TVアニメ『機動戦士ガンダム』の第15話「ククルス・ドアンの島」は作画崩壊と作画ミスで有名です。2022年に公開された映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の会見では、同監督の安彦良和氏も「見るに堪えなかった」と感想を述べるほどでした。

 専用モビルスーツが生まれるきっかけとなった作画崩壊、まるでイリュージョンのような作画ミスとはいったいどのようなものだったのでしょうか。

◆作画崩壊でドアン専用ザクが爆誕

 「ククルス・ドアンの島」でドアンが搭乗していたのは普通のザクⅡのはずが、作画崩壊によって全体的にスリムなフォルムとなっていました。さらにザクの頭部は口が尖ったような、アゴがしゃくれているような独特の形に。そして『ククルス・ドアンの島』の映画化に伴って、このような特徴を踏襲した「MS-06Fドアン専用ザク」としてリファインされます。

 ドアンが乗っていたザクの顔の形はザクⅠ、いわゆる旧ザクと呼ばれるものに近いです。しかし、旧ザクにはない動力パイプが装着されていることから正式にはザクⅡとして描かれていたことが分かります。

 しかし、作画崩壊によって妙に鼻の下が伸びているような締まりのないフェイスとなってしまいました。ところがファンの間ではこの機体がドアンザクとして親しまれ、イラストを描いたり市販のガンプラを改造して再現したりする強者モデラーも現れることに。

  映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』では、ついに「MS-06F ドアン専用ザク」としてリファイン。さらに倒した相手の機体から部品を再利用しているという設定が追加され、当時の作画崩壊を生かす工夫がなされました。

 また、それまで不明だった型式もこのときにF型に正式決定。そのため、ドアンは地球降下作戦に参加した後、F型からJ形に換装される前のザクを奪って脱走したのだと考えられます。

 作画崩壊の原因の一つに予算不足もあったそうですが、それによって新しいモビルスーツが爆誕。ドアン専用ザクのガンプラの売上につながったことを考えれば、当時のスタッフの苦労も報われるのではないでしょうか。

◆アムロのガンダムも作画崩壊・作画ミスの犠牲に

 アムロのガンダムも作画崩壊によって妙に顔が面長になっているシーンがありました。また、ビームライフルを持って出撃したのに、次のシーンではバズーカを持っているなど作画ミスも多くなっています。

 問題のシーンは、コアファイターからガンダムへの換装シーンです。空中でドッキングした直後のガンダムはビームライフルを持っていますが、地面に着地するときの後ろ姿ではバズーカに変わっています。

 予算不足からほかのエピソードのセル画を流用したのだと思われますが、敵のザクもマシンガンを持っていたり持ってなかったり。まるで魔法のように武器が突然変わったり消えたりする現象は、ファンタジーアニメを観ているような気にさせられます。

◆ロランの麦わら帽子イリュージョン

 「ククルス・ドアンの島」のエピソードでは、ロランというアムロと同じくらいの年齢の女の子が登場します。彼女の麦わら帽子も作画ミスによって、まるでイリュージョンのように何回も消えたり現れたりする事態となっていました。

 ロランはほとんどのシーンでヒモの付いた麦わら帽子を首から下げて、背中に背負う形をとっていました。しかし、立っているときには麦わら帽子があったのに、ジオンのザクの砲撃を避けて地面に伏せたシーンではなくなっています。

 爆風で吹っ飛んだのかと思いきや、次のシーンではまた背中に背負っているなど消えたり現れたりする不思議な帽子です。生身の人間がザクにねらわれて逃げている最中、何度も出したり消したりするその鮮やかなテクニックはまるで奇術師。

 また、海辺のシーンでもこの麦わら帽子を使ったイリュージョンが見られました。背中にあった麦わら帽子はアムロをひっぱたくアップのシーンでは頭にかぶっており、次のシーンではまた背中に。

 つまり、アムロにビンタを張る瞬間に反対の手で麦わら帽子をかぶり、一瞬にして再度脱ぐという謎の行動をとっていたことになります。

 この麦わら帽子は特にストーリーにからむものではないため、なくても問題のないアイテムです。そのため、描くのが大変だったことを考えるなら、最初から麦わら帽子がない設定にしたほうが良かったのでは……という疑問をファンに抱かせることになりました。

◆安彦良和氏も驚く作画崩壊とモビルスーツの戦闘

 映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の会見では、安彦良和氏も第15話の作画崩壊ぶりを「見るに堪えなかった」と振り返りました。さらにこの回ではモビルスーツで殴ったり蹴ったり、あげくのはてには岩を投げつけるなどその肉弾戦中心の戦いぶりも話題となります。

 子供たちを守りながらの戦いでしたが、ドアンはなぜかビームライフルを持ったガンダムを下がらせて武器を持たないドアンザクで立ち向かいます。マシンガンを持つ敵のザクは圧倒的に有利でしたが、とにかくこの弾が当たりません。

 さすがにドアンザクも素手だけでは対抗するのは難しく岩を投げつけますが、野球選手のような投球フォームはとてもモビルスーツとは思えない動き。最後はボディーへの右ストレートが炸裂、その威力で敵のザクの背中が爆破するというまるでバトル漫画のような倒し方で決着します。

 映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』ではさすがに素手でガンダムと戦うのは無理があるということで、ドアンザクはヒートホークを装備することになりました。とはいえ第15話「ククルス・ドアンの島」のエピソードを見ると、ザクのフォルムや戦い方からククルス・ドアンの島ではガラパゴス諸島のようにモビルスーツが独自の進化を遂げるのかと思ってしまいます。

 

 ──本来、作画崩壊はネガティブな事案ですが、そのことがきっかけで専用ザクが生まれるとう驚きの事態に。時を経て過去のアクシデントが回収されて新しい設定に生かされるというのは、『機動戦士ガンダム』が長らくファンから愛されている証でしょう。

〈文/諫山就 @z0hJH0VTJP82488

《諫山就》

アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。

 

※サムネイル画像:https://g-doan.net/より


機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 公式サイト

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