※この記事にはTVアニメ・原作漫画『ONE PIECE』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・原作漫画『ONE PIECE』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
シャンクスは、なぜ26年間も「ひとつなぎの大秘宝」をねらわなかったのでしょうか。四皇として十分な力を持ちながら動かなかった彼は、ルフィがニカとして覚醒した直後に「奪りに行こうか」と宣言しました。ゴムゴムの実強奪から続く行動をたどると、その沈黙の意味が少し違って見えてきます。
◆政府から「ゴムゴムの実」を強奪した意図
シャンクスの「潜伏」の真意を紐解くうえで、決して無視できないのが13年前に起きた「ゴムゴムの実」強奪事件です。当時、政府の諜報機関CP9の精鋭であったフーズ・フーが護送していたこの悪魔の実を、シャンクス率いる赤髪海賊団はピンポイントで襲撃し、奪い去ったという事実が、第1018話でフーズ・フーの口から明かされました。
第1044話では、世界政府はこの悪魔の実を800年もの間、回収し続けようと試みながらも一度も手中に収めることができなかったとされています。政府がその真実を徹底的に隠蔽するために「ゴムゴムの実」という偽名を与え、わざわざ軍艦を出してまで厳重な護送体制を敷いていた事実は、この実の価値が歴史を揺るがすほどに高いものであることを物語っているといえます。
当時のシャンクスが、数多ある悪魔の実の中からあえて政府が隠した「最重要の実」を一点狙いで強奪した事件は偶然ではないと考えられます。彼はフーシャ村を訪れる前から、この実の真の名が伝説の太陽の神を冠する「ヒトヒトの実 モデル“ニカ”」であることを、独自のルートで正確に把握していた可能性があります。
しかしここで注目すべきは、シャンクスが強奪したその実を自ら食べなかったという点です。彼の真の目的は、自分が最強の能力者として君臨することではなく、来るべき「新時代」のためにこの力をしかるべき主役へと引き合わせ、その覚醒を見届けることにあったのではないでしょうか。
政府という巨大な権力からリスクを冒してまで「カギ」を盗み出し、それを東の海(イーストブルー)へと運び込んだ行動こそ、26年にわたる「壮大な計画」の第一歩であったのかもしれません。
◆「26年間の静観」と「覚醒直後の始動」の時系列
第1053話での回想シーン、24年前ロジャーを見送ったローグタウンで、シャンクスはバギーに対しひとつなぎの大秘宝を「目指す気はねェかな」と断言しました。
以来、彼は四皇という海賊の頂点に君臨し、ロードポーネグリフの写しを奪い合えるだけの実力と情報を持ちながら、一度もラフテルへの争奪戦に本格参戦することはありませんでした。
この徹底した「静観」は、決して野心の欠如などではなく、彼が「ニカが不在のままラフテルへ至っても、ロジャー同様に“早すぎる”という詰みの状況」を、誰よりも深く理解していたと考えられます。
第967話でラフテルでロジャーが「ジョイボーイおれは……!! お前と同じ時代に生まれたかった」と嘆いたあの言葉の重みを知るシャンクスにとって、条件の揃わない挑戦は無意味だった可能性があります。
それを裏付けるのが、第1054話で見せたあまりにも急激な態度の変化です。ルフィがワノ国で四皇の1人であるカイドウを破り、「太陽の神ニカ」として覚醒した手配書を眺めた直後、シャンクスは相棒のベン・ベックマンに対し「奪りに行こうか“ひとつなぎの大秘宝”」と静かに告げました。
四半世紀にわたって秘宝に興味を示さなかった男が、ルフィが「ニカ」になった瞬間に始動したという事実は、ひとつなぎの大秘宝を手にするためにニカの力が「不可欠なピース」であることを示唆しています。
つまり、シャンクスにとっての26年間は、たんに力を蓄えるための期間ではありませんでした。彼は、世界をひっくり返すための「時計の針」が動き出すのをじっと待ち続けていたのではないでしょうか。ルフィの覚醒という800年待たれた「奇跡」が起きた今、ようやく彼にとっての「待ち時間」は終わりを告げ、真の冒険が幕を開けたのだと考えられます。
◆「新時代の主役」を迎え撃つ“門番”としての役割
シャンクスが「奪りに行く」と宣言した直後にとった行動は、これまでの穏やかな振る舞いからは想像もできないほど迅速かつ苛烈なものでした。
第1079話でシャンクスは、巨人族の聖地エルバフで襲撃してきた超新星の一角ユースタス・キッドが船長を務めるキッド海賊団に対し、かつてロジャーが放ったものと同じ技「神避(かむさり)」の一撃を繰り出します。結果キッド海賊団を瞬時に壊滅させ、彼らがワノ国などで手に入れたロードポーネグリフの写しをすべて回収しました。
一見すると、これはたんなる後出しの秘宝争奪戦への参戦に見えるかもしれません。しかし、これまでのシャンクスの慎重な振る舞いを踏まえると、別の意図が浮かび上がってきます。それは、ルフィがラフテルへ至る道筋を「有象無象の他者に邪魔させない」ためのクリーンアップ、あるいは自身がルフィにとっての「最後の壁」として立ち塞がるという極めて重要な役割です。
ルフィが「ニカ」を覚醒させ、歴史の闇を払う実質的な資格を得た今、世界は激動の最終局面へ突入したといえます。このタイミングでシャンクスがロードポーネグリフを手中に収めて回るのは、王の資格なき者がラフテルへ到達して混乱を招くことを防ぎ、同時にルフィが「海賊王」という称号に相応しい強さと覚悟を備えているかを、自らの手で最終確認するためではないでしょうか。
シャンクスの26年間はたんなる海賊としての自由な冒険ではなく、次世代の主役が現れる舞台を整え、外敵から守り続ける「壮大な待ち時間」だったといえます。そして今、シャンクスは自らがルフィにとっての「最大の試練」という門番となることで、ロジャーが果たせなかった「世界の夜明け」を、教え子であるルフィの手で完遂させようとしているのかもしれません。
──シャンクスが26年間「ひとつなぎの大秘宝」を奪りに動かなかったのは、ただ様子を見ていたからではないのかもしれません。政府から“ゴムゴムの実”を奪ったこと、ルフィに麦わら帽子を託したこと、そしてニカ覚醒の直後に「奪りに行こうか」と動き出したこと。点だった行動をつなげると、シャンクスは自分が王になるためではなく、時代が動き出す瞬間を待っていたようにも見えてきます。
ルフィが覚醒した今、シャンクスは傍観者ではなく、最後の門番として争奪戦の前に立つ存在になったのかもしれません。彼の26年の沈黙が何を意味していたのか。その答えは、ルフィたちがラフテルへ近づくほど、よりはっきり見えてくるのではないでしょうか。
〈文/凪富駿(ONE PIECE担当ライター)〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に活動するフリーライター。アニギャラ☆REWでは『ONE PIECE』関連記事を担当し、物語の伏線、キャラクターの関係性、名シーンの解釈などを読者目線でわかりやすく解説している。作品を読み返したくなるような記事制作を心がけている。
※サムネイル画像:Amazonより 『「ONE PIECE」第105巻(出版社:集英社)』


