『アルプスの少女ハイジ』は、2024年でアニメ放送開始から50周年を迎えました。明るく朗らかなハイジと動物たちとの触れ合いや、周りの人たちとの交流を描いたこの作品は、今も多くの人に愛されています。しかし、実はアニメ化にあたって原作から大きく変更された点がいくつかあります。

◆ヨーゼフは「アニメオリジナルキャラクター」だった──アニメに登場した意外な理由

 担当プロデューサーだった中島順三さんが、スイスに関する情報を世界に発信しているWebサイト『SWI swissinfo.ch』の「「ハイジ」誕生秘話 制作者がロケ地スイスで語る」という20199月に配信されたインタビュー記事の中で、ハイジのおじいさんの相棒的存在である犬のヨーゼフが、原作に登場しないアニメオリジナルキャラクターであることを話しています。

 インタビュー記事によると、ヨーゼフは、「実はキャラクターグッズを売り出すためのアイテムとして誕生した」とのこと。つまり大人の事情だったわけです。

 原作は宗教色が強く、同インタビューで中島さんは「1つの宗教が良い、みたいな描き方はTVとしてはダメだったんです」と語っており、宗教色を排除した分、ヨーゼフをはじめとした動物たちとの触れ合いのシーンを多く追加したそうです。

 ちなみにヨーゼフ以外にも、アニメオリジナルキャラクターはいます。たとえば、アニメ第4話から少しの間だけハイジが飼育していた小鳥のピッチーも、原作には登場しません。

◆アルムのおんじは「人の命を奪った」ことがある?──若いころに好き放題生きた結果……

 ハイジのおじいさんはレギュラーキャラクターでありながら、原作・アニメともに本名が明かされていません。

 村人からは「アルムのおんじ」と愛称で呼ばれており、これは「アルムの山に暮らすおじいさん」という意味です。

 アニメでは、気難しく、村人たちとの交流を好まないおじいさんの過去はほとんど描かれませんでしたが、原作では詳しく語られています。

 原作によると、おじいさんは裕福な農家の息子として生まれ育ちましたが、気性が荒く傲慢な性格で素行が悪かったそうです。酒や賭博に溺れ、全財産を使い果たし家族も失ってしまいました。

 その後、ナポリで傭兵となり、ヨーロッパ中の戦場を渡り歩く生活を送りますが、ある日、ささいなケンカが発展し、相手の命を奪ってしまったという噂もあります。

 アニメ第1話でも、おじいさんが人の命を奪ったという噂が流れており、ハイジの叔母のデーテに対し、ハイジを彼に預けるのはやめたほうが良いと忠告するシーンがあります。

 子供向けのアニメだったため、おじいさんの過去は描かれませんでしたが、彼の気性の荒さは、アニメの随所に見られます。

 たとえば、アニメの第6話ではおじいさんが村人に対してささいなことで激高したり、パン屋の店主から値上げの報告を受けて「この店は夫婦そろってインチキをするつもりか!」と怒鳴りつけたりするなど、感情的になりやすい一面が描かれています。

 しかし、孫のハイジには優しく接し、感情的になることはほとんどありません。ハイジは、孤独だったおじいさんにとってかけがえのない存在なのでしょう。

◆原作のペーターは性格が悪すぎる?──クララの車椅子が壊れた本当の理由は……

 アニメでは、ヤギ飼いのペーターは明るく照れ屋な少年として描かれていますが、原作では違います。

 あまり同世代の友達との交流がないペーターは、仲良しのハイジがクララや動物などに気を取られているとつまらなさそうにしていることが多いですが、アニメ第45話では歩けないクララを背負って山のお花畑に連れて行くなど、優しく思いやりのある少年として描かれました。

 しかし、原作のペーターは、クララに嫉妬し、車椅子がなくなればクララは故郷のフランクフルトに帰るだろうと考えて車椅子を壊してしまいます。

 アニメにも車椅子が壊れるシーンはありますが、クララが誤って車椅子を壊してしまうという設定に変更されたと、20083月に出版された『BSアニメ夜話Vol.7 アルプスの少女ハイジ』(出版社:キネマ旬報社)で明かされています。

 原作では、ペーターは車椅子を壊してしまったことに対する罪悪感に苛まれ、最後は宗教的な免罪が語られます。宗教色を排除するため、変えざるを得なかったのです。

 その代わりにアニメでは、歩くことを諦めてしまいそうなクララの葛藤や苦悩に焦点を当てています。

 アニメ版を通して、自分の目標に向けて努力することの大切さが視聴者に伝わったのではないでしょうか。

◆クララはもっと前に立っていた?──彼女が最初に立ち上がった意外なシーンとは

 このアニメの最大の見せ場は、なんといっても苦労の末にクララが立ち上がる場面です。アニメ第50話の、ハイジが泣きながら「クララが立ってる!」と喜ぶシーンはとても有名です。しかし、実はその前にもクララは立っています。

 クララが初めて自分で立ったのは、アニメ第48話です。近づいてきた牛に驚いて、思わずパッと立ち上がったのでした。

 牛はそれ以上近づいてこず、力が抜けたクララはすぐ地面にへたり込むのですが、クララはなぜ立ち上がれたのか分からず混乱します。

 第50話の印象が強くハイジたちの前で初めて立ったと思われやすいですが、実はクララが初めて立ったところを見たのは、そのとき隣にいたクララのおばあさまだけです。

 

 ──感動的なシーンの多い『アルプスの少女ハイジ』ですが、レギュラーキャラクターがアニメにしか登場しなかったり、車椅子が壊れた経緯が原作とアニメで異なっていたり、子供向けにカットされたシーンもあるなど、原作から変更された点が多く、スタッフの苦労が絶えなかった作品といえるでしょう。

〈文/花束ひよこ〉

 

※サムネイル画像:Amazonより

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