『ハウルの動く城』には、映画制作の段階で変更になった意外な設定や、作中で語られなかった裏設定がいくつもあります。

◆絶望したハウルから出たドロドロは「セロリのソース?」

 ソフィーが風呂場の棚を整理したことが原因でハウルのまじないがめちゃくちゃになり、ハウルは髪色がオレンジになってしまい「もう終わりだ。美しくなかったら生きていたって仕方がない」と絶望します。

 ソフィーの慰めの甲斐もなくハウルは闇の精霊を呼び出し、体中からドロドロの液体を放出しますが、このドロドロの正体にはちゃんと設定があります。

 200411月に徳間書店から出版された『スタジオジブリ絵コンテ全集 14 ハウルの動く城』によると、その正体は何と「セロリのソース」でした。

 ハウルとセロリとの特別な因果関係の設定はないようですが、同書籍にははっきりと「青いねばねば(セロリのソース)がたれている」と、絵コンテのメモに書かれています。

 また、風呂場から慌てて出てきたハウルが「ソフィー、風呂場の棚いじった!? 見て!! こんな変な色になっちゃったじゃないかー」とソフィーに問いただす場面で、ソフィーはとっさに「何もいじってないわ。きれいにしただけよ」と返しますが、絵コンテでは「(本当はいじった)」と書かれています。

 どちらも映画のシーンに大きな影響はなさそうな細かい設定ですが、宮崎駿監督をはじめスタジオジブリの作品に込める強いこだわりを感じる裏設定だといえるでしょう。

◆ソフィーの末妹はハウルに「心臓」を食べられた?

 映画にはソフィーの肉親として母親のファニー、妹のレティーが登場しますが、実はもう1人、「マーサ」という三女の妹がいます。作中には登場しておらず、マーサは「ハウルに心臓を食べられた女の子」の名として噂話があるだけで、ソフィーを荒野に送り届けた農夫が言われたという「中折れ谷に末の妹がいる」というセリフの真偽、安否すらも不明です。

 原作の『魔法使いハウルと火の悪魔』では、ソフィーらの父・ハッターと最初の妻の子がソフィーですが、ソフィーが2歳のときに彼女は他界しており、映画に登場するファニーは後妻で、レティーとマーサはソフィーにとっては異母姉妹です。

 次女のレティー、三女のマーサはそれぞれ菓子店、魔法使いの見習いの職に就いたとされていますが、実は魔法によってお互いの容姿を入れ替え、すり替わっており、マーサはハウルの恋人であるマイケルと恋人同士でした。

 映画ではソフィーの家族関係について深く掘り下げるシーンはなかったものの、登場した母・ファニーと妹・レティーが金髪で美人と容姿がそっくりなのに対し、ソフィーはあまり似ていないなど血縁関係についても、それとなく伝わるように描かれています。

 また、三女・マーサについても、魔女との関わりを感じさせるように話の中に登場させており、家族設定はおおむね原作通りであったことがわかります。

 そうなると、ハウルについての「美女の心臓を喰らう魔法使い」という噂も、原作では彼の弟子・マイケルが流したものだったので、マーサがハウルに心臓を食べられたという話も、ただの尾ひれがついた噂だったと考えてよさそうです。

◆ハウルとソフィー、実は歳の差カップル? 後妻の母・ファニーと父親は略奪婚!?

 物語を経て恋人となるソフィーとハウルですが、見た目では分からないものの実はそこそこ年齢が離れた「歳の差カップル」です。

 お婆ちゃんになる呪いをかけられたソフィーは、寝ているときや感情の起伏によって作中で何度も容姿の年齢が変動しますが、設定ではまだ18歳です。

 それに対し、ハウルは居城の部屋は散らかり放題だったり、髪の色が変わっただけで絶望したりするなど、精神的に幼い部分が多く、まるで少年のように描かれていますが、実は既に27歳という設定です。

 まるで母親のようにしっかり者で落ち着きがあり、大人びた考えを持つソフィーが、少年の心を持つハウルよりも9歳も年下だったことは、設定を知らないファンにとっては意外な真実でしょう。

 また、次女・レティーは17歳、三女・マーサが15歳という設定ですが、ソフィーが2歳のときに前妻が他界。その後、父親は後妻・ファニーと再婚したとされていますが、前妻との夫婦期間に既にファニーはレティーを身ごもっていたことになります。

 見た目が派手で映画では娘であるソフィーを敵に売るような冷酷な一面を持つ母・ファニーですが、ハッターとの結婚も、実は略奪婚だったのかもしれません……。

◆かかしのカブ、実は呪いが解ける設定は無なかった?

 作中では、何かとソフィーを助けてくれるかかしのカブですが、原作の『魔法使いハウルと火の悪魔』では、設定にかなりの差がありました。

 映画では、実は魔法で姿を変えられていた隣国の美しい王子で、エンディングではソフィーのキスによって無事に元の姿に戻ったものの、ハウルとの仲を想い、心変わりを待つと言い残して戦争終結に向け、国へと帰って行く何とも紳士な王子でした。

 しかし、実は原作にこの設定はなく、ただ執拗にソフィーを追いかけ回すただのかかしでしたが、動画チェック担当の舘野仁美氏によるアイデアにより、最初は宮崎駿監督から却下されていたものの、最終的に採用され「実は王子だった」という設定が加えられたと、20255月に出版された『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』(出版社:中央公論新社)によって明かされました。

 かかしのカブの追加設定は、作中でもとりわけ女性らしい夢や希望が込められた設定だったといえるかもしれません。

 

 ──作中では描かれない血縁関係や、ちょっとした小道具に至るまで、細かい設定がなされている映画『ハウルの動く城』。

 本作が世代や時代をこえて愛されているのは、こうした緻密な設定も一つの要因といえるのかもしれません。

〈文/lite4s

《lite4s》

Webライター。『まいじつ』でエンタメ記事、『Selectra(セレクトラ)』にてサスペンス映画、韓国映画などの紹介記事の執筆経験を経て、現在は1980~90年代の少年漫画黄金期のタイトルを中心に、名作からニッチ作品まで深く考察するライター業に専念。 ホラー、サスペンス映画鑑賞が趣味であり、感動ものよりバッドエンド作品を好む。ブロガー、個人投資家としても活動中。

 

※サムネイル画像:『「ハウルの動く城」場面写真 © 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT』

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