アムロ・レイの「アムロ、行きまーす!」や、シャア・アズナブルの「当たらなければどうという事はない」など、『ガンダム』シリーズには多くの名言が登場しますが、「嘘だと言ってよ、バーニィ」のように、実は作中では使われておらず、のちに改変された形で広まったセリフも少なくありません。
◆実はセリフではなくサブタイトル
OVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(以下、『ポケットの中の戦争』)における、アルフレッド・イズルハ(以下、アル)の名言として有名な「嘘だと言ってよ、バーニィ」。自分はただの新米パイロットであると打ち明けたバーナード・ワイズマン(以下、バーニィ)に対し、事実をかたくなに認めようとしないアルのセリフとして知られています。
しかし、実際は作中でアルが放ったセリフではなく、OVA第5話のサブタイトルです。実際にアルが言ったのは、「嘘だ!バーニィはあいつが怖くなったんで嘘をついてるんだ!」でした。
おそらく「嘘だと言ってよ、バーニィ!」のほうが端的で分かりやすく、ネット掲示板などで頻繁に使われていたのでしょう。その結果、作品を見ていない人たちに「アルの名言」として伝わったと考えられます。
このセリフは、ネットミームとしても非常に有名であり、認めたくない事実に対する返答としてよく使われています。
バーニィ役の辻谷耕史氏が亡くなった際、訃報を伝えるニュースのコメント欄には「嘘だと言ってよ、バーニィ」という書き込みが多く見られました。
ちなみに、「嘘だと言ってよ、バーニィ!」の元ネタは、1910年代に活躍したメジャーリーガー、ジョー・ジャクソンへ投げかけられた言葉と考えられています。スター選手だったジョーですが、1919年の「ブラックソックス事件」で八百長に関与したことで起訴されました。その際、彼のファンだった少年が叫んだのが「嘘だと言ってよ、ジョー!(Say it ain't so, Joe!)」とされています。
それを裏付けるように、2015年には英語の原典を引用した「Say IT AIN'T SO, BERNIE!(嘘だと言ってよ、バーニィ!)」とプリントされたTシャツがコスパより販売されています。
◆ジオングの足は飾りじゃなかった!?
ジオングに足がついていないことを指摘したシャアに、整備兵が放った「足なんて飾りです!偉い人にはそれがわからんのですよ」というフレーズ。実は本来のニュアンスとは若干異なっており、実際は「あんなの飾りです」と発言しています。
おそらく、「あんなの」だけでは何が飾りなのか伝わりにくいため、「足なんて」と付け加えられ広まったのでしょう。事実、「足なんて飾り」のほうが分かりやすく、インパクトもあります。
このフレーズは、『ガンダム』シリーズにおいて、モブが放ったセリフの中ではトップレベルに有名です。モビルスーツに足がついているのが常識だった時代に、飾りだと言い切る潔さ。そして、「偉い人にはそれが分からない」という現場の人間特有の苦悩が伝わることから、社会人の共感を呼んでいるセリフでもあります。
ちなみに、このフレーズを放った整備兵には、のちにリオ・マリーニという名前が与えられています。
彼は、一年戦争後のストーリーを描いた漫画『機動戦士ガンダム C.D.A. 若き彗星の肖像』第8巻にも再登場し、ジオン残党の拠点であるアムブロシアでチーフ・メカニックを務めています。
なお、マリーニは本作でジオング3号機の整備も行なっていますが、本機にはかつて「飾り」と切り捨てた足がついていました。これについてシャアから突っ込まれると、マリーニは「ところがまんざら飾りでもないと判りました」と返答しています。
◆2つのセリフが混ざっている?
「殴ったね、親父にもぶたれたことないのに」は、アムロ・レイを代表する有名なフレーズです。しかし、実際には「二度もぶった…親父にもぶたれたことないのに」と発言しています。
このフレーズが生まれたシーンでアムロは2回殴られており、最初に殴られた際に放ったのが「殴ったね」。そして、2発目をもらった際に「親父にもぶたれたことないのに」と発言していました。
おそらく、語呂やテンポの良さを重視した結果、2つのセリフがつながって使われるようになったのでしょう。
また、「2度もぶったね」のままでは、2回殴られる状況でなければ使えません。そのため、使い勝手の良さもあって、「殴ったね、親父にもぶたれたことないのに」と混同され、定着したのでしょう。
このセリフだけ見ると、アムロが親にも殴られたことがない未熟な少年だと感じる人が多いかもしれません。しかし、少し前までただの一般市民だった少年が、才能があるというだけで戦場に駆り出されていた背景を思えば、多少甘えたセリフを吐いても不思議ではありません。
一方、手をあげたブライト・ノアも、船を守るのに必死でクルーを気遣う余裕がなかったと、漫画『機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男』にて語っています。
そのため、このフレーズはアムロの未熟さだけでなく、戦時下で人を思いやる余裕がないブライトの若さも垣間見えるセリフとなっています。
◆元ネタは『Vガンダム』ギャグ漫画?
「これ…母さんです」は『ガンダム』シリーズの中でも、屈指のショッキングなセリフとして知られています。ただ、作中でウッソ・エヴィンは「母さんです」とは言っていますが、「これ」とは一言も発していません。
このセリフの初出は『機動戦士Vガンダム』のパロディ漫画、『いけ!いけ!ぼくらのVガンダム!!』です。本作で、ウッソが母さんの入ったヘルメットをマーベット・フィンガーハットに手渡しながら言ったセリフが「これ…母さんです」となっています。
画像がないと何が「母さん」なのか伝わりにくいため、指示代名詞が含まれるパロディ漫画版のセリフが浸透したのでしょう。実際、ネット上でもこちらのセリフが多く見られます。
母の遺品で、唯一回収できたのはヘルメットのみでした。そして、「母さんです」の一言とともに渡されたヘルメットの重みに、マーベットは言葉を失います……。具体的な描写はなくても、「何が入っているのか」が伝わるトラウマセリフとして、現在でも『ガンダム』ファンの間で語り継がれています。
──『ガンダム』はその知名度の高さゆえ、キャラクターのセリフが広く拡散されてきました。一方で、作品に詳しくないライト層には、誤った形で伝わっているケースも少なくありません。しかし、誤って伝わっているからこそ、元ネタを知った際の驚きを味わえるともいえるでしょう。
〈文/北野ダイキ〉
※サムネイル画像:Amazonより 『小説「ポケットの中の戦争 機動戦士ガンダム0080」(出版社:KADOKAWA)』


