当たらなければ強い。けれど、当たった瞬間に危ない──。『ガンダム』シリーズには、装甲を削ってでも速さを選んだ機体がいます。ケンプファー、百式、ジム・ライトアーマーに共通するのは、機動性を武器にする一方で、乗り手の腕に大きく依存するピーキーな設計でした。
◆ケンプファーは帰還を考えていたのか 機動性全振りの危険な突撃機
一年戦争における、機動性特化機体の代表例といえば、OVA『機動戦士ガンダム ポケットの中の戦争』にて登場したケンプファーでしょう。プラモデル『1/100 MG ケンプファー』の説明書によると、本機は一撃離脱の強襲を行い、拠点や敵主力を陥落することを想定した機体とされています。
そのため、機体各所に大推力のバーニアスラスターが設置されており、機体構造のほとんどがプロペラントタンクであると言っても過言ではありません。ただ、これほど突破能力一点に性能を振っているため、防御性能は低くなっています。
スラスターはほとんど剥き出しで、シールドも未装備。ボディユニットの装甲も、突撃姿勢時の前面投影領域以外は、軽量化のため最低限の強度しか持たされていません。ゆえに、近距離での銃撃戦は想定されておらず、劇中でもガンダムNT-1 アレックスに蜂の巣にされていました。
さらに、継戦能力も低く、最大戦闘出力を発揮しての戦闘時間は、当時の標準的なモビルスーツの半分以下であるとされています。そのため、突撃後の帰還はほとんど想定されていないようです。
それでも、機動性は標準的な空間戦闘用モビルスーツを遥かに凌駕しており、移動の際は前傾姿勢をとって、地表を滑走することも可能でした。なお、この姿勢は突撃時の前面投影面積を小さくする効果もあります。
そもそも、この圧倒的な機動力を活かした、高機動戦闘を継続するコンセプトの機体であるため、足を止めての格闘戦が不向きでも仕方ないといえるでしょう。しかし、運動性はギャンを上回っているため、格闘戦に持ち込んでも高い戦果をあげられるかもしれません。
◆百式はなぜシールドを持たないのか シャアの腕に賭けた軽装甲機
グリプス戦役時にはビーム兵器が標準装備とする機体も増えるのに合わせて、対ビーム兵器を想定した設計のモビルスーツも見られるようになっていきました。『機動戦士Zガンダム』にてクワトロ・バジーナとして活動していた、シャア・アズナブルの搭乗機である百式もその1機です。
プラモデル『MG 1/100 百式 Ver.2.0』の説明書によると、本機は耐ビーム機能を持つ合成樹脂のエマルジョンコーティングと、高速機動によって被弾率を低下させることをコンセプトとしています。
そのため、防御兵装となるシールドは装備していません。なお、特殊塗装をオリジナルのレシピで調合したコーティング材で塗装されていたのはロールアウト直後だけで、その後は完璧に再現することはできませんでした。
故に、実際の戦闘では、そこまで高い耐弾性を発揮できなかったようです。装甲についても、2001年発売のプラモデル『MG MSN-00100 百式』の説明書によると、運動性向上のためにフレームが干渉しないよう最終装甲を浮かせています。この影響で、脚部は一部装甲が設けられておらず、フレームが露出していました。
また、書籍『MSV The Second-Generation 1986-1993』(出版社:双葉社、出版2019年10月19日)によると、発展機となる百式改では軽量化、運動性の強化のために、上腕部の装甲もオミットされていました。
ただ、本機は稀代のエースパイロットである、クワトロの専用機として用意された機体です。この機動性・運動性向上のため、装甲すら捨てるという考え方は、パイロットであるクワトロの腕を高く評価しているからこそ可能だった試みだったのでしょう。
実際、クワトロは劇中でも、性能では圧倒的に勝るハマーン・カーンのキュベレイ、パプテマス・シロッコのジ・Oに囲まれながらも、なんとか攻撃を凌ぐ活躍を見せていました。
そんなクワトロのために用意されたからこそ、機動性のためにフレームを設けないという大胆な手段を取れたのでしょう。
◆ジム・ライトアーマーはなぜ薄すぎたのか 熟練者だけが扱えた高機動機
連邦の主力モビルスーツであるジムにも、機動性のため装甲を薄くした機体が存在します。それがジム・ライトアーマーです。本機は雑誌企画『モビルスーツバリエーション(MSV)』で設定された機体です。
書籍『機動戦士ガンダムモビルスーツバリエーション 3 連邦軍編』(出版社:講談社、1982年7月1日出版)によると、本機は高速一撃離脱戦ができるよう機動力を重視し、装甲回りを中心とした徹底的に軽量化が行われ、一部の熟練パイロット向けに生産された機体となります。
また、ゲーム『機動戦士ガンダム バトルオペレーション2』によると、グフやドムなどの重装甲を持つ新型機と交戦したパイロットから、対抗手段として高機動と運動性を向上させた機体が求められたため、開発されたとも言及されていました。
こうした軽装甲の機体が運用されたのには、空間におけるビーム兵器戦では、ウィークポイントに直撃しない限り、一撃でモビルスーツを落とすのは難しいという背景があったようです。
ただ、軽量化と出力強化により、予想を上回る機動力と運動性を実現したため、防御力は著しく低下した上に、乗り手を選ぶピーキーな機体となってしまいました。そのため、継続的な戦闘や混戦には不向きとされています。
それでも、機動力を活かした一撃離脱、迂回からの奇襲、陽動などで戦果を挙げ、腕利きのパイロットから高く評価されました。また、軽量化の結果非常に高い機動力を獲得できたため、艦載空間戦闘機から機種転換したパイロットも、違和感なく操縦できたとされています。
──装甲を削った機体は、たんに防御を軽視した失敗作ではありません。ケンプファーは一撃離脱の強襲に、百式はクワトロの操縦技術に、ジム・ライトアーマーは熟練パイロットの高機動戦に、それぞれ活路を見いだした機体でした。
ただし、その強みは常に危うさと隣り合わせです。被弾すれば一気に不利になる代わりに、当たらなければ戦場をかき回せる。装甲を捨てて速さに賭けた機体たちは、乗り手の腕前まで含めて完成する、ガンダムらしいピーキーな魅力を持っているといえるでしょう。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
《北野ダイキ》
『Real Sound』などで、アニメ・漫画を中心に執筆するライター。『アニギャラ☆REW』では、『ガンダム』シリーズの宇宙世紀作品をはじめ、モビルスーツの設定、外伝作品、関連書籍などを踏まえた解説記事を担当。定番の人気機体からマニアックな機体まで幅広く取り上げ、作品を見返すきっかけになるような情報整理を得意としている。
※サムネイル画像:バンダイ ホビーサイトより 『「MG 1/100 MS-18E ケンプファー」 (C)創通エージェンシー・サンライズ』


