その顔だけ見れば、誰もがガンダムだと思ってしまうかもしれません。しかし『ガンダム』シリーズには、名前や頭部はそれらしくても、実際の出自はジム系やネオ・ジオン系という機体が存在します。見た目に隠れた意外な正体をたどると、ガンダムらしさの面白さも見えてきます。
◆ガンダム顔でも中身はドーベン・ウルフ? シルヴァ・バレトの意外な出自
シルヴァ・バレトはアニメ『機動戦士ガンダムUC』(以下、『ガンダムUC』)や『機動戦士ガンダムNT』(以下、『ガンダムNT』)に登場した機体です。その鋭いV字アンテナと端正な顔立ちは紛れもなくガンダム。しかし、その中身は雑誌『ガンダムモビルスーツバイブル 40号』(出版社:デアゴスティーニ・ジャパン、2020年3月31日出版)によると、第一次ネオ・ジオン抗争で使用されたアクシズのモビルスーツ、ドーベン・ウルフとされています。
第一次ネオ・ジオン抗争後、アクシズに残されていたドーベン・ウルフを連邦が接収。その後、連邦からの依頼によって、アナハイム・エレクトロニクス社が、準サイコミュ兵器のテストを目的に改修したのがシルヴァ・バレトです。
ちなみに、シルヴァ・バレトには、準サイコミュテスト用のガンダム・ヘッド。測定センサーを装備し、各種システムの測定を行う、ジム・ヘッドの2種類の頭部が存在しています。
そのため、ガンダム風の顔をしていますが、ガンダムとして開発されたわけではありません。つまり、見た目こそガンダムですが、胴体のベースはアクシズ系のモビルスーツという、独特な出自を持った機体となっています。
本機はテスト終了後、一部の機体はビスト財団へと引き渡され、ユニコーンガンダムの仮想敵として流用されました。そして、アニメ『ガンダムUC』では、ネオ・ジオングとの戦いに投入されます。
アニメ『ガンダムNT』ではバナージ・リンクス専用機として、シルヴァ・バレトの改修機に当たるシルヴァ・バレト・サプレッサーが登場。よりガンダムらしい姿に改修されただけでなく、ガンダムの装備であるビーム・マグナムを装備し、ガンダムのパイロットによって運用されています。
◆名前はガンダム、体はサザビー系? ムーンガンダムの複雑すぎる成り立ち
ムーンガンダムは漫画『機動戦士ムーンガンダム』の主役機です。本機はその名前も、見た目もまさしくガンダムですが、「ガンダムではない」とされています。その理由は、本機の胴体にあります。
プラモデル『HGUC 1/144 ムーンガンダム』の説明書によると、ムーンガンダムのベースとなっているのは、ネオ・ジオンが開発したサザビーのプロトタイプにあたる「バルギル」というモビルスーツです。
そして、本機にムーン・ムーンに漂着した、ティターンズ残党が開発したガンダムタイプであるGドアーズの頭部。サイコフレームで構成されたサイコプレートを、移植して誕生したのがムーンガンダムとなっています。つまり、本機は正式に開発されたガンダムではなく、ネオ・ジオンの機体と、ティターンズ製の機体を継ぎ接ぎにしたモビルスーツなのです。
さらに、ガンダムという名前は正式な開発コードではなく、その頭部を見たリュース・クランゲルが、思いつきで名付けた愛称でした。そのため、本機は本質的にはバルギルの改修型であり、あくまでジオンの最新鋭機となっています。
しかも、当初はガンダムの象徴である白ではなく、ジオン的な紫のカラーリングが施されていました。その後、リュースがガンダムと名付けたことで、トリコロール風カラーへと変更されています。
ちなみに、Gドアーズはシャアが、ティターンズ残党へサイコプレートの情報を流し、開発させた機体でした。そのため、本機はサザビーの研究過程を組み合わせて、生まれたガンダムとも解釈できます。
◆名前も顔もガンダムなのに中身はジム系? 水中型ガンダムの正体
水中型ガンダムは、雑誌企画『M-MSV』に登場した機体です。本機は名称も、見た目もガンダムそのものですが、中身はジムと変わらない量産機となっています。
『Mobile Suit Gundam - MSV The Second - Generation 1986-1993』(出版社:双葉社、2019年10月19日出版)によると、本機は元々アクア・ジムをエースパイロット用に再設計した機体だといいます。
一年戦争時、連邦はゴッグやズゴックといった、ジオンの水陸両用MSに対抗するため、水中専用機体の開発も行っていました。その過程で生まれたのがアクア・ジムです。しかし、その性能はジオン系の水陸両用機には及ばず、苦戦を強いられることもありました。
そうした現場の声に応え、開発されたエース専用の改修機が水中型ガンダムです。なお、機体名も頭部もガンダムですが、型式番号のRAG-79-G1からも分かる通り、本質的にはジム系列の機体となっています。
そのため、顔と名前はガンダムだが、その正体はジムといってよいでしょう。陸戦型ガンダムの中には、頭だけジムのものに交換したジムヘッドと呼ばれる機体がありますが、本機はそれの対にあたる存在となっています。
──ガンダムらしい顔や名前を持っていても、その成り立ちをたどると、必ずしも正統なガンダムとは限りません。シルヴァ・バレトはネオ・ジオン系の機体をベースにし、ムーンガンダムはバルギルとGドアーズの要素が組み合わさり、水中型ガンダムはジム系の流れを持つ機体でした。
それでも、彼らが“ガンダムらしくない”わけではありません。戦場で求められた役割や、象徴としての顔、名づけられた経緯まで含めて見ると、ガンダムという存在の幅広さが見えてきます。見た目と中身のズレもまた、モビルスーツ史を面白くしている要素なのかもしれません。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
※サムネイル画像:バンダイ ホビーサイトより 『「HGUC 1/144 シルヴァ・バレト」 (C)創通・サンライズ』

