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 『機動戦士Vガンダム』のDVD-BOX発売決定時、「こんなDVDは買ってはいけません」という富野由悠季監督の一言は、多くのファンに衝撃を与えました。誰もが「監督は『Vガンダム』を嫌っている」と感じたことでしょう。

 しかし、その発言はたんに「嫌い」というだけの理由で出たものではなかったのです。

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◆「見ないで」と言った富野監督、『Vガンダム』に刻まれた葛藤

 1993年放送の『機動戦士Vガンダム』は、『ガンダム』シリーズの中でも異彩を放つ作品でした。

 その総監督・富野由悠季氏がTV放送から10年後の2004123日発売の『機動戦士Vガンダム DVDメモリアルBOX』に付属された副読本のインタビューで、「このDVDはみられたものではない。買ってはいけません」と述べたことは有名なエピソードです。

 しかし、その言葉の裏にあるのはたんなる自己否定ではなく、当時のアニメ業界と自身の創作への深い葛藤がありました。

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◆初期構想と理想 「すこやかな成長物語」を目指して

 7年ぶりにTVシリーズに復帰した富野監督は、少年の成長を描く「すこやか」な物語を目指していました。

 初期構想の主人公・ウッソは「太陽のように明るく弱者を思いやる少年で、夢は自分が思っていれば必ずかなうと信じている」と設定されており、当時の子供たちの遊びの主流であった「RPG」要素を加え、少しずつ強くなる展開を想定していたのです。

 さらに『月刊ニュータイプ』19934月号(出版社:角川書店)の放映前コメントには、「テレビアニメの原点に戻って、楽しいロボットものにしたい」と熱い思いを残しており、富野監督がいかにこの『Vガンダム』に期待を込めていたかが分かります。

 しかし、その思いとは裏腹に、現場を取り巻く環境は監督の理想を次第に押し流していきました。

 当時、サンライズはバンダイ傘下に入ることを水面下で進めており、富野監督はそれを知らされないまま「会社の売値を上げるための作品」として『Vガンダム』を企画したのです。

◆上層部の思惑と制作現場の混乱

 その結果、現場にはベテランスタッフがほとんどおらず、さらにスポンサーから「地上を走るバイクみたいなタイヤ戦艦を出せ」といった突飛な要求まで降ってくる始末でした。そして放送枠の急な変更も追い打ちをかけます。

 19時のゴールデンタイムから17時の夕方に移ったため、完成済みだった第14話を組み替えて「第1話からガンダム登場」に見せる必要が生じ、物語の構成は混乱を極めてしまいます。

 富野監督は『アニメージュ』19936月号(出版社:徳間書店)での押井守氏との対談インタビューで「二晩泣き明かした。いや一晩考えた」と当時を自嘲気味に語りました。

 この混乱は、初期に掲げた「すこやかな成長」というテーマを揺るがし、『アニメージュ』199312月号のインタビューでは「人類は自己崩壊するしかない」とまで発言するほど、監督の心は暗く染まってしまいます。

 やがて作品は中盤以降、監督自ら脚本やコンテを引き受けることで持ち直し、 最終回についてはのちに「とても好きなラスト」と語り、スタッフとともにエンディングを作り上げた手応えも残しました。

 それでもTV放送から約10年後、2004123日に発売された『機動戦士Vガンダム DVDメモリアルBOX』に対して監督は「大人の汚濁に満ちた作品」と断じ、「買ってはいけません」とまで表現します。

 これは作品そのものを否定する言葉というより、制作環境や業界のあり方を含めた「当時の状況」を告発するレトリックであったことが、2004123日に発売されたササキバラ・ゴウ氏著書『それがVガンダムだ―機動戦士Vガンダム徹底ガイドブック―』(出版社:銀河出版)に記されていました。

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30年後の和解 監督が見つけた「好き」と言えるもの

 時を経て、富野監督の視線は変わっていきます。

 2015年のBlu-ray BOX発売時には「何がダメなのか探してください」と呼びかけながらも、かつて最も嫌っていたタイヤ戦艦を「アニメってこれでいいんだ」と肯定する機会が訪れます。

 DVD-BOXの発売直後、ガンプラの展示会でタイヤ戦艦のラフなモデルが展示されていたのを見た監督は、放送当時スポンサーからタイヤ戦艦を押し付けられて「嫌だと思っていた気持ちを全否定できた」と、Blu-ray-BOX発売決定時のインタビューで答えています。

 そしてさらに、2023616日出版の『グレートメカニックG 2023 summer』(出版社:双葉社)の『Vガンダム』30周年のインタビューでは、「見返してみるとちゃんと出るべくして出ていた」と穏やかに振り返り、かつて「つまらない女」と評したカテジナを「一番好き」とまで語ったのです。

 サンライズやバンダイへのわだかまりについても「その部分に関してはもう口にしない」と述べ、外圧に翻弄された当時を静かに受け入れている様子がうかがえます。

 最後のインタビュアーからの問いかけで、予告編でシャクティに「見てください」と言わせた理由を問われ、「うるせえ(笑)。可愛いだろ」と笑い、最後には「皆さん。ちゃんと、見てください!」と、長年に渡る富野監督と『Vガンダム』の確執に幕を下ろしました。

 

 ──「嫌悪しながら受け入れるのは一番やってはいけないこと」と学び、鬱を経てなお「『Vガンダム』があったから『Gレコ』まで来られた」と語った富野監督。

 「見ないで」と言ったその人が、数十年後に「見てください」と微笑む『Vガンダム』は、富野由悠季という作家の苦悩と成長そのものを映した、唯一無二のドキュメンタリーなのかもしれません。

〈文/honami

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「ウッソ・エヴィン 機動戦士Vガンダム」(出版社:KADOKAWA)』

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