『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の終盤で、アムロのνガンダムが光を放ち、地球にアクシズの破片が落下するのを阻止した現象を「アクシズショック」と呼びます。
ガンダムとニュータイプの放つ強力な力を間近で目撃した者の中には、ニュータイプのためにガンダムを自ら作る者もいれば、悪魔の力に魅入られガンダムを強奪する者も……。
◆アクシズショックなんてなかった──ブライト・ノア
ブライトは、漫画『機動戦士ガンダムUC 虹に乗れなかった男』で、アクシズ破壊のためにカムランから非公式に譲り受けた核兵器と、実子であるハサウェイの無断出撃について国家騒乱罪の容疑をかけられ、連邦軍の審問会に呼び出されました。
そこでブライトは司法取引を持ちかけられ、終身刑物のこれらの罪状を不問にする代わりに、アクシズショックにまつわるすべてを黙殺することを約束させられます。
連邦政府にとってアクシズショックは、ニュータイプがサイコフレームを駆使して奇跡を起こせる存在だと言う証明になりかねない現象です。それを認めることは、廃れかけていたジオニズムに勢いを与え、ニュータイプの奇跡を信じるジオニストとそれを否定する連邦軍の戦争が、宗教戦争のような泥沼化を起こしかねないデリケートな問題でした。
アムロやカミーユ、ジュドーといった多くのニュータイプと戦場をともにしてきたブライトだからこそ、アクシズショックに希望を持っていましたが、悩んだ末に彼らの声に励まされる形で司法取引を受け入れることにします。
ロンド・ベルに留任するという条件をつけることで、新たなニュータイプとの出会いに可能性をつなぎながら……。
◆嫉妬と憐れみの果てにガンダムを作る──ジョブ・ジョン
ジョブは漫画『機動戦士ガンダムF90FF』の中で、後方のサラミス改に乗船しアクシズショックを目撃していたことが描かれています。
一年戦争当時から正規兵である自分より民間人のアムロが、ニュータイプ能力を駆使して活躍していることへの劣等感を感じていましたが、アムロとの何気ない会話の中で、力を持つが故の苦悩に気づかされてもいました。
割りきれない気持ちは、サナリィでF90の開発責任者としてガンダムを作る立場になってからもあったようで、疑似人格コンピューターには、アムロをモデルにしたらしきA.RやシャアをモデルにしたらしきC.Aと言う戦闘プログラムを開発していました。
マッドサイエンティスト然とした振る舞いから誤解されやすくはありますが、アクシズショックによって奇跡を起こした代償のようにアムロとシャアが行方不明になったことから、強力な力を持つニュータイプがその力によって不幸な運命をたどることのないようにという気持ちは台詞の端々に残っています。
◆ギラ・ドーガの手をつかんだジェガン──ユウ・カジマ
ユウはセガサターンで発売されたゲーム『機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY』の主人公です。
一年戦争当時はブルーデスティニー1号機や同3号機に搭乗し、EXAMシステムを巡る戦いを生き延びました。
アクシズ落下の際はジェガンでアクシズに張り付き、同じく張りついて引力で弾き飛ばされたギラ・ドーガの手をつかんで助けています。
アクシズショックに現場で立ち会った数少ない人間の1人ですが、この戦闘の後、間もなく連邦軍を退役しました。
口数の少ない人物でもあるので、一年戦争の頃からずっと軍属だった彼が何を思って退役を選んだのか難しいところですが、アクシズショックをなかったことのように扱う連邦政府の隠ぺい体質に嫌気がさした可能性もあります。
ちなみに彼は、一年戦争時はシミュレーター上でアムロのガンダムの戦闘データにも勝つほどの腕前で、小説版では終戦時における連邦軍のエースパイロットランキングの上位5位に入れるほどでした。
◆アムロの一番近くに──ボッシュ・ウェラー
漫画『機動戦士ガンダムF90FF』で、カラバからロンド・ベルまでずっとアムロの部下としてついてきていたことが明かされたボッシュ。
彼もアクシズショックの際、ジェガンに搭乗しνガンダムとともにアクシズを押し返そうとした1人でした。
「νガンダムから放たれた光」を間近で見て、人の心の起こした奇跡を知っていながら、それでもボッシュはのちに、ガンダムF90の強奪事件を起こします。
ボッシュは部下としてアムロの一番近くで時間を過ごしてきたからこそ、アムロの特別ではない、普通の青年としてのあり方を知っている理解者でした。
だからこそ、アムロの最後や、その経緯を隠ぺいするに至った連邦軍に納得がいかず、アムロという普通の青年ではなく、彼を連れていってしまったガンダムという器に、悪魔の力を見出し、ボッシュ自身も強奪と言う手段によってガンダムを手に入れました。
ニュータイプの力が指し示した希望を直視せず、ただの力として消費しようとする連邦軍に対して、ガンダムの力で反抗するということでしょう。
強奪後のF90二号機の配色はカラバ時代のアムロが搭乗したΖプラスを思わせる、白に赤の差し色の入ったものであることも、アムロに置いて行かれ、アムロを忘れられないボッシュの気持ちが投影されているのかもしれません。
〈文/雨琴〉
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