※この記事にはTVアニメ・漫画『北斗の拳』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・漫画『北斗の拳』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
「なぜ長老は北斗神拳を知っていたのか?」「ケンシロウはなぜあんなに衰弱していたのか?」──新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』を見て、そんな疑問を持った人は少なくないはずです。
実は、どちらの疑問にも原作の設定から導き出せる「それなりの答え」があります。
◆なぜ長老は「北斗神拳」を知っていたのか?
新作アニメでは、千葉繁さんが声を当て往年のファンたちを驚かせたリンがいた村の「長老」。そんな長老は、ケンシロウがジードたちに使った拳法をひと目見ただけで「北斗神拳」だと見破っていました。
北斗神拳は、作中や公式情報などでも解説されている通り、「一子相伝の暗殺拳」です。本来であれば、関係者にしか知られていない門外不出の拳法のハズ。
なぜ、一介の長老がその拳法を知っていたのでしょうか? 実はこれについては論理的な根拠があります。ここで重要人物となるのがリンの両親。原作の天帝編では、リンが天帝の血を引く人間だったことが明かされます。
天帝は、世に平安をもたらすとされる時代の英雄のことで、北斗宗家が代々守護するという重要な存在でした。もちろん、北斗宗家は北斗神拳を完成させた一族です。そんな天帝には世の中に1人という掟があり、双子として生まれたルイとリンは、片方しか生き残ることが許されなかったのです。
しかし、帝都の将軍・ファルコは無垢な赤子の命を奪うことができず、リンを自分の叔父夫婦に預けて逃がします。第1話でバットは「こいつは親兄弟を野盗に目の前でやられちまった」と発言していますが、その親こそファルコの叔父夫妻だったのでしょう。
そして、村に監禁されていたバットが内情を知っていたことから当然叔父夫妻は村にいたと考えられます。つまり、天帝の内情を知っていた叔父夫妻が、世話になった長老に北斗神拳の存在を聞かせたと推察できるのです。
◆なぜケンシロウは衰弱していたのか?
ケンシロウは冒頭から息も絶え絶えに水を求め彷徨っており、たどり着いた村では網の罠に対処できないほど衰弱していました。実は、ケンシロウが飢えによってここまで生命の危機に晒されている描写は後にも先にもこのシーンしかありません。
そんなケンシロウについて、1986年9月に発売された『週刊少年ジャンプ特別編集 北斗の拳 SPECIAL』(出版社:集英社)に掲載されているプロフィールを見ると、かなりすごいことが書いてあります。
たとえば、「絶食耐久力:3ヵ月間食べなくとも体力が衰えない」「睡眠耐久力:1週間寝なくても耐えられる」など、超人的な耐久力を持っています。このことから、ケンシロウが衰弱するのは生半可な事態ではないことがうかがえます。
そんなケンシロウがなぜ衰弱していたのか……、その理由として真っ先に思い浮かぶのが、3ヵ月以上の長期間飲まず食わずで、1週間以上不眠不休で彷徨っていた可能性です。荒廃した世界では、村から村への移動は簡単なものではありません。実際、車やバイクで移動している人間も多く描かれています。
しかし、ミスミのじいさんなど徒歩で移動する人間も登場していますし、作中ではこれ以降ケンシロウが旅の長さで飢える描写はありません。
そこでもう一つ考えられる理由が、精神的にも追い詰められた状態だった可能性です。詳しい経過時間は明かされていませんが、このときのケンシロウは、時系列的にシンに敗れ、婚約者のユリアを奪われた後であることは間違いありません。
友人だと思っていたシンの裏切り、無敵と思っていた北斗神拳の敗北、言わされたとはいえ婚約者が他の男を「愛している」と叫んだ絶望……。これらはいかに屈強な肉体を持つケンシロウにとっても大きな精神的ショックを与えたことでしょう。
しかし、後に判明しますがこのときのケンシロウはシンへの復讐心と執念を身につけていました。つまり、精神的なショックを克服している状態だったとも推察できます。そうなると、やはり原作では描かれなかったほどの過酷なルートを通って、肉体的に極限状態だった可能性の方が高いのかもしれません。
◆ミスミのじいさんの種モミは本当に実るのか?
今際の際に「この種モミは実らせてほしい。頼みます」とケンシロウに託し、命を落としてしまったミスミのじいさん。命がけで集めた種モミはケンシロウの手により無事に蒔かれます。しかし、なんと蒔いた場所はミスミが眠る墓の上でした……。
「そんな所に撒いたって実るわけねえだろ」と言ったバットの疑問は当を得ています。むしろ子どもの頃に稲作を体験した人なら誰しも思い当たる疑問かもしれません。
なぜなら、種モミを育てるには水が必要不可欠だからです。しかし、作中の描写を見る限り乾いた土の上に蒔いており、普通に考えたら自然に発芽する見込みは少ないでしょう。
しかし、「久しぶりに人間に会った」とまで評したミスミの最期の願いをケンシロウが無下にするとも思えません。少し野暮な気もしますが、果たして実らせる根拠はなんだったのでしょうか?
ここで注目したいのは、ミスミが村を代表して種モミを探し回っていた点です。まず、種モミを探すということは、あの村には事前に稲作ができる環境が整っていたと考えるのが自然でしょう。
また、村人たちがただ待っていたとも考えにくいのです。万が一ミスミが種モミを持ち帰った場合に備え、最低限稲作を始められるくらいの準備をしておくのが普通でしょう。
そして環境を整え、準備ができるということは、言い換えれば稲作の知識を持った人たちがあの村には揃っていたと捉えられます。
そもそもミスミの性格から、命懸けの旅に出たのは老い先短い自分が危険な役を買って出たからではないでしょうか。そんな人間が村人たちから尊敬されないはずはありません。実際、ミスミが帰還した際には村人たちが総出で出迎えていたようにも見えます。
そして、その様子をケンシロウは見ていたのです。「尊敬されるミスミの墓なら、きっと村人たちも粗末に扱うことはないだろう」、そういった「人間」たちの絆を信じて、ケンシロウは墓上に種モミを蒔いたのかもしれません。
余談ですが、1991年3月に発売されたファミコン版RPGゲーム『北斗の拳4 七星覇拳伝 北斗神拳の彼方へ』では、ミスミの墓の周りに畑ができており、ケンシロウが蒔いた種モミが実っている描写があります。
──「後付け」設定が多いと言われる『北斗の拳』ですが、今回のような素朴な疑問を入口に掘り下げてみると、意外なほど物語の細部がつながっていることに気づかされます。
完璧な整合性がなくても、キャラクターたちの行動や感情には一本筋が通っている。それが、時代を超えて愛される理由の一つではないでしょうか。
〈文/fuku_yoshi〉
《fuku_yoshi》
出版社2社で10年勤め上げた元編集者。男性向けライフスタイル誌やムックを中心に、漫画編集者としても経験を積む。その後独立しフリーライターに。現在は、映画やアニメといったサブカルチャーを中心に記事を執筆する。YouTubeなどの動画投稿サイトで漫画やアニメを扱うチャンネルのシナリオ作成にも協力し、20本以上の再生回数100万回超えの動画作りに貢献。漫画考察の記事では、元編集者の視点を交えながら論理的な繋がりで考察するのが強み。最近では、趣味で小説にも挑戦中。X(旧Twitter)⇒@fukuyoshi5
※サムネイル画像:アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』公式サイトより 『「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」第1話 場面写真 (C)武論尊・原哲夫/コアミックス, 「北斗の拳」製作委員会』


