株式会社カラーが自身の公式YouTubeチャンネルにて、1月29日からかつて「日本アニメ(ーター)見本市」という企画で制作された短編アニメーションから『I can Friday by day!』と『偶像戦域』の2作品のリバイバル公開をスタートしました。観られる環境があるといいなぁ、というタイミングに発信してくれるところがさすがです。
これは現在公開中の劇場先行版である『機動戦士Gundam GQuuuuuuX (ジークアクス)-Beginning-』(以下、『ジークアクス』)の公開に合わせての試みとなっているのですが、なぜ『ガンダム』と関係ないこの2作品が配信されたのでしょうか。
◆なぜリバイバル公開された? 「日本アニメ(ーター)見本市」作品と『ジークアクス』の関係
今回配信された短編作品たちはもともと2014年から2015年にかけて行われた「日本アニメ(ーター)見本市」の企画内で制作された作品です。
この企画は株式会社カラーと株式会社ドワンゴが共同で実施したもので、毎話違った監督たちがオリジナルの短編アニメーションを次々と発表していくという試み。最終的に30作品以上の短編がこの企画で生まれ、当時は専用サイトなどで配信されていました。しかしその配信も2016年初頭にはすべての作品が公開を終了し、いずれも気軽に観られない状態にありました。
注目点は「日本アニメ(ーター)見本市」に参加されたクリエイターの多くが現在もアニメーション界で大活躍している方やチームばかりという点です。
たとえば、この企画の第1作目である『龍の歯医者』は改めて2017年に長編作品として制作されたり、第9作目にあたる『電光超人グリッドマン boys invent great hero』はのちの2018年のTVアニメ『SSSS.GRIDMAN』へと発展するなど、それぞれが後のアニメシーンに多数の影響を与えています。
そして今回リバイバル配信となった2作品こそ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』へとつながっていく短編なのです。
◆『I can Friday by day!』で『ジークアクス』の重要スタッフが邂逅していた!
短編『I can Friday by day!』は、『ジークアクス』の監督である鶴巻和哉さんが監督を担当した短編アニメーションです。
男の子を取り合う二人の少女の話でもありつつ、実はその少女は機械仕掛けで中には小動物たちが潜んでおり、少女を操作しています。一風変わった世界観ながら、恋愛物語にも戦記物にも映るちょっと変わったストーリーです。
本作はもともと鶴巻監督が漫画家のウエダハジメさんに脚本を書いてもらおうというきっかけでスタートした作品で、さらにそんなウエダさんの紹介でイラストレーターの竹さんがキャラクターデザインとして参加することになりました。
実はこの二人は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』にもがっつり関わることになる方々。ウエダさんはコンセプトアートとして参加しており(※上田創名義)、竹さんはキャラクターデザインとして参加しています。ジークアクスの重要なスタッフたちによる最初の作品という意味でも、『I can Friday by day!』は意味の大きい作品なのです。
ちなみにそんな縁もあってか『ジークアクス』の主人公であるマチュのバッグには、『I can Friday by day!』の登場キャラクター“少尉”のマスコットが付いています。
◆『偶像戦域』ではメカニカルな方面での出会いが生まれていた!
一方の『偶像戦域』は『ジークアクス』でメカニカルデザインを担当している山下いくとさんが監督を担当した短編アニメーションです。
本作では地球のような星を舞台に戦争をする人々と、その惑星に秘められた秘密に迫っていく様子がダイジェスト風に描かれた短編です。わずか7分の映像ですがそこに到底収まらない膨大な設定資料のもと作られた作品であり、もはや“予告編”のような装いの作品となっています。
実はこの作品にも出会いが生まれていました。今回の『ジークアクス』の上映に合わせて公開されたクリエイターズトークでも語られているのですが、『ジークアクス』のプロデューサーの杉谷勇樹さんは、本作の制作で当時既に『ガンダム』作品に携わっていたアニメーターの金世俊さんと初めて仕事をすることになったそうで、その金さんが今回『ジークアクス』でアニメーションメカニカルデザインとメカニカル総作画監督を担当しています。
そもそも『偶像戦域』のアニメーション監督である古橋一浩さんといえば『機動戦士ガンダムUC[ユニコーン]』の監督を務めた方です。この頃からカラーがガンダムに急接近していたと言えます。
今回の『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』は満を持してカラーとサンライズの2社のタッグで生み出された企画だったわけですが、そこに至るまでのディテールが今回の短編には隠されているのです。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi