『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、ファンの間で「置きバズーカ」と呼ばれるアムロの奇策が登場しました。
この戦法はシャアに察知され防がれてしまうため地味なシーンですが、直後のアムロの驚き具合からして、かなり自信のあった戦法だったと考えられます。
◆アクシズの影からサザビーを狙撃
この場面、シャアのサザビーはニュータイプ能力を使ってアムロの位置を探しています。
アムロのνガンダムはアクシズの影に隠れて、予め自機から離れた位置にバズーカを置いておき、サザビーが通りかかった瞬間、遠隔で狙撃をしました。
アムロは狙撃したのち、コクピット内でワイヤーのついたグリップを巻きとっているので、これがバズーカの遠隔トリガーでしょう。あえて有線式のグリップであることが、演出上も重要だと考えられます。
しかしサザビーはバズーカの発砲後に気づき、シールドで防ぐことで被害を避けました。
バズーカ型の兵器はシリーズにおいて、『機動戦士ガンダム』のころから登場していますが、実体弾の武装であるため、ビーム兵器と比べると弾の速度が遅く、発砲後に察知されて避けられることも珍しくありません。
◆アムロはなぜ「避けた!?」と驚いたのか?
サザビーがシールドで無傷だったことを知り、アムロは「避けた!?」と、大げさとも言えるリアクションをしています。
ファンネルや弾速の速いビーム兵器でなく、バズーカで狙撃したにも関わらず、アムロが異様に驚いていたのはなぜか?それはシャアにねらいをつけていると気づかれない自信があったからでしょう。
νガンダムのフィンファンネルのようなサイコミュ兵器で攻撃する場合、特にアムロとシャアのような強力なニュータイプ同士の戦いであれば、お互いに感応してねらっている場所を勘づかれるリスクがありました。
むしろバズーカのような実体弾の兵器を自機から離れた場所に設置し、トリガーも有線式で狙撃するのであれば、サイコミュも使っていないので、反応される可能性を下げられます。
しかし実際は、発砲後にバズーカの存在にシャアが気づいてシールドで防ぐことに成功しました。
アムロもバズーカで仕留められるとまでは思っていなかったでしょうが、ダメージを与えて戦闘を有利に運ぶことができる位置に誘導するねらいがあったからこそ、無傷でやり過ごされたことに驚いたと考えられます。
◆敵を知り己を知って編み出した戦法
敵も味方もサイコフレームの技術を手にし、ファンネルのようなオールレンジ攻撃は両軍が使える時代になっています。だからこそ、ニュータイプ能力の感応で察知できない攻撃があるとしたら、アムロにとっても脅威だったはず。
アムロはシャアに勝つために、自分がされたら最も厄介だと感じる戦法を考えに考えて、遠隔で物理兵器による狙撃ができる置きバズーカを考えたのではないでしょうか。
実際サザビーとの接近戦ではかわし切れずにνガンダムのスカートを切られていました。
ビームサーベルの出力差のお陰で善戦しているものの、バルカンを使って距離を取ろうとするなど、シャアとの接近戦を警戒している節があるのは、一年戦争時代にもろにキックを受けた印象が残っているからでしょうか。
同じく一年戦争時を思い出すと、ラストシューティングも遠隔操縦で狙撃をして相討ちになった事例ですが、置きバズーカはあの時の決着の再来とはいきませんでした。
◆もしも相手がギュネイだったら
ギュネイはアムロとの初戦で、アムロが分離したリ・ガズィのBWS(バック・ウェポン・システム)を目で追ってしまっていました。
シャアの救援を受けた後もダミーバルーンに翻弄されるなど、視覚的に注意を引き付けられている節があります。
作中でギュネイのヤクト・ドーガが撃墜される場面では、アムロがνガンダムのバズーカとシールドをあえて放し、ギュネイの注意がそちらにそれたところを見計らってビームライフルで撃墜しました。
アムロは、ギュネイが感覚的に過敏になりやすい性質を持った強化人間で、目で見た物に気を取られてしまうことを、それまでの戦闘で見抜いたのでしょう。
サザビーと同じくファンネルを使うヤクト・ドーガ相手ですが、隠れた場所から置きバズーカ戦法をするより、分かりやすく囮を見せるほうが、油断させやすい相手だと見破っています。
ギュネイとの交戦はわずかな時間だったはずですが、ここまで正確に相手を洞察しているなんて、さすがロンド・ベルのモビルスーツ部隊長です。
──アムロは連邦軍の数少ないニュータイプ兵士として、一年戦争後はムラサメ研究所で、ニュータイプ研究の名目で新型モビルスーツの運用試験等に携わっていました。
のちに数々の強化人間を輩出するニュータイプ研究所として有名なムラサメ研究所ですが、最強のニュータイプであるアムロを解剖するわけにはいかないので、アムロに何度も模擬戦をさせて、対ニュータイプ用の戦闘データを集めたと考えられます。
その時の経験が、最強のニュータイプを倒す戦法を考えるヒントになったのでしょう。
〈文/雨琴〉
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