅然と断ります。
クーエンは人が良い故に、帰還政策の不十分さを一身に受けます。赤ん坊がいることもあって、ロランはキースやフラン、ソシエたちと協力して、ディアナ・カウンターの降下のドタバタで脱走していた牛や豚を捕まえに行きます。
図らずもロランにとって、生き物をつぶさないようにモビルスーツのマニュピレーターを操作する実践訓練になりました。
なんとか無事にミルクの出る牛をつかまえてクーエンの妻と赤ん坊の下に帰りますが、現地の地球人から、「牛を盗んで来たのではないか?」「そもそも月から来なければ追い出されずに済んだ」と言う旨の非難を受けます。
帰還民のクーエン自身が、入植したことで地球の人たちを追い出したことへの葛藤や、月にいる間は信じるほかなかった帰還政策部が頼りないことを理解している人なだけに、ロランも共に葛藤します。
そして命に関わる心ない言葉を投げかけられたとき、ロランはついに自身がムーンレィスであることを明かしました。
どの人種が敵とか味方とか、出身地によって善悪が決まると言うこともなく、みんな毎日の生活を生きることに必死で、それ故に赤ん坊に与えるミルクにさえ寛容になれなくなっている状況を、ロランはなんとかしたかったのでしょう。
◆二束三文で買われる命──ヒューマンデブリ
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』において、宇宙で集めたくず鉄のように二束三文で人身売買される孤児たちのことをヒューマンデブリと呼ばれていました。
戸籍に該当するIDも抹消され、企業や海賊に所有権を示す登録書を握られて、モビルスーツ戦では使い捨てのように危険な作戦に投入されます。
生活面でも粗末な食事を与えられたり、大人たちから暴力を受けたりと、常に虐待にさらされる環境でした。
十分な教育を受けることができず読み書きもできない場合が多いので、本人の意志と無関係に阿頼耶識システムの施術を受けさせられます。
阿頼耶識による機敏な動きと、自分の身を守ることを考えない破滅的な戦い方もあって、正規軍にとっては厄介な存在でした。
また戦禍が広がることで、さらに孤児が発生し、ヒューマンデブリも再生産される負の連鎖が起こっていました。
クーデリアは鉄華団と出会いヒューマンデブリの実情を知ったことで、孤児院を作るなど状況の改善を試みますが、根本的な解決にはならず、終盤に向けてヒューマンデブリの廃止に動いていきます。
〈文/雨琴〉
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