<この記事にはTVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』のネタバレが含まれます。ご注意ください。>
今季に放送されているTVアニメシリーズの中でも、特に毎週のようにサプライズが用意されているのが『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』(以下、『ジークアクス』)です。
これまでの『ガンダム』シリーズでも過去作品とのつながりのある人物や同一人物が登場したり、同一のモビルスーツやモビルアーマーなど同一の機体が登場する例は多くありますが、今作ではその登場させ方にも従来存在した物語から分岐させていく“パラレルワールド”としての世界観を崩すことなく、随所にこだわりが感じられたり、意外なつながりや意外なキャラクターが登場したりするなど話題性に事欠きません。そしてそのこだわりは再登場する機体のデザインからもよく分かります。
◆しっかりリデザイン! 再登場するモビルスーツもそのまま登場するわけではない?
『ジークアクス』は、TVアニメシリーズ第1作目の『機動戦士ガンダム』で描かれた一年戦争から直接つながりのあるストーリーになっています。そのため、登場する多くの機体もそれに準じて、既存の設定を踏襲しています。しかし、そのデザインはしっかりと今風にアレンジが施されています。
たとえば、『ジークアクス』の第2話「白いガンダム」は『機動戦士ガンダム』の第1話「ガンダム大地に立つ!!」のストーリーがもしも違うものになっていたら……、というIFストーリーが直接描かれる回です。
しかし、登場する地球連邦軍の白いガンダムやガンキャノンであったり、潜入してきたシャア専用ザクなどであったりと、TVアニメ『機動戦士ガンダム』に登場するままではもちろんありません。ディテールがより細かく設定されていたり、シルエットもややスリムに見えたりと“ジークアクスナイズ”されています。
これは『ジークアクス』だけに限った工夫ではありません。2022年にTVアニメ『機動戦士ガンダム』の第15話をリメイクして長編化した『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』でも同様のことが行われています。
『ジークアクス』に比べると機体のデザインはより元のデザインに忠実ではありながらも、よりディテールが描き込まれたデザインになっていたり、ドアン専用ザクに至っては、当時の放送回での作画の特異さからミーム的に扱われていたやや面長な頭部のデザインになっていたりとこだわりを持ってリデザインされています。
既存の機体だからといって安易にそのまま再登場させるのではなく、しっかり作品に合わせて“リデザイン”するという工程が踏まれています。
◆独自のデザインが施された中では異色? 既視感の強い“シャロンの薔薇”
『ジークアクス』はそんな“リデザイン”の工程もかなりアレンジが強めに施されているシリーズなのですが、そんな中でもかなり異色な例が第9話「シャロンの薔薇」で登場しました。
それがサブタイトルにもなっている“シャロンの薔薇”です。シャロンの薔薇といってもその正体は『機動戦士ガンダム』に登場したエルメスそのもの。従来のシリーズを追っていた人からはエルメスの再登場に驚かされたわけですが、そんなエルメスのデザインに関しては、これまでに登場したモビルスーツやモビルアーマーとは違った方向性を感じるようにできています。
というのも、これまでは『ジークアクス』独自のデザインでアレンジされているものがほとんどでしたが、今回登場したエルメスに関してはそういった手の加え方がほとんど施されていない、従来のデザインほぼそのままでの再登場となっています。
これまでの機体のアレンジが強かったからこそ、今回のそのままでのデザインの登場がより際立つようになっており、作中でも異質な存在として光るのがまた仕掛けとしてよくできています。
あえて足し引きをしないという選択にそのまま意味が乗ってくるという点では、これも一つの“リデザイン”といえます。
◆やはり一つの機体を再登場させるだけでも大変? その苦労が感じられるチラリと登場する機体
一方でそんな『ジークアクス』第9話には、ほかにも既視感のあるモビルスーツが登場しています。
水中から肩から上の部分だけが見えている状態で登場している茶色の機体は、かつて『機動戦士ガンダム』で登場した水陸両用モビルスーツであるゴッグを思わせます。しかしほかの機体とは違って、公式サイトなどでも全身などのデザインは明かされていません。
その理由については、『ジークアクス』の製作を担っている株式会社カラーの公式X(旧Twitter)アカウントとは“別に”、よりコアな情報を発信している「(株)カラー 2号機」のアカウントで理由が明かされています。
GQ第9話。ラスト辺りに出てくる水陸両用モビルスーツは、水中作業の痕跡が画面にあった方が良いし、波間に浮かんでるだけだから肩から下のデザインは無くても大丈夫だし、現場の負担は少ないからと、鶴巻監督にお願いして登場させてもらいました。
もっと活躍して欲しいです。(弊社社長談)…— (株)カラー 2号機 (@khara_inc2) June 3, 2025
あの“ゴッグのような機体”に関しては、「水中作業の痕跡が画面にあった方が良いし、波間に浮かんでるだけだから肩から下のデザインは無くても大丈夫だし、現場の負担は少ないからと、鶴巻監督にお願いして登場させてもらいました。」とカラー社長……、つまり庵野秀明さんの采配で登場していたことが明かされています。
ここではっきりと分かるのが、わずかな出番であっても全身図のデザインなどを要するのが基本的には前提にあること。モビルスーツ一体を再登場させるだけでも、やはりそれなりに製作には負担がかかる……なので、肩から上だけデザインして負担を減らそう、という切り詰める方向性での工夫があのわずかなシーンには隠されていたわけです。
──大幅なアレンジを施した機体もあれば、従来とほぼ同様のデザインの機体もいたり、さらには部分的にデザインされていない機体までいたりと一つ一つを追っていっても方向性はさまざま。『ジークアクス』はメカニックのデザインからも製作の苦悩や工夫が感じられる作品となっています。
〈文/ネジムラ89〉
《ネジムラ89》
アニメ映画ライター。『FILMAGA』、『めるも』、『リアルサウンド映画部』、『映画ひとっとび』、『ムービーナーズ』など現在複数のメディア媒体でアニメーション映画を中心とした話題を発信中。映画『ミューン 月の守護者の伝説』や映画『ユニコーン・ウォーズ』のパンフレットにライナーノーツを寄稿するなどその活動は多岐にわたる。noteでは『アニメ映画ラブレターマガジン』を配信中。X(旧Twitter)⇒@nejimakikoibumi
※サムネイル画像:https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/story/2/より 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) 公式サイト 第2話場面写真』
機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) 公式サイト
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