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<この記事には原作・映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のネタバレが登場します。ご注意ください。>

 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の作中で、ハサウェイが駆るΞガンダム。アナハイム・エレクトロニクス社の最新技術を結集した本機は、一介のテロリストにすぎないマフティーが連邦に抵抗するための切り札です。

 しかし、なぜただのテロリスト集団が、アナハイムの最新鋭機を手に入れられたのでしょうか? その理由は、地球圏の歪な経済状況にあると考えられます。

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◆ジオンとの戦争がもたらす地球圏の“繁栄

 なぜマフティーに、連邦に対抗できるほどのモビルスーツが支給されたのか? その理由に迫るには、まず宇宙世紀における地球圏の情勢に目を向ける必要があります。

 連邦政府最大の敵といえば、一年戦争時に独立をかけて戦いを挑んできたジオン公国です。公国そのものは一年戦争の敗北によって滅亡しましたが、公国の意志を継いだ残党たちが、散発的に現れては地球圏を脅かしています。

 一方で、ジオンとの戦いは、地球圏に大きな経済効果をもたらしました。それは、地球圏の生命線ともいえるもので、小説『機動戦士ガンダムUC (11) 不死鳥狩り』(出版社: ‎ KADOKAWA 20163月出版)によると、戦争なくしては経済を維持できないとまで記述されています。

 つまり、対ジオニズムとの闘争は、連邦にとって経済を潤す側面もあったのです。事実、一年戦争以後の戦争がなければ、アナハイム・エレクトロニクス社の台頭もなかったでしょう。しかし、宇宙世紀0093年に発生したシャアの反乱以降、事態は一変します。

 総帥であったシャアを失ったことで、ネオ・ジオンの勢力は衰退。テロと略奪を繰り返す、烏合の衆になってしまったのです。これにより、ジオンとの戦いには、以前ほどの経済効果は期待できなくなります。

 さらに、一年戦争以降の地球圏には、ジオン以上の脅威は現れませんでした。その証拠に『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、ネオ・ジオンの武装解除を経たアデナウアー・パラヤが「これで地球の敵は、本物の宇宙人ぐらいになったな」とまで語っています。

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◆連邦の脅威を自ら作り出す時代へ

 戦争で経済を維持している連邦にとって、ネオ・ジオンの衰退は死活問題だったと考えられます。それは、兵器を売る相手がいなくなるアナハイムにとっても同様です。そこで、連邦とアナハイムは結託し、自分たちで脅威を作り上げる選択をします。

 その手段の一つが、ネオ・ジオン残党による海賊行為の黙認。強奪という体裁を取り、密かに武器を横流しすることでした。小説『機動戦士ガンダムUC (11) 不死鳥狩り』内でも、彼らが連邦にとって適当な脅威を演じられるよう、横流しを黙認していると示唆する記述があります。

 また、アナハイムにとっては、新しい流通ルートの開拓というねらいもあったでしょう。軍隊同士の戦争であれば、両陣営を相手にした商売もまかり通ります。しかし、テロリストに武器を提供するのは、軍相手の商売とは印象がまったく異なるはずです。そのため、シャアの反乱以降、アナハイムは連邦以外に公に取引できる相手がいなくなってしまいました。しかし、強奪という体裁があれば、テロリストに武器が渡ったとしてもお咎めはないというわけです。

 こうして、連邦とアナハイムは、小規模な戦争を起こせる脅威を維持するために、数々の兵器をネオ・ジオン残党へ横流ししました。表向きはフル・フロンタルに強奪されたシナンジュも、実際は強奪に見せかけ譲渡された機体の一つです。

 しかし、ラプラス事変を経て、ネオ・ジオン残党もほぼ壊滅状態となります。これにより、既存の脅威を維持しながらの戦争ビジネスは、成り立たなくなってしまいました。

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第二のジオン残党に選ばれたマフティー

 ラプラス事変で、ネオ・ジオン残党は壊滅。さらに、宇宙世紀100年にはジオン共和国の自治権が連邦へ返還され、ジオンは事実上消滅しました。これにより、地球圏から連邦と小さな戦争ができるような、脅威となる勢力が失われます。

 そのため、連邦とアナハイムには、ジオンに代わる都合の良い反地球連邦勢力が必要となったのです。そんなときに現れたのが連邦政府の粛清を掲げるマフティーでした。これは果たして偶然だったのでしょうか?

 少なくとも、連邦とアナハイムが、ネオ・ジオン残党へ兵器の横流しをしていたこと。そして、ただのテロリスト集団が持つには不釣り合いな最新鋭機が、マフティーに渡ったことを踏まえると、偶然とは言い難いでしょう。

 また、マフティーの創設者であるクワック・サルヴァーは、連邦の関係者と目されていました。実際、『閃光のハサウェイ() 機動戦士ガンダム』(出版社 ‏ : ‎ KADOKAWA 19904月出版)において、ケネスはサルヴァーの正体を、閣僚か官僚の中でも最も優れたな頭脳の持ち主と推察しています。

 さらに、時代背景としても、マフティーのような反地球連邦組織が生まれやすい状況にありました。シャアの反乱以降、外敵がいなくなったこと、隕石落としで気温が下がったことで、特権階級の地球移住が激しくなっていました。

 そして、連邦内ではそんな特権階級の移住を後押しするような政策も進んでいきます。一方で、地球の居住資格がない不法居住者は、マン・ハンターによる摘発の手で宇宙へ強制送還されたり命を奪われたりしていました。これにより、地球で特権階級が権力を振りかざし、弱者がしいたげられる縮図ができあがっていたのです。

 そのため、小規模な戦争を起こせる反地球連邦勢力を生み出すには、格好の土壌が整っていたといえます。これらの要素を踏まえれば、マフティーの出現は連邦内から仕組まれたものと考えても、決して不自然ではないでしょう。

 

 ──1000年先の地球を考え、マフティーを演じたハサウェイ。しかし、彼の崇高な行いさえ、目先の利益のために仕組まれたものだったのかもしれません。戦争をしなければ維持できない地球圏の生活。その現実を知ると、改めて彼が壊そうとしていた、構造の根深さを理解できるのではないでしょうか。

〈文/北野ダイキ〉

 

※サムネイル画像:『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』公式サイトより 『「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」メインビジュアル (C)創通・サンライズ』

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