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 『北斗の拳』のジャギですが、原作を注意深く読み返すと、読者の印象とはまったく異なる姿が浮かび上がってきます。ジャギはたんなる「やられ役」ではなく、物語全体を動かした「黒幕中の黒幕」だったのかもしれません。

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◆すべての元凶はジャギだった──シンをそそのかした真実

 多くの読者は『北斗の拳』のストーリーを「シンがユリアを奪い、ケンシロウが復讐する物語」として理解しています。しかし、原作第5巻「強敵たちの血の果てに!の巻」には、驚くべき真実が描かれています。「それでもいいのか!!おまえほどの男がなにを迷うことがある! 奪いとれ」そして、決定的なセリフ──「今は悪魔がほほえむ時代なんだ!!」。

 シンがユリアを奪ったのは、「ジャギにそそのかされた」からだったのです。原作には、ジャギがシンに囁くシーンが描かれています。

 このシーンの意味は極めて重要です。なぜなら、ケンシロウとユリアが引き裂かれたのも、ケンシロウが胸に七つの傷を刻まれたのも、すべてはジャギの策略の結果であり、物語の第1話から、実はジャギの影が潜んでいたのです。

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◆ジャギの恐ろしい計画性

 ジャギの策略は、シンをそそのかしただけではありません。

 まず、ジャギは各地でケンシロウの名をかたり、悪行の限りを尽くしました。これによってケンシロウの評判は地に落ち、人々はケンシロウを憎むようになっていったのです。

 さらに恐ろしいのは、ジャギが自らの胸に七つの傷を刻んだことです。ケンシロウになりすますため、自分の身体を傷つけるという異常な執念──。外伝作品『銀の聖者 北斗の拳 トキ外伝』で、ジャギに秘孔を突かれた部下が本音を話すシーンがあります。「弟のケンシロウに かっ 敵わねェから わざわざ自分の胸に 七つの傷まで こさえちまってよ」。この行為が、ケンシロウへの嫉妬と劣等感から生じたものであることが明かされているのです。

 そして極めつけは「俺の名を言ってみろ!」という恐怖の儀式でした。ジャギはケンシロウの名を無理やり言わせることで、被害者たちの心にケンシロウへの恨みを植え付けたのです。

 これらの行動は、すべてケンシロウを社会的におとしいれ、精神的に追い詰めるための周到な計画でした。たんに戦いで勝つのではなく、ケンシロウの存在そのものを否定しようとしたのです。

◆なぜジャギは「ザコ」扱いされるのか

 ジャギがこれほど重要な役割を果たしているにもかかわらず、なぜ「ザコ」扱いされるのでしょうか。

 原因は、やはり戦闘シーンでの圧倒的な敗北にあります。ケンシロウとの最終決戦では、マスクの中から含み針を吹き出したり、燃料に火をつけてケンシロウを倒そうとしたり、あらゆる手段を使いました。北斗神拳はもちろん、南斗聖拳まで使えたジャギでしたが、結局ケンシロウにはまったく歯が立たず、一方的に敗れ去りました。その姿があまりにも情けなく、視覚的インパクトが強かったため、ジャギの「策士」としての側面が見過ごされがちになったのです。

 しかし、原作者たちはジャギを決して「ただのザコ」とは考えていませんでした。

 原哲夫先生は公式Webサイトの「【作品中のキャラ紹介】vol.6 ケンシロウに対する憎しみに生きる ジャギ」というページで興味深いコメントを残していました。「ジャギは悪に徹するだけでなく、ギャグの要素も少し足しました。その結果、ジャギは『北斗の拳』に登場するその他大勢のザコキャラの中で、『ザコの頂点』とも言える存在になった」。

 つまり、ジャギは意図的に「ザコの頂点」としてデザインされたキャラクターだったのです。弱いけれど悪がしこく、憎めないけれど許せない──。そんな複雑な魅力を持つ存在として描かれていました。

 さらに興味深いのは、武論尊先生が「一番好きなキャラクター」としてジャギを挙げ、「自分と似ている」と語っていることです。原作者自身が最も愛着を持っていたキャラクターだったのです。

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◆ジャギの「敗者の美学」

 ジャギはたしかに弱い。北斗4兄弟の中で最も実力が劣り、正々堂々とした戦いではケンシロウにまったく歯が立ちませんでした。

 しかし、その弱さゆえに、ジャギは誰よりも人間臭く、誰よりも必死に生きたキャラクターでもあります。「兄より優れた弟など存在しねぇ!!」という叫びは、負け犬の遠吠えではなく、弱者の魂の叫びだったと言えます。

 そして忘れてはいけません──。『北斗の拳』という物語のすべては、ジャギの策略から始まったのです。シンがユリアを奪わなければ、ケンシロウは旅に出なかった。ケンシロウが旅に出なければ、トキやレイ、ラオウとの出会いもなかった。

 つまり、ジャギこそが『北斗の拳』という壮大な物語を動かした「最初の悪」であり、真の黒幕だったと考えらます。

 最期に、ケンシロウに敗れたジャギは言いました。「貴様にはまだ二人の兄がいることを忘れたか!」。このセリフもまた、物語を次の段階へと導く重要な伏線といえるでしょう。

 ジャギは弱かった。しかし、誰よりも物語に影響を与えた悪役だった──。それこそが、多くのファンがジャギを愛し続ける理由なのでしょう。

〈文/コージ〉

 

※サムネイル画像:Amazonより 『「北斗の拳【究極版】」第4巻(出版社:コアミックス)』

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