『ガンダム』シリーズには、外見だけでは正体を見抜けない機体が存在します。ガンダムの素性を隠した機体、別の機体に見せかけた機体、味方まで惑わせた機体──。その偽装には、戦場ならではの事情がありました。
◆ガンダムの魂を隠した赤い偽装機
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場し、シーマ・ガラハウの愛機として強烈な印象を残したガーベラ・テトラ。その流線型のフォルムと赤を基調としたカラーリングは、一見するとジオン公国軍の技術を正当に継承した高機動モビルスーツに見えます。
しかし、その装甲の下に隠されているのは、連邦軍の「ガンダム開発計画」によって生み出された、ガンダム試作4号機「ガーベラ」の骨格でした。
『機動戦士ガンダムRPGアドバンストエディション』(出版:ホビージャパン、1998年3月1日出版)によると、ガンダム試作4号機は、元々ガンダム開発計画で、宇宙戦用機として開発が進められていた機体と記載があります。しかし、プラモデル『1/144 AGX-04 ガーベラ・テトラ』に付属する解説書によると、開発コンセプトが試作1号機フルバーニアンと重複していたため、計画から外されましたといいます。
また、前述の解説書によると、アナハイム・エレクトロニクス社の開発陣は、データ収集のための試験機として製作を継続。その後、デラーズ・フリートとの裏取引の材料として利用するため、外観を徹底的にジオン系モビルスーツへと作り変える偽装工作が行われましたそうです。こうして誕生したのがガーベラ・テトラです。
『魂ウェブ』で公開されている『AGX-04 ガーベラ・テトラ MS開発秘録』によると、本機はガーベラをベースに曲線的な装甲を装着。さらに、推進エンジンもジオン系の思想に基づき再配置する改修が行われたようです。
政治的思惑によってその素性を隠し、敵陣営の機体として活躍した本機は、宇宙世紀の暗部を象徴する機体といえるでしょう。
◆ジ・Oに偽装したガンダム?
漫画『機動戦士ガンダム ヴァルプルギス』に登場するオーヴェロン。『機動戦士ガンダム新訳MS大全集 U.C.0081-0090編』(出版社:KADOKAWA、2022年3月26日出版)によると、パプテマス・シロッコがグリプス戦役後の世界を見据えて設計した、ガンダム・タイプの機体だといいます。
本機は当初、シロッコが搭乗したジ・Oを彷彿とさせる装甲をまとった、白い重モビルスーツとして登場しています。これは漫画『機動戦士ガンダム ヴァルプルギスEVE 2』によると、 アナハイム・エレクトロニクス社による査察が行われた際に、ガンダムタイプであることを隠す意図があると説明されています。
同時にこの重装甲には、ガンダムとしての姿を隠す偽装だけでなく、本機の性能を抑える枷としての役割もありました。
『機動戦士ガンダム新訳MS大全集 U.C.0081-0090編』によると、オーヴェロンにはグリモアと呼ばれる、準サイコミュシステムが搭載されています。これにより、ニュータイプの脳波を拾うことが可能です。
ただ、本機のグリモアは感度が高すぎるようで、『機動戦士ガンダム ヴァルプルギスEVE 2』では、コックピットは無人にも関わらず、起動する事件が発生しています。
そのため、先述した巻の中で、グリモアの感度を抑制するために、ジ・Oを模した増加装甲が設けられました。増加装甲のプロペラントタンク内には、液化したグリモアが注入されています。この液化グリモアから、本体とは逆波形のサイコウェーブを発生させ打ち消し合わせることで、バイオセンサーの感度を意図的に抑制しているのです。
偽装としての外装に、性能を抑制する枷を仕込むという二重の隠蔽は、本機の特異性の象徴となっています。
◆味方すら欺く偽装機
OVA『機動戦士ガンダム MS IGLOO 603』におけるエピソード、「蝙蝠はソロモンにはばたく」に登場したゲム・カモフ。本機は、戦場における偽装がもたらす有用性と、惨劇を一度に体現した機体です。
本機は漫画『機動戦士ガンダム MS IGLOO 603 一年戦争秘録』によると、ジオン公国軍が、連邦の主力機ジムに擬態させることを目的として開発しましたとされています。
前述した書籍によると、宇宙世紀の戦場では、電磁波を阻害する、ミノフスキー粒子の散布によってレーダーや通信が著しく制限されます。ゆえに、戦場における判断は、モニター越しの有視界情報に大きく依存していました。ジオン軍はこの性質に着目し、一見すると連邦軍のジムにしか見えないような巧妙な偽装を機体に施したのです。
劇中において、この偽装は非常に高い戦果をあげました。エピソード冒頭、本機は識別信号の発信装置を無効にした状態で、連邦の輸送艦コロンブス級輸送艦に接近。コロンブス級は、近づいてくるゲム・カモフを味方機であると誤認し、無警戒のまま接近を許してしまいました。そして、至近距離に近づいたゲム・カモフによって、コロンブス級は撃沈されています。
しかし、その高すぎる擬態性は、最悪の悲劇も招きます。機体テストの最中、事情を知らない味方のジオン軍重巡洋艦ムサイが、ゲム・カモフを本物のジムであると誤認。結果、ゲム・カモフは味方に集中砲火を浴びせられ、なす術もないまま撃破されてしまいました。
──偽装機と一口にいっても、多種多様な意図があります。しかし、味方すらも欺く巧妙な偽装は、戦果をもたらす一方で、味方に撃たれる悲劇を招く諸刃の剣でもありました。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
※サムネイル画像:バンダイ ホビーサイトより 『「HGUC 1/144 ガーベラ・テトラ」(C)創通・サンライズ』

