<この記事にはTVアニメ・原作漫画『僕のヒーローアカデミア』のネタバレが登場します。ご注意ください。>
「オールマイトを超えるNo.1ヒーローになる」それは、爆豪勝己がずっと叫び続けてきた、たった一つの夢でした。しかし、死柄木との激闘の中、デクを庇い自らの命を懸けた瞬間、彼の夢の形は少しだけ変わってしまったのかもしれません。
◆“オールマイトへの憧れ”と“デクへの贖罪”──爆豪を突き動かす二つの原動力
爆豪というヒーローの原点を語るうえで、オールマイトの存在は欠かせません。幼い彼がテレビの前で目を輝かせたのは、どんな敵にも屈せず、圧倒的な力で「必ず勝つ」ことで人々を安心させる、絶対的なヒーローの姿でした。
彼の攻撃的な戦闘姿勢や、常に自信に満ちた態度のすべては、この「勝利による救済」というオールマイトへの純粋な憧れに基づいているといえます。
しかし、雄英高校にデクと共に入学したことで、彼の心にはもう一つの大きな感情が芽生えます。それは、過去の自分がいかにデクを傷つけ、その心を無視してきたかという、深い後悔と「贖罪」の意識でした。デクがワン・フォー・オールの継承者であるという秘密を知り、戦うことで互いの本音をぶつけ合い、雨の中一人で戦うデクに謝罪したあの日から、爆豪の行動原理は大きく、そして静かに変化していったのではないでしょうか。
それまでの彼が「自分が誰よりも強く、一番になること」だけを考えていたのに対し、そこに「デクを守り、支える」という、新たな使命感が加わったのです。それは、単独での勝利に固執するのではなく、デクという未来の希望を含めたうえで、チームとしての「勝利」を考えるようになった、彼の大きな精神的成長の証といえるでしょう。
当初の爆豪を動かしていたエンジンが「オールマイトへの憧れ」という純粋なものだったとすれば、デクへの「贖罪」という第二のエンジンが加わったことで、彼の目指す「No.1ヒーロー」の形は、より複雑で深みのあるものへと静かに変わっていったのかもしれません。
◆「俺がオールマイトを終わらせちまった」──爆豪が背負った“十字架”と“勝利”の意味
爆豪のヒーローとしての在り方を変えた、もう一つの出来事。それは「神野の悪夢」と呼ばれるヴィラン連合による拉致事件でした。
オールマイトが最後の力を振り絞り、宿敵オール・フォー・ワンを倒したあの戦い。世間はその勝利に熱狂しましたが、爆豪の心には重く苦い感情が刻まれます。「俺は……オールマイトを終わらせちまってんだ」。その強烈な罪悪感は、彼にとって一生背負うべき“十字架”となったと考えられます。
この経験は、彼の「完璧な勝利」への執着をより強固なものにしました。「もう二度と、自分のせいで誰かを犠牲にしない」。完璧に勝つことこそが、憧れのヒーローを引退させてしまった自分にできる、唯一の恩返しだと信じていたのではないでしょうか。
そして、その純粋な覚悟がもっとも強く表れたのが、蛇腔病院襲撃後の死柄木との戦いでした。戦場に飛び出した爆豪が、デクを庇いその身を投げ出した行動は、たんなる贖罪意識からだけではないのかもしれません。
彼にとって、ワン・フォー・オールの継承者であるデクを守り未来へつなぐことこそが、オールマイトの意志を継ぐことであり、何よりも優先すべき「勝利」だったといえます。この瞬間、爆豪の中で「自分がNo.1になる」という夢よりも「デクを活かし平和な未来を勝ち取る」という、より大きな目標がすべてを上回ったといえるでしょう。
爆豪にとって「勝利」とは、もはや自分が一番になることではなく、オールマイトから受け継いだ平和の灯火、すなわち「デクという希望」を守り抜くこと。それこそが、命を懸けてでも成し遂げなければならない、絶対的な「勝利」へと変わった瞬間なのではないでしょうか。
◆デクの“剣”、爆豪の“盾”──二人のNo.1ヒーローが築く未来
デクを守るために命を懸け、その中で「勝利」の本当の意味を見出した爆豪。彼の変化を踏まえれば、最終決戦後、彼がNo.1ヒーローの座をデクと争う未来は、もはや想像しにくいかもしれません。
爆豪は、デクこそがオールマイトの意志を継ぐ「No.1ヒーロー」であることを、誰よりも深く理解し、潔く認めるのではないでしょうか。しかし、それは決して自分の夢を諦めることではありません。デクが太陽のように人々を救い、希望を与える存在であるならば、自分は「影」として、あるいは「最強のNo.2」として、デクにはできないやり方で平和を守るという、新たな決意の表れだといえるでしょう。
デクは圧倒的な力と慈愛の心で、人々を真正面から助け、希望を与える「太陽」のようなヒーローになる可能性が高いといえます。彼が「平和の象徴」そのものとなる未来が訪れるでしょう。
一方、爆豪が選ぶ道は、まったく違う形の「平和の象徴」かもしれません。彼の荒々しい言動の裏にある鋭い洞察力と、完璧な勝利への執念。それらを活かし、ヴィランを根絶やしにし、人々が二度と脅かされない社会の「土台」を築くヒーローになるといえます。デクが「平和の象徴」そのものになるなら、爆豪は「平和な社会の仕組み」そのものを作る、まったく新しい形のヒーロー像といえるでしょう。
つまり、デクが「平和の剣」として突き進むなら、爆豪は社会の闇を徹底的に排除する「平和の盾」となるのではないでしょうか。そしてそれは、オールマイト一人では成し得なかった、次世代のヒーローの理想形なのかもしれません。
──爆豪が選ぶ未来。それは、デクを「光のNo.1」と認め、自らは「影のNo.1」として、二人で一つの「平和の象徴」を完成させる道なのかもしれません。
彼の生き様は、「No.1」とは単独の称号ではなく、最高のライバルと共に社会を支える「役割」でもあるのだと教えてくれます。デクと爆豪、二人のヒーローが並び立つ未来こそ、オールマイトが夢見た本当の「Plus Ultra」の姿なのではないでしょうか。
〈文/凪富駿〉
《凪富駿》
アニメ・漫画に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。特にジャンプアニメに関する考察記事の執筆を得意とする。作品とファンをつなぐ架け橋となるような記事の作成がモットー。
※サムネイル画像:バンプレストナビサイトより 『「僕のヒーローアカデミア THE AMAZING HEROES-PLUS-KATSUKI BAKUGO Ⅱ」(発売元:株式会社BANDAI SPIRITS) © 堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会』