※この記事には『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のネタバレが登場します。ご注意ください。
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、『閃光のハサウェイ』)にて、Ξガンダムのライバル機となるペーネロペー。近年ではこの機体はガンダムとして扱われていますが、実は初めて登場した小説版ではガンダムとして扱われていませんでした。
◆小説版ではガンダムじゃなかった
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ〈上〉』(出版社:角川書店)におけるペーネロペーの機体解説では、ガンダムとは言及されておらず「機体設計思想そのものにはガンダム系モビルスーツの名残がある」とだけ説明されています。
この表記を見る限り、ペーネロペーはガンダムではなく、あくまでガンダム系モビルスーツとして扱われているのが分かるでしょう。
一方で主役機であるΞガンダムは、れっきとしたガンダムとして扱われています。それは搭乗者であるハサウェイが、シャア・アズナブルとアムロ・レイの背中を追う青年だったからです。
『閃光のハサウェイ〈上〉』の中で、Ξという名称の由来として「アムロ・レイが最後に使用した機体νガンダムを引きつぐ意図でつけられている」と言及されています。このことから、Ξガンダムはアムロの後に続く者が操る機体であることを、強烈に意識した存在であったことがうかがえます。
そして、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ〈下〉』(出版社:角川書店)において、ハサウェイは病室で「ニュータイプに出会ったために、自分の能力をかえりみることなく、ニュータイプになろうとしたことの結果」と独白しています。
つまり、ハサウェイは、アムロやシャアといったニュータイプに憧れ、自らもニュータイプになろうとしていたのです。
これらの要素から、小説版『閃光のハサウェイ』におけるガンダムとは、「歴代ニュータイプの後に続こうとした者の機体」という意図があると考えられます。
対して、ペーネロペーに乗るレーンには、作中を通してニュータイプに対する特段の執着は見られません。また、本機の開発責任者であるケネス・スレッグにも、ペーネロペーに対する強い思い入れがあるわけではないようです。事実、『閃光のハサウェイ〈上〉』では、ケネスについて「仮想敵もないのにウダウダと新型モビルスーツの開発を続けていた」と語られていました。
つまり、Ξガンダムと違い、ペーネロペーの開発背景に特段信念はありません。そのため、小説版においてペーネロペーはガンダムとして扱われていないのでしょう。作中でΞガンダムはレーン・エイムから「ガンダムもどき」と揶揄されていますが、作品の文脈においてはペーネロペーのほうが「ガンダムもどき」に近い存在といえるかもしれません。
◆ペーネロペーがガンダム扱いされないのは連邦軍の事情?
ペーネロペーがガンダム扱いされない理由には、連邦軍における「ガンダム」という機体が持つ意味も深く関わってきます。
『閃光のハサウェイ〈下〉』において、ブライト・ノアはガンダムについて「歴代のガンダムは、連邦軍にいても、反骨の精神をもった者がのっていたな」と語っていました。
つまり、『閃光のハサウェイ』におけるガンダムとは、反骨精神を持った者が乗る機体をさしているのです。ただ、この事実は権力を有する側である連邦政府からすれば、決して面白くありません。
実際、シャアの反乱以降、連邦政府はガンダムを「自分たちを脅かす可能性のある危険分子」と捉えていました。小説『機動戦士ガンダム ハイ・ストリーマー 2 クェス篇』(出版社:徳間書店)にて、連邦政府の中には、ガンダムを核兵器と同じように危険視している者もいると語られています。
また、小説『機動戦士ガンダムF91 クロスボーン・バンガード(下)』(出版社:角川書店)では、ガンダムは正規軍から外れた部隊が運用するモビルスーツという印象もあると言及されていました。そのため、サナリィが開発していたF91には、当初ガンダムの名称がつけられなかったようです。
このように、連邦政府にとってガンダムは忌まわしい存在として認識されています。そうした連邦のガンダムに対する悪印象は、漫画版『閃光のハサウェイ』にも反映されていました。
漫画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』第2巻(出版社:KADOKAWA)では、ペーネロペーは「ガンダムではない」と語られています。その理由としてレーンは、「上からの圧力が掛かった」「お偉いさんはガンダムを造ると反乱が起きると思ってる」と言及していました。
ペーネロペーがガンダムとして扱われない理由には、こうした連邦のガンダムに対する嫌悪感も大きく影響しているのです。
◆近年ではペーネロペーもガンダム扱いに?
当初はガンダム扱われていなかったペーネロペーですが、近年ではガンダムとして扱われるケースが増えています。そのきっかけとなったのは、ゲーム『SDガンダム GGENERATION-F』にΞガンダムとペーネロペーが登場したことでした。
小説『閃光のハサウェイ』でメカニカルデザインを手がけた森木靖泰氏によると、ゲームでの登場に合わせてサンライズから「ペーネロペーのフライトユニットを分離させてほしい」というオーダーがあったと、『魂ウェブ』で2021年4月に配信された「『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』スペシャル対談 森木靖泰 × カトキハジメ」という記事の中で語っています。
そして、ペーネロペーに分離ギミックを設けるにあたって誕生したのが、本体にあたるオデュッセウスガンダムでした。こうして中身の機体に「ガンダム」の名が与えられたことで、ペーネロペーも自然とガンダムとして扱われるようになったのです。
事実、劇場版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』でメカニカルデザインを担当した玄馬宣彦氏は、「連邦から見ると、Ξガンダムは偽物で、ペーネロペーが正式に採用されたガンダムになります。だからペーネロペーは“ガンダム顔”になっています。」と『MANTANWEB』で2021年6月に配信された「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ:Ξガンダムは“脱ガンダム” ペーネロペーは? メカデザイン秘話」という記事の中で語っていました。
──当初はガンダムとして扱われていなかったペーネロペー。しかし、ゲームでの登場や、時代の移り変わりもあって、現在では「ガンダム」として扱われるようになりました。そこには物語の設定やメタ的な観点だけでなく、商業展開も重視する近年の『ガンダム』シリーズの柔軟な姿勢も感じられるのではないでしょうか。
〈文/北野ダイキ〉
※サムネイル画像:バンダイ ホビーサイトより 『「HGUC 1/144 ペーネロペー」 (C)創通・サンライズ (C)SOTSU・SUNRISE』


