トールギスといえば後継機も含めて純白を基調としたカラーリングでお馴染みですが、開発当初はリーオーのような迷彩系の地味な色をしていました。いったいどうして現在知られるような純白になったのでしょうか。
◆なぜトールギスは純白になったのか
もともとトールギスは、純白のカラーリングではなく迷彩色が採用されていました。
トールギスは本編が始まる20年前にガンダム開発者の5人とハワードによって作られてから、長らく封印されていました。
『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』で、若き日のトレーズがコルシカ基地でハワードと封印されたトールギスに出会ったときのことが明かされます。
トレーズはトールギスの機体コンセプトに感銘を受け、ハワードもまたトールギスに乗るパイロットに対して独特の美学を持っており、トレーズと共鳴します。
トレーズはハワードに、「いずれ自分もトールギスに乗りたい」旨を告げつつ、迷彩系の機体色について「エレガントな色に」変えるよう注文をします。その結果、現在知られる純白に塗装されました。
◆トレーズが感銘を受けた機体コンセプトとは?
トールギスの機体コンセプトは防御力・機動性・攻撃力を兼ね備えた最強兵器であり、のちのウイングガンダムやウイングガンダムゼロと同じものです。
トールギスはプロトタイプ・リーオーと呼ばれるように、アフターコロニー作品における最初の戦闘用モビルスーツで、トールギス以前のモビルスーツは宇宙での作業用機械でした。
トールギスは兵器としてのモビルスーツの可能性を突きつめ、「たった1機で数千の敵を相手にする“英雄”として、考え得るすべての戦闘パターンにおいて、単機でも完璧な勝利を可能にすることを目的に作られました。
しかし、作中でテストパイロットだったオットー特尉が負荷に耐えられず命を落とすほどの過剰な性能を持っています。
そのためスポンサーであるロームフェラ財団は商品としての価値は低いと判断し、大幅に性能を落としたリーオーを量産しました。
トレーズは士官学校時代から優秀でしたが、それ故に兵器としてのモビルスーツの存在に疑問を持っていました。
しかし1機で多数を相手取り、英雄のように戦局を変えることができるトールギスと出会うことで、モビルスーツを使った戦術を確立。後の地球圏統一連合の特別モビルスーツ部隊であるスペシャルズの創設につながります。
◆純白はエレガントなのか?
トレーズ自身はトールギスの純白をエレガントだと思っていたのでしょうか。
トレーズが実際に搭乗したトールギスⅡは、地球の代表者であることを意識した青と白の配色でした。
そしてトールギスⅡと同時期に作られたトールギスⅢもまた、白に青が入っています。
このことから、もしかしたらトレーズ的には純白より白と青が使われているほうがエレガントと考えていた可能性があります。
いずれにせよ迷彩のように、風景に埋没して何機いるのか分からなくなる地味な色より、白や原色などの、そこに存在することがはっきりと分かる目立つ色であることが、トレーズにとっての英雄の条件なのかもしれません。
ハワードがトールギスを白く塗ったあとに表舞台に出てきたガンダムたちも、ステルス戦闘を前提とするデスサイズ以外は、派手な配色でした。
トレーズは手段としての戦争を肯定しつつも、戦争によって犠牲となる命に対して悲しんでもおり、五飛との一騎打ちのように、英雄1人の手で戦争の決着もつけるべきと考えていたのでしょう。
◆漫画版限定の「ブラックトールギス」とは?
放送当時に『コミックボンボン』で連載されていた漫画版において、トレーズはホワイトファングとの決戦で、漆黒のトールギスに搭乗しています。
これは作者のときた洸一先生が、原稿執筆時にトールギスⅡの決定版配色ができあがっていなかったため、「どんな色にもとれるように」と黒い配色にしたためです。
「ブラックトールギス」と言う呼称も雑誌掲載時のみに使われ、単行本では使われていません。
放送当時、リアルタイムにテレビ版と漫画版が作られているが故に起きた現象ですが、トレーズ的にブラックトールギスはエレガントだったのでしょうか。
ちなみにトールギスは後継機や派生機も含めて基本的に白系の機体がほとんどですが、『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 敗者たちの栄光』などで存在が語られる、老師Oがシェンロンガンダムの開発過程で作ったトールギス始龍は濃紺の機体色でした。
──トレーズが反対していたモビルドールのような無人機を使って戦争をした結果は、シリーズの別作品『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』で描かれています。
一方、ガンダムの大きさと“おもちゃカラー”について富野由悠季監督は2020年12月のイベントで「動いても優しい」と述べていました。
匿名性が高く埋没した機械である無人機の脅威と、自らの存在をアピールする色のカリスマは、ガンダムシリーズに共通するテーマかもしれません。
〈文/雨琴〉
※サムネイル画像:Amazonより