『機動戦士ガンダム』の劇中で大量に撃墜される地球連邦軍の量産機ジム。アニメファンの間では「やられ役」「弱い」というイメージが定着していますが、実は公式設定上のスペックを見ると驚くべき事実が浮かび上がります。なんと、ジオン軍の強力な量産機ドムとほぼ同等の性能を誇っていたのです。
◆なぜジムは「やられ役」のイメージなのか?
『機動戦士ガンダム』において、一年戦争後期に地球連邦軍が開発した量産型モビルスーツ「RGM-79 ジム」。劇中では次々と撃破される姿が描かれ、視聴者に「弱いモビルスーツ」という印象を植え付けました。特にTVシリーズ終盤のア・バオア・クー攻防戦で、ジオン軍のザクやリック・ドムに次々と撃墜される様子が印象的です。
この「やられ役」としての描写は、ファンの間で「量産型=弱い」「ガンダムの廉価版」という印象を定着させました。ジムが量産機として大量配備されたこと、そして多くの場合、訓練期間の短い新兵がパイロットを務めていたことが、その印象をさらに強めたのです。劇中の描写だけを見れば、ジムはたんなる「数合わせの量産機」にすぎないように映ります。
しかし、これはあくまで演出上の印象です。実際に公式設定資料を精査すると、驚くべき事実が浮かび上がってきます。
◆ジムとドムは同等スペックだった!?
プラモデル、HGUC 1/144 RGM-79 ジムと、HGUC 1/144 ドム/リック・ドムの取扱説明書を見てみると、ジムとジオン軍の主力機ドムの性能がほぼ同等であることが確認できます。
もっとも注目すべきは、ジェネレーター出力です。ジムの出力は1,250kW、一方のドムは1,269kW。その差はわずか19kW、パーセンテージにして約1.5%しかありません。これは誤差の範囲内といってもよいレベルです。
推力面ではドムが58,200キログラムに対し、ジムは55,500キログラムとやや劣ります。しかし機体重量を見ると、ドムが62.6トンであるのに対し、ジムは41.2トン。推力重量比で考えれば、軽量なジムのほうが機動性で有利な場面も多かったはずです。
つまり、スペックの数値ではジムとドムは極めて近い性能を示しており、同クラスの機体として扱える水準にあります。数値を比較すれば、「ジム=廉価版」という通説は根拠に乏しいことが分かります。
◆ジムとドムの装備面での違い
出力や推力といったスペックではほぼ同等だったジムとドム。しかし、装甲材と兵装の面では、両機に明確な違いがありました。
装甲材について、ジムはチタン系合金を採用。一方、ドムは超硬スチール合金を使用。チタン系合金はガンダムのルナ・チタニウム合金より強度は劣るものの、軽量性に優れ、量産性が高いのが特徴です。対して超硬スチール合金は加工が容易で安価ですが、チタン系合金より重量があります。どちらが優れているかは一概にはいえませんが、ジムの軽量性は機動性の面で有利に働いた可能性があります。
さらに、ジムの主兵装のビーム・スプレーガンは、ガンダムのビーム・ライフルを小型化した量産型ビーム兵器であり、実弾兵器中心のジオン軍に対して技術的優位を示していました。ドムの主武装であるジャイアント・バズーカは強力ですが、実弾兵器のため弾数に限りがあります。一方、ビーム・スプレーガンはジェネレーター直結式のため弾切れの心配がなく、一年戦争後期の戦場では大きなアドバンテージとなっていました。
つまりジムは、スペックでドムと互角でありながら、軽量性と継続戦闘能力の面で独自の強みを持っていた機体だったといえます。
◆なぜ高性能機のジムは弱く描かれたのか?
では、なぜこれほど高性能なジムが劇中で「やられ役」として描かれたのでしょうか? その理由は主に2つ考えられます。
第一に、パイロットの練度不足です。一年戦争末期、連邦軍は急速にモビルスーツ部隊を拡充しましたが、パイロットの訓練期間は十分ではありませんでした。ベテランパイロットが駆るジオン軍機に対し、新兵が操縦するジムでは実力差が大きかったのかもしれません。優れた機体も、操縦者の技量が伴わなければ真価を発揮できません。
第二に、物語上の演出です。『ガンダム』という作品において、主人公・アムロが駆るガンダムの特別性を際立たせるためには、量産機であるジムが圧倒的に強いわけにはいかなかったと考えられます。ジムが活躍しすぎれば、ガンダムの存在意義が薄れてしまうという制作上の都合もあったといえます。
しかし戦略面では、ジムこそが連邦軍勝利の大きな要因でした。プラモデル、MG 1/100 RGM-79 ジム Ver.2.0の取扱説明書によると、U.C.0079年12月のア・バオア・クー戦では、ジム系列が主力として参戦し、最終的な勝利を支えたとされています。
──当時のスペックとしては高水準の量産機でありながら、人的要因と演出上の理由から「弱い」イメージが定着したジム。その姿は、優れた機体も操縦者の技量がなければ真価を発揮できないという、『ガンダム』シリーズが一貫して描いてきた本質を体現しています。
そしてこの構図は、人間社会にも通じる普遍的な教訓といえるでしょう。どれほど優れたスペックや肩書きを持っていても、それを生かす力や努力がなければ意味がない──。公式データを知れば知るほど、ジムという機体が提示するメッセージの深さに気づかされるのではないでしょうか。
〈文/コージ〉
※サムネイル画像:バンダイホビーサイトより 『「HGUC 1/144 RGM-79 ジム」(メーカー:バンダイ) (C) 創通エージェンシー・サンライズ』
 
											
 
                                       
                                      





