北斗神拳は2千年近い歴史を持つだけあり、『北斗の拳』のストーリーや時代背景も奥が深いです。帝都や修羅の国の場所、ラオウを倒した後のケンシロウの動向など『北斗の拳』の謎について考察します。
◆『北斗の拳』の舞台は日本?
第1話でばらまかれたお札が聖徳太子の1万円札だったことから、『北斗の拳』の舞台は日本であるという説が有力です。
バットやサウザーなど外国人の名前と思われるキャラクターもいますが、ケンシロウをはじめリンやレイ、シンなどは日本人でも普通にいるネーミングとなっています。
KINGが「関東一円を支配する暴力組織」であると解説されており、日本語の文章が作中に登場していることからも物語開始時点での舞台は日本と考えて間違いないでしょう。
また、修羅の国や中央帝都の場所も明確には示されておらず所在地は不明です。しかし、『北斗の拳』のスピンオフ作品である『蒼天の拳』の設定は1935年頃の魔都上海となっています。
そのため、ラオウやトキ、ケンシロウの生まれ故郷とされる修羅の国は中国圏だと考えてよさそうです。北斗神拳が中国より伝わったという描写があることもそれを裏付けています。
しかし、中国大陸だとすると矛盾するのが、ファルコが海に沈む夕日を見ながら死んだこと、赤い水を一つの川に流すだけで全国にラオウ上陸が伝わるという発言です。
中国では太陽は必ず大地に沈みますし、一つの川によってラオウの上陸が伝わるならある程度狭いエリアだと推測されます。
そう考えると、修羅の国が台湾である可能性も生じるでしょう。ケンシロウが徒歩で修羅の国のほぼ全域を短期間に回っていることからも島だと考えるのが自然です。
ただし、『北斗の拳』の舞台は核戦争や地殻変動でかなり地形が変わっているとされています。そのため、海のような大きな湖や島のような大地が中国大陸に生まれている可能性もあるでしょう。
そして、ケンシロウがラオウを倒したあとの天帝編で登場する帝都は、その後の修羅の国につながる場所なので九州である説が有力です。シンが関東一帯を支配していたとなるとラオウの勢力からはある程度距離があったと考えられます。そのため、ラオウの支配地域を推測すると東海もしくは近畿地方あたりだったのではないでしょうか。
そして、ケンシロウとラオウが戦っている間に帝都の実質的支配者であるジャコウが勢力を伸ばすには、やはりラオウからある程度離れている必要があったと考えられます。
修羅の国が台湾であると考察するならば、帝都は九州あたりと推測するのが妥当なのではないでしょうか。
◆ラオウの息子のリュウの母親は?
ラオウにはリュウという名前の息子がいますが、この母親が誰なのかは明かされておらず謎となっています。リュウの母親として有力なのはリハクの娘トウ、ユリア、レイナの3人です。
トウは幼い頃からラオウに思いを寄せており、ユリア一筋のラオウといえど一夜の過ちを犯していないとは限りません。しかし、トウの母親説には一つ腑に落ちない点があります。
それは彼女がラオウの短剣を奪って、彼の目の前で自害するという凄惨な最期を迎えていることです。愛する男の子供を産んだのに息子を残して自ら命を絶つとは考えづらいため、トウが母親である可能性は低いでしょう。
『北斗の拳OFFICIAL WEB SITE』のVOL02武論尊インタビューで、リュウの母親については設定がないことが明かされました。そして、武論尊先生は「ユリアでもいいんじゃないかな?」とも発言しています。
確かにラオウはユリア一筋であり、彼女が母親であれば南斗の正統血統者の血も入るためストーリーの整合性もとれるでしょう。しかし、ラオウが力づくで女性を自分のものにするような男だとは考えられず、ユリアも無理やり純潔を奪われれば自害を選びそうです。
また、ラオウはケンシロウとの戦いで死亡しています。その後、ユリアはケンシロウと過ごしていましたが、病気で命を落としました。そのため、2人に子供を作る期間はなく、ユリアがリュウの母親である可能性も低いように思われます。
劇場版『北斗の拳 ~ラオウ伝 殉愛の章~』に登場したレイナは、ラオウの幼なじみという設定です。ラオウと一緒に過ごすことで、次第に彼に惹かれていきます。
また、ラオウもまんざらではなかったのか、お互い思わせぶりな態度を取るシーンが描かれていました。ユリア一筋なラオウであっても、幼なじみにはつい気を許してしまったのかもしれません。
原作のストーリーを考えるとやはりトウやユリアである可能性は考えにくく、レイナがリュウの母親である説を推す考察も多いです。アニメでの幼なじみ属性の強さには、ラオウでさえ勝てなくても不思議ではないハズ……。
ただ、人の心は些細な影響で常にたゆたうものであり、男女の関係ともあれば理屈では割り切れないもの。お互い魅力的な男と女であることも考えれば、候補者3人のどの女性との間で何かあったとしてもおかしくないのかもしれません。
◆ラオウを倒したあとケンシロウは何をしていた?
ケンシロウがラオウを倒してから、成長したリンやバットが登場する2部が始まるまでに10年ほどの空白期間がありました。この頃にケンシロウが何をしていたのかは、『月刊コミックゼノン』の2014年5月号(前編)と6月号(後編)に掲載されたスペシャルエピソード『我が背に乗る者』で描かれています。
彼は雲のジュウザの息子ショウザの村に身を寄せており、山にこもって病死したユリアの石像を一心不乱に彫り続けていました。最愛の人を失くして茫然自失、ラオウと戦ったときの気力や覇気はどこへ行ったのかという状態です。
ラオウやトキ、シンら強敵(とも)も次々と命を落として、自分だけが生き残ってしまった虚しさに包まれている様子でした。そのため、司刑隊長ダルジャ率いるX郡都の司刑隊が、村に侵攻して来てもケンシロウは動こうとしません。
そんな中、ショウザはラオウの愛馬だった黒王号とともにさらわれた子供を助け出そうとします。しかし、司刑隊の兵士との激しい戦いの果てに彼は命を落とすことになり、無言の帰還となってしまいました。
そんなショウザの姿と想い、黒王号の叱咤激励もあってケンシロウは失った心を取り戻します。ラオウの愛馬とジュウザの息子、かつての強敵(とも)の置き土産ともいえる存在がケンシロウの心に再び火を灯す展開は熱いです。
──北斗神拳は一子相伝の奥義とされていますが、『北斗の拳』の隠されたストーリーを深堀りすると、ケンシロウやラオウをはじめとした熱い男たちの想いが確実に後世に受け継がれていることが分かります。
〈文/諫山就 @z0hJH0VTJP82488〉
《諫山就》
アニメ・漫画・医療・金融に関するWebメディアを中心に、フリーライターとして活動中。かつてはゲームプランナーとして『影牢II -Dark illusion-』などの開発に携わり、エンパワーヘルスケア株式会社にて医療コラムの執筆・構成・ディレクション業務に従事。サッカー・映画・グルメ・お笑いなども得意ジャンルで、現在YouTubeでコントシナリオも執筆中。
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