『機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争』で活躍したガンダムNT-1(コードネーム、アレックス (ALEX))は地球連邦軍の数少ないニュータイプ専用機で、ホワイトベースのアムロに届けられる予定でした。
同時代のジオン軍のモビルアーマーにはブラウ・ブロやエルメスなど、ニュータイプ用の武装を装備している機体がありますが、そのような装備のないガンダムNT-1のどこがニュータイプ専用だったのでしょうか。
◆元々はアムロ専用機ではなかった
<画像引用元:Amazonより>
アムロがサイド7で初めてガンダムに乗りこんだ日が、宇宙世紀0079年9月18日です。一方でガンダムNT-1の開発が始まったのは同年の8月なので、アムロがガンダムに乗る前から開発がスタートしていたことになります。
媒体によっては、「ガンダムNT-1はアムロのために開発された」と表現されることがありますが、正確にはアムロ専用機として最終調整されたのでしょう。
そもそも地球連邦軍は、シャアの父であるジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプ論やジオニズムとは反目しており、ニュータイプの実在さえ疑っていた状況でした。
ニュータイプが何者なのかも分からないそんな中で開発がスタートしているので、当然ジオン軍のようなサイコミュ兵器の開発には遅れをとっています。
◆どこがニュータイプ専用なのか?
サイコミュ兵器などのニュータイプ専用装備がない中で、ガンダムNT-1のどこがニュータイプ専用にアレンジされていたのかというと、高い反応性です。
ニュータイプというのは、ビーム兵器が発射されてから目視で避けるくらい反応性が高いらしいことは連邦軍側も把握していました。
のちにアムロのガンダムにも施されるマグネットコーティングはもちろん、グリプス戦役の頃には当たり前のように各機に採用されていた全天周囲モニターとリニアシートを初装備しています。
またスラスターの増設と大型化により、総推力はアムロのガンダムの3倍近くまで向上し、宇宙世紀のガンダムタイプでもトップレベルのスラスター推力があります。
通常の3倍の専用機と聞くと、シャア専用ザクを意識したスペックだったのかもしれません。
総重量もアムロのガンダムと比較して3分の2まで軽量化されており、ニュータイプの高い反応速度と機動性によって戦闘を有利に進める意図があったのでしょう。
一方、耐久性を補うための装備としてチョバムアーマーもありますが、機動性を損なわないためにアーマー自体にもスラスターがついています。
しかしニュータイプが登場する際は被弾を前提としない分、余剰な装備になるので、アムロの下に届いていたら、チョバムアーマーは使用されなかったかもしれません。
◆ニュータイプが乗らなくても強かった!
作中、サイクロプス隊との戦闘では、クリスによる最終調整が行われている時期でした。アムロの反応速度に合わせて調整していたため、選抜されたパイロットであるクリスですら、性能を十分に引き出せてはいませんでした。
また中立コロニー内での戦闘であったため、ビームライフルを使うことができないというハンデもあります。
一方でチョバムアーマーはケンプファーのショットガンの直撃にも耐え、虎の子のチェーンマインも使い切らせる十分な戦果を挙げ、腕部のガトリングも決着の決め手になりました。
その後のバーニィのザクⅡ改との戦闘で中破しますが、くしくもニュータイプ専用に用意した装備ではないチョバムアーマーや隠しガトリングの有効さが証明されました。
◆ガンダムNT-1の遺した影響
ガンダムNT-1の開発データはジム・カスタムなどのオーガスタ系モビルスーツに引き継がれ、量産機の開発に役立てられています。
チョバムアーマーもジム・クゥエルやジム・キャノンⅡ、ガンダムTR-1[ヘイズル]などに部分的に採用され、推力と耐久力を向上させることに一役買っています。
肝心のガンダムNT-1自体は、回収された後オーガスタ研究所が取り戻し、強化人間の育成に使ったようです。
グリプス戦役でティターンズが失脚してからは、非人道的な強化人間研究に対しての風当たりも強くなり、オーガスタ研究所はティターンズを介してガンダムNT-1をサナリィに売却しました。
表向きはそのままサナリィが保管していることになっていますが、『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』においてガンダムNT-1は、改修を施されたガンダムAN-01トリスタンとして登場します。
巨大アームドベースを使用しガンダム試作3号機(デンドロビウム)のようになったクレヴェナールや、漫画版ではついにインコムによるオールレンジ攻撃を行えるようになったフェイルノートなど、強化ユニットを装備し一年戦争のころに作られたとは思えない活躍を見せています。
──宇宙世紀の作品は時代の隙間がいつの間にか埋められていることがあり、モビルスーツやキャラクターが意外な形で再登場していることも珍しくありません。
ニュータイプが乗ることがなかったのに、ガンダムNT-1が後世に与えた影響は大きい。さすがアムロ専用になる予定だった機体といえるでしょう。
〈文/雨琴〉
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