※この記事には漫画『HUNTER×HUNTER』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事は漫画『HUNTER×HUNTER』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
強敵を求め続けるヒソカが、肝心な場面で姿を見せないことがあります。キメラアントが猛威を振るっていた時期に不在だったのはなぜか、シャルナークとコルトピを手にかけた真意は何か──その行動をていねいに追っていくと、たんなる「バトルジャンキー」では片づけられない、緻密な計算が浮かび上がってきます。
◆キメラアント編で不在だったヒソカの「居場所」
NGLにキメラアントが出現した時期、護衛軍という強敵との戦いを渇望していたはずのヒソカは、なぜかその場に現れませんでした。実はこのころ、ヒソカはクロロの後を追い続けていました。
しかしクロロは万全の準備が整うまで逃げ続けており、再戦の機会はなかなか訪れません。その結果としてヒソカは、キメラアントという強敵との邂逅も逃すことになりました。
やがてヒソカはクロロを追い続けることの限界を感じ、ハンター協会会長選が始まると今度は十二支んをターゲットに切り替えることを検討し始めます。強敵と戦う機会を得るため、イルミにマネージャーを依頼しようとさえしていました。
もしそのプランが実現していれば、キメラアントとの対決も夢ではなかったかもしれません。幻影旅団との戦いぶりから推測すれば、兵隊長クラスには余裕で対応できたでしょう。護衛軍との対峙がどんな結末を迎えたか、気になる読者も少なくないはずです。
◆シャルナークとコルトピを狙った「計算された復讐」
天空闘技場でのクロロ戦に敗れた後、ヒソカはシャルナークとコルトピの命を奪います。この行動の裏には冷徹な計算がありました。クロロに念能力を貸していた2人を手にかけることで、クロロに負い目を感じさせ、自分への復讐に駆り立てるというねらいです。
クロロとの一戦で、相手の得意な土俵では勝てないと悟ったヒソカ。再戦を挑んでも逃げられるか、仮に実現したとしても相手は十分な準備を整えた状態で臨んでくるでしょう。
ならば、クロロに自ら動く理由を与えてしまえばいい──それがヒソカの発想でした。旅団員の命を奪えばクロロは報復を命じるはず。しかも、クロロに能力を貸していた2人であれば、その効果は絶大です。
実際、ブラックホエール号内で幻影旅団はヒソカの追跡に躍起になっており、クロロ自身も自らの手で決着をつけることに強い意欲を見せています。
なお、冨樫義博先生は0巻の一問一答で「クラピカと幻影旅団はどうなるか」という問いに「全員死にます」と答えています。ヒソカとの激闘が、その伏線になっている可能性は十分あります。
◆ゾルディック家でなくイルミを選んだ理由
暗黒大陸編でヒソカはイルミに「自分を狙え」という依頼を出しています。しかし最初からゾルディック家全体に依頼していれば、シルバやゼノといった強者と早い段階で戦えた可能性もあります。なぜヒソカはそうしなかったのでしょうか。
ゾルディック家は任務達成のためなら手段を選びません。キルアの言葉からも、彼らは標的の行動を徹底的に観察し、隙を突いて仕事を完遂する集団だと分かります。つまり、常に万全のヒソカを相手にしていれば、いつまでも動かない可能性があります。さらに相手が強ければ強いほど、クロロ戦のようにゼノとシルバが組んで対処する可能性が高く、1対1の戦いを望むヒソカの希望とは合いません。
では、ブラックホエール号でのイルミへの依頼はどう解釈できるのでしょうか。考えられる可能性は3つあります。
1つ目は、船内という閉鎖空間ゆえの特性です。一方的に待ち伏せされるだけでなく、ヒソカ自身がイルミを見つけて仕掛けられる状況でもあります。また、幻影旅団のメンバーがヒソカをねらって動いているため、待機中のイルミにとっても好機が生まれやすい環境です。
2つ目は、ヒソカが一度死んで蘇ったことによるパワーアップです。死後強まる念の効果で復活したヒソカは、以前より強くなっている可能性があります。95点と評価するイルミにカルトが加わっても十分に楽しめる、むしろそのほうが面白い戦いになると考えたのかもしれません。
3つ目は、イルミへの「裏の依頼」の存在です。ヒソカがかつてイルミにマネージャーを依頼しようとした経緯を踏まえると、幻影旅団への潜入を通じてクロロとの1対1の再戦をプロデュースさせる密約がある可能性も否定できません。ヒソカを標的とする依頼と並行して、イルミが旅団内に入り込んでいるとしたら──それはまさにスパイ的な動きです。
ヒソカがクロロに勝てばイルミとの対決へ、逆に敗れても依頼は達成という構図が成り立ちます。
◆ハンターライセンスにこだわった本当の動機
ハンター試験の最終試験前にネテロとの面談で、ヒソカはハンターになりたい理由として「人の命を奪っても免責になりやすいから」と答えています。ただ、最大の目的はクロロとの再戦でした。
幻影旅団への潜入もクロロとの戦いが目的でしたが、その後クロロはハンターライセンスがなければ入れない国や地域に巧みに逃げ込み、追跡は行き詰まります。そこでヒソカはライセンス取得を決意しました。
1年目は2次試験の試験官を瀕死に追い込んで失格。2年目も試験官のメンチに闘志をむき出しにしながら、さすがに2年連続同じ失敗は避けたいと自制し、戦いに持ち込もうとメンチを挑発しながらも先手は打ちませんでした。
メンチが試験官としての責任感から応戦しなかったおかげで合格を果たし、さらにゴンやキルアという将来有望な逸材とも出会えました。ヒソカにとっては「うれしい誤算」だったといえるでしょう。
──ヒソカはウボォーギンと同じ好戦的な性格でありながら、そのアプローチはまるで異なります。自分を100点として、強敵には自ら向かい、80点前後の相手には恨みを買わせて自分をねらわせる。その計算高さゆえに、行動パターンは複雑に映ります。
ブラックホエール号は、ヒソカが自ら仕掛けることも、逆にねらわれることも同時に成立する空間です。クロロとの再戦、イルミとの戦い、旅団員との乱戦──あらゆる要素が絡み合うその舞台は、ヒソカにとってこれ以上ない「戦場」といえるでしょう。
〈文/最上明夫〉
※サムネイル画像:Amazonより 『DVD「HUNTER×HUNTER」Vol.5(販売元:バップ)』

