※本記事には複数の『ガンダム』作品のネタバレが含まれます。ご注意ください。
主役ガンダムにも、実は量産化の計画がありました。アムロ最後の乗機であるνガンダム、カミーユのZガンダム、ジュドーのZZガンダムにも、それぞれ量産型が存在しています。ただし、そこには性能、コスト、運用面の壁があり、計画は思うように進みませんでした。幻に終わった機体をたどると、主役機を量産する難しさとロマンが見えてきます。
◆アムロ最後の愛機にも量産型が? νガンダム80%性能を目指した幻の機体
アムロ・レイ最後の乗機であるνガンダムにも量産タイプは存在しています。書籍『MSV The Second-Generation 1986-1993』(出版社:双葉社、2019年10月19日)によると、ロンド・ベル隊は第二次ネオ・ジオン戦争において、戦力面で大きな不安を抱えていました。
リ・ガズィやジェガンでは、ネオ・ジオンが投入してくる、ヤクト・ドーガやサザビーといったニュータイプ専用機に対抗できないと考えられていたからです。そうした状況を打開するために、開発されたのが量産型νガンダムでした。
装甲やフレームといった部材は原型機よりもランクを下げられていますが、基本性能はνガンダムの約80%を維持しています。実際、プラモデル『HGUC 1/144 RX-93 νガンダム』の説明書によると本機のジェネレーター出力は2,980kw。量産型νガンダムの出力は2,500kwと、オリジナルの出力の約83%ほどでした。
本体にはサイコ・フレームを採用しており、フィン・ファンネルのようなニュータイプ専用兵装も搭載可能です。またフィン・ファンネルなどのサイコミュ兵器以外にインコム・ユニットも用意されていました。
これは、本機がニュータイプではないエース専用機として想定されていたからです。そのため、パイロットの素養に合わせて装備の換装ができる、高い汎用性を与えられていました。
しかし、実際には第二次ネオ・ジオン抗争は早々に終結したため、試作機が1機完成したのみだったとされています。こうした背景から、アニメ媒体では中々登場しない幻の機体でした。そんな本機ですが、今年1月30日公開の劇場版『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』で、アリュゼウスのベース機として登場しています。
作中では、損傷したフライト・ユニットをパージした後、その姿を現しました。Ξガンダムとの圧倒的な差がありながら、レーン・エイムの操縦技術で善戦。
ただ、プラモデル『 HGUC 1/144 Ξガンダム』の説明書によると、Ξガンダムの出力は3,980wと、量産型νガンダムより1,480kwも上回っています。そのため、最終的には圧倒的なパワーで抑え込まれ、ビームサーベルで腹部を串刺しにされてしまいました。
◆Zガンダムから“変形”を外したらどうなった? 量産化で消えた主役機らしさ
『機動戦士Zガンダム』に登場したZガンダム。可変機が数多く出現したグリプス戦役を象徴する機体で、エゥーゴのエースパイロットである、カミーユ・ビダンの専用機でもあります。
そんなZガンダムにも、量産化の計画がアナハイム・エレクトロニクス社で進められていました。それが量産型Zガンダムです。書籍『MSV The Second-Generation 1986-1993』によると、Zガンダムは可変モビルスーツとしてはもちろん、モビルスーツ形態時でも、非常に優れた戦闘力を持つ機体として評価されていました。アナハイム・エレクトロニクス社はこの点に着目し、Zガンダムの量産化を目指します。
量産化にあたり、本機では原型機の可変機構をオミットするという、大胆なコストカットが行われました。ほかにも、頭部のツインカメラやV字アンテナを廃止するなど、ガンダムらしいパーツはほとんどオミットされています。
結果、非可変モビルスーツとしては、本機は特筆すべき点のない平凡な機体として完成したようです。そのため、開発側からは百式や、その他の量産モビルスーツとのコンペに敗北しました。
