※この記事には複数の『ガンダム』作品のネタバレが含まれます。ご注意ください。
アムロが『Zガンダム』でガンダムに乗らなかったのは、たんなる機体の都合ではなかったようです。愛機となったディジェには、エゥーゴやカラバの立場、ジオン残党への配慮、そして連邦が抱いた“ガンダムへの恐れ”が重なっていました。νガンダムへ至るまでの、意外な空白を振り返ります。
◆ディジェはなぜジオン系の姿になった? アムロを巡る組織の事情
一年戦争集結後、アムロは長らく地球に幽閉され、戦いから遠ざけられていました。しかし、『機動戦士Zガンダム』(以下、『Zガンダム』)では仲間たちの後押しもあって、エゥーゴの支援組織カラバの一員として、ティターンズと戦います。
そんなアムロの愛機となったのが、ジオン系モビルスーツのディジェだったことは、当時も視聴者に衝撃を与えました。なぜ、アムロは『Zガンダム』でガンダムに乗れなかったのか?それは、エゥーゴの複雑な組織事情にあるようです。
漫画『機動戦士Ζガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのレポートより―』第2巻によると、元々ディジェはガンダムタイプの外観になる予定だったと語られています。これは戦線復帰を決めたアムロに対する、ハヤト・コバヤシからの細やかな心遣いという側面もあったようです。
しかし、完成直前になってベルトーチカ・イルマや、カイ・シデンによる働きかけによって、ジオン系モビルスーツの見た目に変更されました。これは、エゥーゴおよびその協力組織であるカラバの長が、シャア・アズナブルことクワトロ・バジーナであることに起因しています。
当時、アクシズを除く、各地のジオン残党は、シャアの所属するエゥーゴに強い関心を持っていました。そんな組織で、かつてシャアと対立したアムロが彼の仲間になり、ジオン系モビルスーツに乗ることは、ジオン残党の上層部にとっては非常に大きな意味を持ちます。
逆に、下手にガンダムタイプを導入すれば、むしろジオン残党に対して悪い印象を与えかねません。こうした背景もあって、ディジェはジオン系の見た目に変更されました。
ちなみに、雑誌『Model Graphix - Gundam Wars II - Mission ZZ』(出版社:大日本絵画、1987年1月1日出版)などでは、アムロはZプラスに搭乗したという設定があります。しかし、こちらは雑誌企画上の設定で、漫画などではアムロがZプラスのパイロットだったかどうかは曖昧に扱われてきました。
また、映画『ガンダム新体験 グリーンダイバーズ』などでは、Zガンダム3号機にも搭乗していることを匂わされていますが、こちらも公式には「真偽不明」と曖昧にされています。そのため、グリプス戦役以降、アムロがガンダムに乗ったと明確に記述されている作品はありません。
◆なぜνガンダムまで待たされたのか 連邦が恐れた「ガンダム」の存在
映画『機動戦士 逆襲のシャア』(以下、『逆襲のシャア』)で、アムロは晴れてガンダムに乗ることになりますが、それまでの期間では一度もガンダムに乗ることはありませんでした。これは、連邦軍のガンダムに対する恐怖感情が影響していると考えられます。
例えば、小説『機動戦士ガンダムハイ・ストリーマー 2 クェス篇』では、アムロがブライトに対して、Zガンダムや百式が配備できない理由を訪ねていました。それに対してブライトは、連邦政府の上層部には、ガンダムという名前だけで核兵器と考えるものがいることを明かします。
加えて、連邦は永久保存という名目でガンダムを封印したが、上層部もその存在をすっかり忘れ、どこに保管しているか分からないとも言及されていました。そのため、ロンド・ベルにZガンダムは配備されなかったのです。
この設定は近年の作品にも活かされており、漫画『機動戦士ムーンガンダム』5巻でも、アムロの口からネオ・ジオン戦争以降、ZガンダムもZZガンダムも行方が分からなくなっていると言及されています。
このように、連邦がアムロとガンダムが揃うのを極端に拒んだため、アムロ自身が設計・製造するまでガンダムに乗れなかったのです。
◆アムロが主役を奪ってしまう? 作劇上もガンダムに乗せにくかった理由
アムロが『Zガンダム』以降、中々ガンダムに乗れなかったのは、作劇上の理由も非常に大きいと考えられます。そもそも富野由悠季監督は、『機動戦士Zガンダム』において、アムロを活躍させる気はありませんでした。
実際、『機動戦士Zガンダム大辞典』(出版社:株式会社ラポート、1986年8月25日出版)では、富野監督がアムロを物語の中心となる宇宙に出さなかった理由について、「宇宙へ出す気がなかった」「アムロもあまり出したくない」と語っていました。
むしろ、富野監督にとってアムロは扱いに困る存在だったようで、「さっさと退場させたい」という旨まで明かしています。その理由について、富野監督は「アニメならアニメ、映画なら映画というように、スッキリと作りたい」「『Ζ』のようなものは『Z』だけで良い」と語っていました。
これは、『Zガンダム』という作品に、ほかの作品の要素を持ち込みたくないという考えと解釈できます。つまり、富野監督にとって前作の雰囲気そのものであるアムロは、持ち込みたくない要素の筆頭だったのです。
そんなアムロをガンダムに乗せてしまったら、それこそ収集がつかなくなってしまいます。そのため、アムロが主人公になる、『逆襲のシャア』に至るまで、アムロはガンダムに乗せてもらえなかったのでしょう。
──アムロが『Zガンダム』でディジェに乗ったことは、たんなる機体選びではありませんでした。カラバやエゥーゴの微妙な立場、ジオン残党への配慮、そして連邦上層部が抱いていたガンダムへの警戒心。そうした事情が重なり、一年戦争の英雄であるアムロは、再びガンダムに乗る機会を遠ざけられていたといえます。
だからこそ、『逆襲のシャア』でアムロが自ら関わったνガンダムに乗ることには、大きな意味があります。組織に与えられた機体ではなく、自分の戦いのためにたどり着いたガンダム。ディジェからνガンダムへ至る道のりを知ると、アムロが最後にガンダムへ戻った重みがより深く感じられます。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
《北野ダイキ》
『Real Sound』などで、アニメ・漫画を中心に執筆するライター。『アニギャラ☆REW』では、『ガンダム』シリーズの宇宙世紀作品をはじめ、モビルスーツの設定、外伝作品、関連書籍などを踏まえた解説記事を担当。定番の人気機体からマニアックな機体まで幅広く取り上げ、作品を見返すきっかけになるような情報整理を得意としている。
※サムネイル画像:Amazonより 『「機動戦士Zガンダム 第二部 アムロ・レイ」(出版社:KADOKAWA)』


