『北斗の拳』のケンシロウのトレードマークといえば、胸に刻まれた七つの傷。かつての親友シンに裏切られ、愛するユリアを奪われた際につけられたこの傷は、ケンシロウの悲劇的な過去を象徴するものとして読者の記憶に深く刻まれています。しかし、原作者・武論尊先生が明かした真実は意外なものでした。
◆当初は「カッコイイから入れた」だけのファッション
七つの傷の真実は、作品30周年を記念して『北斗の拳』公式Webサイトで公開されたインタビュー「北斗語り VOL01武論尊」の中で明かされています。
インタビュアーが「あれって、最初は特に意味が無かったんですか?」とたずねると、武論尊先生はこう答えました。
「もう、完全なファッション。入れ墨やトレードマークみたいなもので。カッコイイから入れてくれって原作に書いてね。それを見ればケンシロウであることが分かるでしょ? 胸に七つの傷がある男と言えば、名前は出てこなくてもケンシロウなんだと」。つまり、あの七つの傷には当初、深い意味など一切なかったのです。ただたんに「ケンシロウを一目で識別できるビジュアル的な記号」として、カッコよさ重視で描かれたものでした。
では、シンがユリアを奪うためにケンシロウの胸に傷をつけたという重要なエピソードはどう生まれたのでしょうか。
武論尊先生は同インタビューでこう語ります。「そこにシンという重要な人物が登場して、理由が解き明かされる。ユリアを奪うためにシンがケンシロウの胸に傷をつける。あれを思いついた時『俺は天才か?』と思ったね。後付けのくせに完璧だぞって(笑)」。ユリアという女性キャラクターを登場させる際、胸の七つの傷に理由を与えようと考え出されたのが、シンによる「愛ゆえの裏切り」というドラマだったのです。
武論尊先生は『北斗の拳』について「本当に後付けだらけ」と認めています。「言葉の響きとしては悪いけど、それは先を考えなかったんじゃなくて、考える余裕が無かったんだよ。週刊だから」。毎週の締め切りに追われる週刊連載では、先の展開を細かく設定している余裕などありませんでした。原哲夫先生が「この先はどうなるんですか?」と聞いても、「俺も分かんないよ!」と答えるしかない状況だったといいます。
しかし武論尊先生は、「逆に、先を見据えて伏線なんて張ってたらダメなんだよね。ネタバレするんだよ」とも語っています。行き当たりばったりだからこそ、予測不可能な展開が生まれ、読者を引き込む物語が紡がれたのです。
──ケンシロウの七つの傷は、当初「完全なファッション」として描かれました。それがのちにシンとユリアの悲劇と結びつき、物語の重要な要素へと昇華された後付けであることを堂々と認めながらも「完璧だぞ」と語る武論尊先生の言葉には、週刊連載という過酷な環境で即興的に物語を紡ぎ続けた原作者としての自信と誇りが滲んでいます。
〈文/コージ〉
※サムネイル画像:Amazonより 『「北斗の拳」 第14巻 (ゼノンコミックス)(出版社:コアミックス)』