性能は悪くはなかったものの、わざわざ可変機から非可変機へ、設計変更するまでの機体ではないと判断されたのでしょう。そして、計画は中止となり、数機が製造されるに留まりました。
それでも出力は、原型機にかなり近い性能を獲得しています。プラモデル『HGUC 1/144 ゼータガンダム』の説明書によると、原型機の出力は2,020kW。対して、書籍『MSV The Second-Generation 1986-1993』によると、量産型の出力は1,830kWと、原型機の約90%にも迫るパワーの獲得に成功しています。
このように計画が破棄された幻の量産機だったため、 アニメや漫画などでの登場は非常に少ないです。数少ない活躍が描かれた作品としては、漫画『機動戦士ガンダム U.C.0094 アクロス・ザ・スカイ』が挙げられます。
作中では、フレスベルグ隊に配備され、ペスコ・リンガ少尉によって運用されました。原型機譲りの高い推力で、空中でビームを華麗に回避しつつ、急速に接近して格闘戦を仕掛ける活躍を見せています。
◆ZZガンダムの火力まで量産しようとした? ハイ・メガ・キャノン搭載機の厳しい現実
『機動戦士ガンダムZZ』に登場した、ジュドー・アーシタの愛機であるZZガンダム。第4世代モビルスーツの中でも、破格の性能を誇る本機の量産化を目指したのが、量産型ZZガンダムです。
書籍『MSV The Second-Generation 1986-1993』によると、本機は量産型に伴って、整備が複雑化するコア・ブロック・システムを廃止しました。また、ZZの代名詞とも言える武装である、ハイ・メガ・キャノンは使用回数を制限した簡易版に変更しています。
ほかにも、ビーム・サーベルも小型化することで、汎用タイプのジェネレーターを採用できるよう模索していました。しかし、機体の出力不足を招いたため、汎用ジェネレーターの採用は見送られています。その結果、思うようなコスト削減には繋がらず、開発は中止され、製造は試作の4機に留まりました。
ちなみにオリジナルの機体はプラモデル『HGUC 1/144 ダブルゼータガンダム』の説明書によると、ジェネレーター出力は7,340kw。量産型のジェネレーター出力は2,210kwと、オリジナルの約3分の1程度となっています。
量産型Zガンダムや、量産型νガンダムがオリジナルの8,9割の出力を実現したことを考えると、かなり物足りない仕上がりといえるでしょう。
それでも頭部に搭載されたハイ・メガ・キャノンの威力は脅威的で、漫画『機動戦士ガンダム UC0094 アクロス・ザ・スカイ』ではサイコ・ガンダムを融解させるほど威力を見せました。
また、装甲もかなり厚く、作中では3機のモビルスーツから狙い撃ちにされたあとも、問題なく戦闘を続行しています。
──νガンダム、Zガンダム、ZZガンダムはいずれも、主人公の愛機として強い印象を残した特別な機体です。しかし、その性能を量産機として広げようとすると、コストや整備性、運用面の問題が大きな壁となりました。主役機の強さは、単に高性能なパーツを積めば再現できるものではなかったのかもしれません。
それでも、量産型νガンダムや量産型Zガンダム、量産型ZZガンダムには、軍が「ガンダムの力」を実戦の中で広く使おうとした野心が刻まれています。計画が頓挫したからこそ、これらの機体には正史の影に残されたロマンがあります。幻の量産計画を知ると、主役ガンダムの特別さも、また違って見えてくるのではないでしょうか。
〈文/北野ダイキ(ガンダム担当ライター)〉
《北野ダイキ》
『Real Sound』などで、アニメ・漫画を中心に執筆するライター。『アニギャラ☆REW』では、『ガンダム』シリーズの宇宙世紀作品をはじめ、モビルスーツの設定、外伝作品、関連書籍などを踏まえた解説記事を担当。定番の人気機体からマニアックな機体まで幅広く取り上げ、作品を見返すきっかけになるような情報整理を得意としている。
※サムネイル画像:BANDAI SPIRITS公式Webサイトより 『「MG RX-93 νガンダム(ニューガンダム)」 (C)創通・サンライズ』


