※この記事にはTVアニメ・漫画『北斗の拳』のネタバレが含まれます。ご注意ください。
※本記事はTVアニメ・漫画『北斗の拳』に関するライター個人の考察・見解に基づくものであり、公式の設定や見解とは異なる場合があります。
ユリアを守るはずの南斗五車星は、なぜサザンクロスを強く責めなかったのでしょうか。シンが築いた街は、ユリアにとって苦しみの象徴でもありました。それでも五車星が沈黙した背景をたどると、南斗の複雑な関係が見えてきます。
◆南斗五車星が残した違和感
風のヒューイ、炎のシュレン、山のフドウ、雲のジュウザ、海のリハクという5人の拳士で構成される南斗五車星。彼らは、「南斗最後の将」であるユリアの守護星であり、将の永遠の光のためならその命を賭しても構わないという宿命を背負っているのです。
実際、メンバーの1人であるシュレンは自らの命をかける理由をラオウに問われた際、「将の目を涙にくれさせぬためだ」といってその命を散らしていました。
このことから五車星の忠義は、ユリアの命だけでなく、彼女の幸福すべてを守っていることが分かります。一方で、サザンクロスは虐げられた人々の上に作られた街で、ユリアが涙するほど耐え難いものであり、彼女の主義に反する存在でした。
そしてこれ以上の不幸を生み出さないためにも、「生きてくれ」というケンシロウの願いを振り切って、ユリアはシンの居城から身を投げてしまうのです。そんな主人の命を救ったのがサザンクロスに現地入りしていた五車星たちでした。
ここで注目したいのは、五車星は確実にサザンクロスの内情をその目で見ており、ユリアの主義に反する街だと分かっていた点です。「将の永遠の光」のために命を賭す五車星は、立場上黙っているわけにはいかないハズ。
したがって、落下の衝撃で気絶していたユリアに代わり、五車星がシンに苦言の一つでも呈するのかと思えば……結果的にはなんのお咎めもなくただユリアを連れて帰ると宣言しただけでした。
忠義に厚い五車星にしては、少々違和感が残る場面といえるでしょう。
◆五車星たちが抱えるジレンマ
そもそも五車星はシンを非難できる立場ではなかったとも考えられます。なぜなら、過去に五車星たちも「暴力」を容認していたからです。
たとえば、山のフドウはかつて「鬼のフドウ」と恐れられた悪漢でした。当時のフドウは人の命の重さを知らずに育ったゆえ、「命は蛆虫のように湧いて出てくるもの」だというかなりズレた価値観を持っています。
実際、北斗の寺院で行われたリュウケンの弟子たちとの戦いでは相手の命まで奪っており、その残虐ぶりにはラオウですら恐怖を覚えていました。
また、ジュウザに関しても五車星の責務を放棄して無頼漢となっていた過去があります。そして過去は明かされていませんが、ヒューイやシュレンも、フドウたちのように最初から善人ではなかったかもしれません。ちょっと失礼ですが、人相も悪いですし……。
しかし五車星たちは、その後ユリアと出会いそれぞれ改心していきます。それでも、自分たちの犯した過ちと重ねてしまい、うまく言葉にできない葛藤があったのかもしれません。
◆南斗聖拳の厳格な体制
さらに南斗聖拳の伝承者と五車星たちの少々複雑な関係も背景にあったことでしょう。まず、南斗聖拳は108派の流派が存在しますが、その中でも頂点に位置するのが「南斗六聖拳」と呼ばれている6つの流派です。それが次の通りになります。
・南斗孤鷲拳:宿星は殉星、伝承者はシン。
・南斗水鳥拳:宿星は義星、伝承者はレイ。
・南斗紅鶴拳:宿星は妖星、伝承者はユダ。
・南斗白鷺拳:宿星は仁星、伝承者はシュウ。
・南斗鳳凰拳:宿星は将星、伝承者はサウザー。
・南斗正統血統者:宿星は慈母星、継承者はユリア。
そして、1986年9月に発売された『週刊少年ジャンプ特別編集 北斗の拳 SPECIAL』(出版社:集英社)によると、南斗五車星は南斗の流れはくむものの、108派の流派には含まれていません。その上でユリアに仕えている関係から、他の五聖拳のメンバーも彼らにとって格上の存在となっているのです。
事実、作中ではユリアを迎えに行った際、リハクたちはシンにひざまずいていますし、シュウに対しても「シュウ様」と敬称をつけていました。
こうした力関係から、五車星がシンに対して口答えができる立場になかった可能性が考えられます。さらに、五車星がサザンクロスを訪れた際、ラオウの侵攻という予断を許さない状況でした。あの場には軍師として名高いリハクもいたので、同士で亀裂が入るような話題を避けるという高度な政治的判断を下した可能性もあるでしょう。
◆シンは「善人」だと知っていた
新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』を見ていると忘れてしまいそうですが、シンはもともとケンシロウの良き友人で悪人ではなかったのです。シンがユリアを強奪した原因も、ジャギの口車に乗せられただけだったことがのちに判明しています。
実は、1984年に放送された旧アニメ『北斗の拳』では、シンがKINGとなって以降も、部下に無差別な略奪や弱い者への暴力を禁止していた描写があります。ご存知の通り、あまり守っている人間はいませんでしたが……。
さらに旧アニメでは、ユリアの付き人にサキというオリジナルキャラクターが登場します。彼女はあるとき、軟禁されていたユリアの脱走に協力するのですが、シンはサキを罰しませんでした。それどころか、サザンクロスで戦闘が起きる危険性があったためわざわざサキを故郷に送り返してあげたのです。
確かにシンはサザンクロスを作る際に非道を働きましたが、そのすべては純粋にユリアへの「殉愛」のためでした。五車星も「敬愛」と愛の形は違えども、シンと同じようにユリアを愛しています。
もしかしたら、南斗五車星たちはそんなシンの過去や想いを知っていたからこそ、サザンクロスのすべてを悪だとは断じなかったのかもしれません。
──『北斗の拳』オフィシャルウェブサイトに掲載されているアクセスランキングでは、第1位にジュウザ、第11位にフドウがランクインしており、南斗五車星の人気ぶりが見てとれます。
果たして新作アニメでは、五車星とシンのやり取りはどう描かれるのか、今から注目してみるのも面白いかもしれません。
〈文/fuku_yoshi〉
※サムネイル画像:アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』公式サイトより 『「北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-」第4話 場面写真 (C)武論尊・原哲夫/コアミックス, 「北斗の拳」製作委員会』


